お義父さんとは呼ばせない
とるるるるん。とるるるるん。ガチャッ。
ここは数市にある高級住宅。
とある一室に電話のベルが鳴り響く。
彼はその受話器を取って電話の相手と話を始めた。
「はい、あっ、お前か。おい、あいつはお前の差し金だな。どういうつもりだぁ?
なっ、それは、お前本当か?
しかし、いい加減にしてほしいな。
私は別に構わないが。ああ、分かった!!」
そう言って彼は電話を切ると、辺りを見渡して周囲に人がいなかったかを確認し始めた。
そして、安全を確認すると何もなかったかのようにその電話を後にした。
奥の部屋から戻ってきた彼は襖を閉めると、側にいた男を睨み付けながら座布団の上に座った。
「いや~、あの妙義は……妙義さんは?」
「私の娘を貴様のような軟弱者に会わせるわけにはいかんのだ。
私だって早く後継者を探したいが……。娘の彼氏として私は貴様を認めるわけにはいかない!!!」
どうやら、やはり勘違いされているようだ。
俺は妙義の彼氏ではないのだから。
しかし、この妙義の親父は俺が付き合っていると勘違いしているようだ。
どうして、こうなったかと言うと……。
あの商店街で現れたヘリコプターはどうやら妙義を心配して送ったものらしく。
妙義を迎えに行く妙義家の専用のヘリのようだ。
彼女が親父に黙って墓参りに行った事で、俺はその戦犯(彼氏)として認識されている。
それだけならまだ挽回の余地はあったのだが。
この妙義の親父はまったく人の話を聞かないのだ。
「だから、俺は妙義さんと付き合っていません。ただボディーガードを頼まれただけで……」
「ほぉ、それで、餡蜜屋にねぇ~」
こいつ、完全に疑っている。
最初から怪しいと思っていたんだ。
この高級住宅に着いた後、店主と妙義とは別行動にされた時に早く気づいていれば……。こんな和室に俺と妙義の親父だけとは……。
すると、妙義の親父は俺に話題を振ってくる。
「なぁ、知り合って何年になる?」
「えっと、半年以内だったかな」
「嘘をつくな!!
どうせ1年以上前からだろ。
1年…1年…1周年以上なんだろ?」
どうやら、俺のあやふやな発言に妙義の親父はイラついてしまったようだ。
やってしまった。俺としての出会った期間を言ってしまった。
確かに、明山があいつとどのくらい知り合っているかなんて知らない。
というか、この妙義の親父はどんだけ首を突っ込んで来るのだろう。これ以上は耐えれそうにない。
何とかして誤解を解かなければ……。
「あのですね。俺は妙義さんとはお付き合いしてません。それじゃあ、これで」
そう言って俺は座布団から立ち上がってこの部屋から出ようと考えていたところ。
妙義の親父はスッキリしたような表情を浮かべて最後まで俺に嫌みを言ってくる。
「そうだ、帰れ帰れ!!
私の軍事企業の次期社長は、上級貴族階級しか見合わない。
貴様のような貧乏人は必要ないのだ」
当たり前だ。
こっちだって帰りたくてうずうずしてたんだ。
この妙義の親父とはもう関われない。
そうして、俺は振り返り部屋を出ようとしたのだが。
待てよ。美人…後継者…軍事企業…社長。
最初の台詞からしても、この妙義の親父は早く社長をやめたいのだろうか。
だから、会社を継いでくれる後継ぎを欲しがっているのか。…となれば取るべき行動は一つだ。
「お義父さん、もう一度 僕にチャンスをください。
僕は過去に何度も魔王軍幹部と戦い、勝利を納めてきました。
あんな奴らよりも、娘さんも会社も安全を保障できます。
あいつら、金で解決しようとしますからね~。
今の世は実績ですよ」
「そうだな。それでも、貴様はダメだ」
これほどの実績がありながらも、何故ダメなのだろうか。
俺にはまったく理由が分からないのだ。
やはり、先程のやり取りで嫌われてしまったのだろうか。
すると、ため息をついた妙義の親父は熱弁を始めた。
「いいか?
この都市は百年も前は普通の町だった。
しかしある日、一人の男が異世界より舞い降りた。
さまざまな近代的技術を伝えにな。
彼は武器や道具、兵器や乗り物等を伝えてくれた。
そうして、この都市は数年でここまで進歩したのだよ」
なんだろう。いかにも語りたいオーラがあふれでている。
それに異世界という言葉にも俺は耳を傾けてしまった。
俺以外にも過去にこの世界に来た奴がいたのだろうか。
そんな奴が来て普通の町をここまで近代的にしたのなら、そいつはチート持ちか、チート付喪人なのだろう。
武器だって、兵器だって、日用品だって……。
今や、その大半は数市が生産元らしいのだ。
つまり、そいつの偉業は凄まじい物である。
「その近代的技術に溢れた町で貴様は今までのように暮らせるか?
日々、技術が進歩して変化する物事。歯車の一つでも欠ければ崩れる企業。貴様にはそんな都市で生きる自信があるか?」
驚異的な技術力。
他の都市とは世界観が違う町。
近未来感溢れるこの都市。
確かに、この都市で生きてきた者からの想いは重かった。
「私の娘と付き合うのは、私の後を継ぐ事は……。そういった責任と変化に対応しなければならない。
生半可な者が手を出す世界ではないのだ!!」
「なッ………」
俺は何を考えていたのだろう。
後継者になれば金が手に入るなんて、欲望を持って挑む事ではなかったのだ。
この都市の歯車となって、自分の命を燃やす。
俺にはその覚悟が足りなかったのだ。




