妙義家の家庭事情
「……って、娘よりも企業が大事かぁぁぁ?
お父様?」
その時、突然襖を開いて和室に入ってくる者が……。
彼女は怒りを抑えながら、妙義のお父様の前に立つ。
妙義のお父様は恐怖に震えて、彼女に説明を始めた。
「聞いてくれ。鈴従ちゃん。
私はただ鈴従ちゃんの彼氏が将来会社を継ぐべき男を見極めていただけで………」
「なんで、私と明山が付き合っているって話になっているんだ?」
妙義そう言いながらお義父さんをにらみ続けていた。
その表情を見て、彼は更に震えている。
顔色は真っ青で今にも発狂しそうだ。
「すまない、ちょっと席を外させてくれ」
彼女は俺に笑顔で言うと、お義父さんの腕を掴み奥の部屋へと入っていった。
しばらくの間、和室に一人で待たされていると……。
襖が開き、妙義とお義父さんの姿が……。
「───今、娘から話を聞いたよ。
ほんとにすまなかった。私も少々焦っていてね。
君を信じなかった私が馬鹿だった」
「いえいえ、気にしないでください。
僕もやっと誤解が解けて嬉しいですよ。お義父さん」
「明山、その……私のお父様にお義父さんと言うのはちょっと」
二人は俺の前に来ると、座布団の上に座った。
「いや~、今回も娘が黙って誰かと付き合っていると思ってしまい…。
お見合いは断るくせに…なんて考えてしまいまして……。もっと、ちゃんと話を聞いておれば良かったのですがね」
「いえいえ、娘と企業どちらも考えなければならないなんて大変ですよね」
「そうなんだよ。わが社は軍需産業でなっていてな。早く後継者を探して隠居したいんだよ」
そうやって話している俺たちを見て安心したのだろうか。
妙義は座布団から立ち上がると、「じゃあ、私は帰りを送って貰えるように頼んでくるから」と言って和室から出ていってしまった。
「そんなに気を使わなくても良いのに」と思っていると、妙義の親父はその様子を観察しながら……。
「やっぱり、気になっているのか?」
「いえいえ、それは……」
少し頬が赤くなりながらも、俺はそう答えた。
すると、妙義の親父には気づいた事があるらしく。
話題を変えて今度は、俺の腕についての質問をしてきた。
「なぁ、その腕のシミは?」
「ああ、これは鍵の獲得候補者ってのに選ばれた証らしいです。このせいでいろんな奴に狙われて大変なんですよね」
俺がそう答えると、妙義の親父は急に真剣な顔つきになって態度を変えてきた。
「それは君の人生を変えるモノだ。世界を救い、世界を壊す、そんなモノの可能性の鍵だ。どんなに恐ろしい兵器や武器とは違う」
「はぁ?」
「君はいずれその正体を知ることになる。ん? あいつから何も聞いてないのか?」
あいつとは誰だろう。
この鍵穴のシミについて詳しいものでもいるのだろうか。
「あいつとは?」
「そうか。まぁ、良い。この話は止めよう」
何かを隠しているのは明らかだったが、妙義の親父はそれ以上は鍵の獲得候補者について語ろうとはしなかった。その代わりに妙技家について語ってくれた。
「鈴従ちゃんには実はな、兄がいたんだ。
幼い頃、娘はいつも兄に付いて回っていた。
だがある日、私の最愛の母が死に……。兄はそのショックから家出をしてしまった。
それからというもの、母も兄も失った彼女は、他人とはあまり関わらないようになったんだ。
そのどうなのかな?
鈴従ちゃんのバイト中は?」
「とても、しっかりとしていますよ。みんなに頼られるし、元気もいい。たまに怖いけど……頼れる年上って感じですね」
やはり親としてはバイト先の様子なども気になっていたのだろう。
「そうか、それなら良かったよ。今日はいろいろとすまなかったね。じゃあ、そろそろだろうか。いいか?
この部屋を出て、右に廊下を渡って角を右に曲がって階段を下りた先に鈴従ちゃんがいるはずだから。
それじゃあね。これからも鈴従ちゃんの事を頼んだよ」
何か慌てているようであったが、俺は妙義の親父の言うことに従うことにした。
俺は襖を開くと、「では、お邪魔しました」と言って部屋を出ていった。
────────────
窓の外からはヘリコプターが飛び立つ音が聞こえる。
もうあの小僧は出発してしまったのだろうか。
「まったく、妙義ちゃんの彼氏でなかったからよかったが」
これでやっと静かに過ごせると思い、お茶でも飲もうとした時、再び電話がかかってきた。
私は再び電話を手に取ると、電話相手が話を始めた。
「どうだった?」
通話相手は自身の名前も言わずに彼に話しかけてきた。
しかし、名前など言わずとも彼には通話相手が誰かは理解している。
「まったく、貴様はもう少しきちんと教えてやればよいのだ。
あの小僧は無知ではないか」
「そっちはいずれ彼自身が気づく。それよりも性格の方だ」
「そうだな。金にがめつくてだらしない。しかし、もう貴様の所から来た差し金と知った時は殺してやろうか…と考えたぞ」
私はそう言うと思わず受話器を握りしめてしまった。
そいつはそう言ってはくれるが罪はない。
罪があるのは、あの時のあいつだ。
あいつが私の家族がバラバラになってしまうキッカケを作ったのだから。
「それはすまないと思っている」
「気にするな。君のせいではない。あれも定めだったのだろう。まぁ、最初に娘が黙って通い出した時は、不安でどうしようと思ったが。あの小僧からの話では良くやっているそうじゃないか。安心したよ」
「彼女は良い子だからね。
だからこそ、彼らをあの戦いに巻き込ませるわけにはいかなかったんだが。私はね。あの彼こそが政剣の意思を継いでいると思うんだ」
私にはそうは思えなかった。
政剣の意思をあの小僧が継ぐなんて、出来ないだろう。
だが、あの小僧からは彼とは別のモノを感じたのだ。
「それはないな。貴様の目は節穴になったか?
あの小僧は世界を救おうとした悪役というよりは主人公だろ?
平穏を願う主人公だ」
「フッ、確かにそうかもな」
「それで?
私にあの小僧をただ見せただけではないのだろう?」
「ああ、君には軍……いや、警察?
とにかく、君の所の部隊を送ってほしい。
まずは不道を討つために……」
「フフーッン、任せておけ」
私はそう言うと電話を切って先程飲めなかったお茶を飲み出した。




