お墓参りに行きたい
早速、車に乗り込むとドアは閉められ、車は急発進し始めた。
「しかし、驚いたよ。お前がこんな車に乗ってくるなんて……」
「何と言うか。私の父が金持ちだというだけで……。その、みんなには……」
水色のパーティードレスを着た妙義は少しだけ赤面し、うつむきながら答える。
俺は、この彼女が今まで隠し通してきた事を言いふらしたかったが、流石に彼女が泣いてしまうと思い、その計画を実行しようとは思えなくなってしまった。
きっと彼女にも何かしらの考えがあっての事だったのだろう。
こんな事なら知らないままの方が過ごしやすかったのだが、知ってしまったものは仕方がない。
「まぁ、別にいいけど。なぁ、どうして今日は俺を呼びつけたんだ?」
早速、本題に入ることになる。
秘密をバラすような真似までして俺を呼びつけたのには何か理由があるはずである。
妙義は深呼吸を行って、少しだけ間を空けると本題に入った。
「実はな。まぁ、見ての通り私は金持ちの父を持つ娘だ。
私には母がいてな。
もう私が覚えていないほど前に亡くなったんだ。
だが、最近の父は忙しそうで、毎月行っていた墓参りには2人で行けそうにない。それに私が勝手に行ったら、怒鳴られてしまう。
だから、明山に付き添いとして来て欲しいんだ。
魔王軍幹部を何人も相手にしてきたお前ならボディーガードとしても優秀そうだからな」
「はぁ、しょうがねぇな」
母のお墓参りに付き添って欲しい…という願いは断るにも断りにくかった。
俺も自分の母には感謝しているし、尊敬しているからだ。
しかし、「彼女は勝手にお墓参りに行っても大丈夫なのだろうか」と心配にはなるが、きっと彼女の父も分かってくれるだろう。
俺がそんな事を考えていると、妙義は少し微笑んでいる。
「どうした?
俺の顔になんか付いてたか?」
「いや、長い間待たせたようだから、不機嫌じゃないかな…と思って見てただけだよ」
自覚しているならもっと早く来て欲しいものだ。
俺はふと今まで聞いてみたかった事を聞けるチャンスなのではと思い、話題を作ろうと見せかけて彼女に質問してみる事にした。
「なぁ、そういえば、ずっと思ってたんだけど。
馬車が主流の都市と、車が主流の都市があるじゃないか。あれって何で統一しないんだ?」
「それはな。この国は王都を囲むように円みたいに、いくつかの都市によって構成されているだろ?
その都市はそれぞれ特徴を持っているんだ」
特徴と言えば、
歴史ある和風な都市の社市。
モンスターや外国との交流が盛んな都市の英市。
自然豊かで、野生のモンスターとかもいそうな都市の理市。
都会と田舎の中間くらいで、付喪神に詳しい都市の国市。
…などの様な事だろうか。
俺がそんなそれぞれの町の特徴を頭に浮かべながら考えていると、妙義は再び話を再開し始めた。
「だから、その都市ごとの特徴を尊重するために統一はしないんだ。市を愛している市民もそれには同意している。
だから、馬車が主流の都市もあれば、車が主流の都市もあるんだよ」
その場所の特徴を守る、市民も同意している。市民たちの何と素晴らしい愛市心だろうか。
自分の色に染まりきって、それ以上大胆に染まらないというのは難しい事だとは思う。
しかし、この国はそれをやってのけてしまったのだ。
俺はこの世界…の住民を少し侮っていたようだ。
俺がこの世界の事に感心していると、妙義は窓から外の景色を見る。
「さぁ、そろそろだ。」
妙義がそう言ってしばらくすると、車は急に止まった。
「着いたのか?」
外に出ようとする妙義を見て、窓の外を覗いてみるとそこはお寺だった。
妙義はドアを開けて地面に降りると、運転席の方へと歩いていった。
俺も車から降りると、運転手と妙義はまだ話をしている。
なんの話をしているかはここからじゃ聞こえないが、真剣そうに話をしているので呼び止める事も難しそうだ。
今日だけでも待たされるのは2回目だったが、今度は先程よりは話し合いが早く終わったらしい。
妙義は運転手のもとを離れてこちらに向かって歩いてきているのだ。
「すまない、待たせてしまった。それじゃあ着いてきて……」
そう言って彼女は俺の片腕を掴むと、その手を引っ張ってお寺の中へと向かうのであった。




