突き刺され!!五円ソード
「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
奴との間合いに近づけた瞬間、俺は剣先を伸ばし奴の体の中心に向ける。
もちろん、その距離から逃げる事はできない。
そして、追い討ちをかけるようにもう一度、地面を蹴る。
その勢いからか、最初よりも剣先が奴の体に突き刺さり…。
「…………!?」
「刺さった!?
そのまま貫通しろォォォォ!!!」
奴の体に五円ソードが刺さる。
やはり、勢いをつけて突き刺すのは良い策だったのだ。
だが、これだけでは終わらない。
「『五円ソード 金』」
五円分のエネルギーを全て使って思いっきり押し込むと……。
どうやら、最初に突き刺さったおかげか、元々穴だらけなおかげか、一発で奴の体を突き通す事ができたのだ。
「……!?」
その現象に驚いて逃げようとする付喪神。
だが、俺は奴の足を踏んで逃げる事ができないようにする。
「じゃあな。殺人鬼」
俺はそう言って奴に別れを告げると、突き刺さったままの剣を思いっきり振り上げる。
その結果、スポンジの付喪神の上半身がまっぷたつになり、奴の中身が明らかになった。
俺は剣を消して、五百円モードを解除する。
それと同時に地面に倒れた付喪神は、ピクピクと痙攣すると、静かになってしまった。
戦いは終わった。
目の前に転がっている死体は、何年も何人も殺してきた殺人鬼の哀れな姿。
「ふぅ…………」
俺は空を見上げてため息をつく。
これでやっとみんなが平和に生活できるのだ。
今回の付喪神は少し厄介な敵だったが、こうして見ると、形が変なスポンジである。
しかし、二度目でやっと勝てたのだ。
ここまでの敵は初めてかもしれない。
そんな事を考えていると、向こうの方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい、君。大丈夫かい?」
「明山さーん。生きてる?」
どうやら、派遣された部隊の隊員達と黒が心配して迎えに来てくれたようだ。
その先頭では黒が手を振りながら向かってきている。
きっと、黒があいつらに状況を説明してくれたのだ。
「ああ、大丈夫だ。付喪神は倒した。
見てくれ。こいつがこの国を騒がしていた殺人鬼………………」
振り向くと、そこには上半身がまっぷたつになっていた付喪神の死体がなかった。
ブジュッ……!!!!
「ギュジャァァァァ………」
気味の悪い音と共にアスファルトの地面は赤く染まっている。
すでに隊員のうち、二人が殺られてしまったようだ。
「全員、構えろ!!」
隊長格らしき人物の瞬時な判断により、全員が銃を構える。
「なんで?
上半身が裂けていてもまだ動けるというのか?」
俺は目の先に映っている光景を信じる事ができなかった。
「撃て撃て撃てぇぇぇぇ!!!」
隊長格らしき人物の命令により、隊員達は付喪神に向かって銃弾を撃っている。
しかし、全てふわふわのボディーに弾かれてまったく効果がない様子だ。
やっぱり奴には銃弾などの武器も効かないようだ。
その時、スポンジの付喪神は自身の手に握っていた何かを隊員達に投げつけていく。
目には見えないほどの小さな何かを……。
「なんだ?
あいつは何を投げたんだ?
嫌な予感がする。何か嫌な予感が……」
これまでの行動から見ても、それは何か意味のある行動だった。
銃弾でよろけて手が動いた…というものでは絶対にあり得ない。
その時、嫌な予感が的中した。目の前で倒れる二人の隊員。
奴が体内に入ってもいないのに、一人、また一人と倒れていく隊員達。
目の前で繰り広げられていく殺害方法を俺は理解することができなかった。
「これはいっ……フガッ」
「これはいったい?」と言おうとしたところ、黒が白いハンカチを使って俺の口と鼻を塞いでくる。
「しゃべらないで。
これは空気感染的な奴だと思うわ。
きっと小さくしたスポンジを風にのせて……」
なるほど、それならばあの手の動きも説明がつく。
俺たちの様子に気がついた隊員達も、マスクを着け始めた。
これで安心、全員が死ぬ事はないだろう。
なんて、のんびり考えている場合ではない。
何とかして策を考えなければいけないのだ。
「───明山。ここは私に任せなさい」
黒はハンカチで口を覆いながらそう言った。
彼女には名にか策があるのだろうか。
俺は黒を信頼することに決めて、彼女に向かって頷いた。
すると、黒は空に片手を伸ばして、何か呪文を唱え始めた。
「フッ…グ…グ…フッ…フッ…フッ…」
ハンカチで口を覆いながらなので、何を言っているのかはよく分からないが、ちゃんと言えているのだろう。
黒が呪文を唱えると、雨雲もないのに急に雨が降り始めた。
原理は分からないが、魔法なのだろうか。
雨は銃を無駄にする代わりに、付喪神にも降り注いでくれた。
「そうか、雨が当たれば空気中を浮いているスポンジも…奴も動きが鈍くなる」
地面にはサッカーボールくらいの大きさのスポンジが大量に落ちている。
水分を吸って大きくなっている。
これが体内に入ってこようとしていた事が恐ろしい。
すると、黒は口を覆っていたハンカチを取って、俺に話しかけてきた。
「どうよ。これでもう体内に入ってくる心配はないわ」
「流石だな。黒!!」
今回ばかりは誉めてやらなければならない。
だが、それは全てが終わってからだ。
俺は周囲を見渡して、水分を吸った奴を探さなければならない。
「あいつはどこに消えた?
あのまっぷたつになったあいつは?」
たくさんのスポンジが転がっている中で、まっぷたつになったスポンジを探すのは簡単なはず……。
…だったのだが。
「どういうことだ? 見あたらない」
地面に落ちていたスポンジ全てを何度確認してもまっぷたつになったスポンジ見つからないのだ。
「逃げられた?」
まさか何度見ても見つからないのだ。
「……逃げられた。逃げるな!!!
逃げるな。逃げるな。逃げるな。
チクショォォォォォォォォォ!!!」
スポンジの付喪神に逃げられた後に残ったのは、殺人が起きて人数の減った派遣された部隊と、黒と俺だけであった。




