蔵王と駒ヶの潜入
その後、蔵王のおかげで城にたどり着いた。
近くから見てもその迫力は凄まじく、いかにも魔王が住んでいる感が溢れていた。
もうここまで来たら逃げ帰るなんて真似はできない。
駒ヶは不安な感情を押し殺す。
覚悟は決まったのだ。
「よし、入るぞ」
巨大な門の前に蔵王が立つ。
すると、門はまるで来客を待っていたかのように不気味な音をたてながらゆっくりと、その口を開ける。
その門に蔵王は何の驚きもなく入っていった。
「なぁ、魔王の居場所をどうやって知るつもりなんだ?
暗殺なら余り行動はしない方が良いと思うんだが」
駒ヶは蔵王を追いかけながら、これからの作戦を聞き出そうとしたのだが……。
「魔王がいるのは 復活の間 という場所だ。
そこに魔王が眠っている。安心しろ、位置は分かる」
蔵王は何の心配もいらないとばかりに、返答すると、今度は城の大扉を開いた。
その先はとても長い廊下だった。
蔵王が先頭になって進む中で、駒ヶはこれまでの事に疑問を持っていた。
こんなにも簡単に城内に侵入出来ていることに違和感を感じるのだ。
なので、黒い壁と蒼白い松明に覆われた藍色のカーペットの廊下を歩きながら、駒ヶは周囲の警戒を怠らない。
それに対して蔵王は、何も起こらない事が分かっているかのように平然と廊下を歩き続けている。
もちろん、二人とも足音はたてていない。
ちゃんと暗殺に必要な行動はとっているのだ。
しかし、これほどまで静かなのは逆に不安だ。
ただ蒼白い松明が燃えている音と、呼吸している音しか聞こえない。
すると、蔵王は道の真ん中でいきなり立ち止まった。
そこにあったのは分かれ道。3方向に伸びる道。
蔵王はその選択に迷わず左の道を進み始めた。
その決断力の速さにますます駒ヶの疑いは晴れない。
まるで適当に進んでいるかのような決断力の速さだが、逆に彼は既に知り尽くしているという可能性もある。
まぁ、魔王の居場所を突き止められるくらいだから、城内の造りくらいは理解していたのだろうか。
駒ヶがそんな事を考えているとも知らずに、蔵王はひたすら歩き続けていた。
ある時は右に曲がり、またある時は階段を下りる。
そんな事を繰り返していると……。
しばらくして、鉄製の扉の前で蔵王は立ち止まる。
「この扉は復活の間の2階に繋がっている。
伝説を築く準備はできたか?
駒ヶ回斗」
この扉の先に魔王がいる……………。
蔵王の発言は俺の心に重くのしかかってきた。
俺たちは本来とは違う。暗殺によって魔王を討つ。
少し罪悪感は残るかもしれないが、魔王の討伐としては上出来だろう。
俺は深呼吸をすると、蔵王に向かって1度頷く。
蔵王はそれを待っていたかのように、蔑む笑みを浮かべると、ドアノブを回した。
そして、目の前に現れたのは魔王ではなく真ん中が吹き抜けになっている部屋。
俺達が入った部屋はその2階部分であり、1階部分には何らかのカプセルだけがひとつ。
そのカプセルの中には謎の緑色の液体に包まれた人がいた。
それ以外は何もない殺風景な部屋である。
すると、そのカプセルを指差して、蔵王は説明をしてくれた。
「あのカプセルはバイオ団の作り上げた強化カプセル。
あの中にいれば復活までの時間が長ければ長いほど強くなる。
知力も体力も付喪神を支配する支配力も、魔法を扱える魔力も……。簡単に言えば、復活を待つ間に勝手に強化してくれるマシーンだ」
「じゃあ、あれが魔王?」
謎の液体に包まれた少女。
予想では魔王は奇妙な人外か、魔物的な化け物だと思ってはいたが。
目の前にいる魔王は普通の少女に見える。
眠っているのだろうか。しかし、あの格好は……。
「──あれは余り見せられないものだな。少年にはまだ早い」
「てめぇ、俺はもう成人してるんだぞ」
蔵王の戯言に付き合ってしまった。
駒ヶもう一度、気合いをいれる。
俺たちは今からあの少女を殺す。
そして、世界を救う勇者となる。
例え、相手の姿が人間だろうと……。
せっかく、覚悟を決めていたのだが…この空気の読めないクズ野郎は、
「では、私はこのまま2階にいるとしよう。
駒ヶ回斗が殺し損ねた時のためにな」
なんて、不吉な事を言ってきたのだ。
この男は俺の腕を嘗めているのだろうか。
「俺は世界を救うためなら、どんな事でもやってやる。誰も死なずに世界が救えるんだ。
それなら、俺は勇者に……いや、救世主として生きていく」
そう言って一階へと降りた俺に向かって蔵王は、蔑むような目付きをして、
「どんな事でもフフッ」
銃を構えながら微笑していた。
駒ヶは一階に飛び降りる。
改めて周囲を見てみると、誰かがいる気配はない。
一階には駒ヶと魔王?しかいないのである。
「悪く思うなよ。世界の平和の為だ」
たくさんの恐怖を罪無き人々に与えた魔王の7代目。
今から目の前にいる普通の少女を殺す。
今からカプセルの中で復活を待っている少女を殺す。
その魔王への一歩一歩が重い。
魔王から出てくるどす黒いオーラが全身を震えさせる。
駒ヶはこれで改めて確信した。
目の前にいるこの少女が魔王。
駒ヶはカプセルの前まで来ると、鞘から剣を引き抜く。
駒ヶは世界を救う救世主として、平和という言葉の象徴として、勇者として……。
何十億人という未来ある命を……生きる命を救うため。
暗殺という駒ヶの嫌う殺り方で、負の連鎖を終わらせる。
彼は今、この瞬間から英雄になるのだ。
「『終幕・泣斬馬謖』」
そうして、駒ヶはカプセルの中身に向かって技を放った。




