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素晴らしき思い出(narou)

 さて、3人は席に座り思出話を妙義のために語っている。

既に話し始めてから2時間。

妙義は彼らの出会いからずっと聞かされているのだが………。

こんなに時間が経っても客が1人も来ないというのは、妙な話である。

だが、兄妹はそんなこと気にせず、思出話にふけていた。


「……って所に行ったり、途中で付喪神に襲われたりで大変だったね」


「そうそう、その時ヨーマがさー」


「あっ、その話は駄目だよ!!

別の話!!別の話にしよ?」


英彦とマオの会話に思う所があったのか、ヨーマは慌てて話をそらそうと努力している。


「分かった分かった。じゃあ、古本屋のじいさんから貰った謎の地図の話でもしよう。これならヨーマも文句はないよね?」


「まぁ…それならいいですよお兄様。

えっーと、あれは確か。

付喪神に襲われた古本屋さんを助けた時に、地図を貰ったんですけど、目的の場所には行けなかったんですよ」


「そうだったそうだった。我もあのときは幼かったなー。

確か、我が途中で野球がしたいって言い出して、ヨーマがアイスを食べようってアイス屋に寄って、英彦っちが休憩したいって言ったんだったね」


「結局、僕たちは時間が足りずにそのまま終わっちゃいましたね。あの時は僕には親戚から門限が決められてましたから………」


するとふと、その地図の事が気になってきた。

3人共、途中でやめて家に帰ったら、すっかり地図の事なんて忘れてしまったのだ。


「「「結局あの地図はなんだったんだろう…???」」」


だが、今はない地図の事を考えても何も思い付かない。


「なるほどなー」


すると、妙義は3人の楽しそうに会話している姿を微笑ましく思いニヤケながら話を聞いていた。


「絶対分かってないでしょ?

もー、妙義。我達がせっかく聞かせてあげてるんだから、ニヤケないでよー」


マオは少しムスッと頬を膨らませながら、妙義を見つめる。


「いや~すまない。聞いてるから続けてくれ」


妙義はそう言っているが、顔がニヤケてしまっている。

3人の思出話は簡単には言い表せないが、ゆるくて穏やかでふわふわとしていて平和なのだ。

日常漫画をそのまま語っている様な話ばかりで、漫画でも書けば売れることは間違いないだろう。



 そんな彼らの思出話を少し離れて聞いている者が1人。それは店長である。

お店はなかなか客が来ないので料理の下準備だけを済ませて、彼らを見に来たのだ。

彼はすっかり店に馴染んでしまったウサギを手に抱き、ゆるい思出話に耳を傾けている。


「英彦君。いい友達がいたんだな。ん?」


店長はウサギさんに話しかけるような小声でふと呟く。

まるで何か気づいたことがあるようだ。

すると、マオは店長がこちらの話を聞いているのに気づき、こちらを見ているのは仕事中に雑談が長すぎた事を怒っているからだと思い込んでしまったようで。


彼はチラッと店長の顔色を伺った後、


「あっ、店長……!! ごめんなさい仕事中に………」


しかし、店長に怒りなど微塵もなく。

むしろ、笑顔で彼に声をかけた。


「いや、続けてくれてて構わない。お客様を笑顔にする事も店員としての大切な仕事だからね。それじゃあ、皆あまり遅くなりすぎないようにね。Bye for now.」


店長はかっこいいスマイルを見せつけ、軽いニュアンスで別れを告げると、2階へと登っていった。

その様子を見送る4人。

英彦がふとヨーマ達を見ると、彼らは目をキラキラとさせて興奮しながら店長を見送っていた。

まるで魔法にでもかかったかのようだ。


「店長……かっこいい。惚れたよ男として。我はこれからもここで働くよ」

「私も……かっこいいって思ったよお兄様。妾もここで働きたい」


その容姿と顔からかっこいいとは思うが、流石に今の台詞は恥ずかしくないか。

……と英彦は思ったのだが、2人の様子を見て驚いてしまった。


「最高だ店長。騎士として敬意を評するよ」


妙義も目をキラキラとさせ店長の後ろ姿を見送っていたのだ。

ここまで、店長への評価がいいと何も思わない自分がおかしいのか……と思ってしまう。


「これ? 僕がおかしいのかな?」


自分の価値観を疑いながら、英彦は3人の事を不思議に思い始めていた。




 その後、しばらくして4人が店を出ると辺りはすっかり夜になってしまっていた。


「早いなー。もう夜だよ」

「お兄様、私お腹すいちゃったよ」


先に店を出たヨーマとマオは、別れの挨拶を言うために2人が外へ出てくるのを待っている。

3番目に店を出た妙義は、腕を伸ばし背伸びを始めた。

最後に出てきた英彦は、ふとアイディアを思い付いたような表情を浮かべて……。


「あっ、2人共、僕の友達に2人の事を伝えてもいいかな?

その人もバイト仲間だし………。」


英彦は2人の顔色を伺いながら、申し訳なさそうに呟く。

彼は再会した2人の友達を明山に紹介したいと思っているのだ。


「えっ? 英彦に我たち以外の友達がいたの?

あっ、じゃあ出血大サービスで電話番号もつけちゃおっか」


マオは英彦の何かを察したのか、ニヤニヤしながら英彦に自分の電話番号を書いたメモを手渡す。


「いいアイディアだよお兄様。じゃあはい。妾の電話番号です」


ヨーマも英彦の何かを察したのか、ニコニコしながら、英彦に自分の電話番号を書いたメモを手渡す。


「あっ、2人ともありがとう」


英彦は恥ずかしそうに受け取ったメモを見ながらお礼を口にする。




  さて、兄妹達は英彦にメモを手渡すと、2人で手を繋いで英彦と妙義に別れを告げる。


「それじゃあ、我たちはこれで………。じゃあな英彦っち達」

「またね。じゃあね英彦っち達」


2人はそう言うと手を振りながら、英彦と妙義の元を離れていった。

英彦と妙義と別れた後。

マオとヨーマは2人だけで夜の道を歩いていく。


「ねぇ~お兄様。私、帰ったらスパゲッティが食べたいんだけど。いや、ハンバーグかな。それとも、おうどん?」


ヨーマは甘えた声でマオに向かって、今晩の夕食の希望を伝えている。


「駄目だぞヨーマ」


しかし、マオはヨーマの要望を冷たく断った。


「そんな~」


拗ねるヨーマ。

だが、マオもヨーマを悲しませるために断ったつもりなどない。

彼は妹の事を愛しているのだ。それでも、現実は辛いものだ。


「はぁ、我だって食べさせてあげたいけど無理なのは分かってるだろ?


今のお前は肉体がないんだから」




「はぁ…もうあれから何十年かな。早く霊体をやめて妾の肉体が目覚めないかな?

もう生霊状態は辛いし、だんだん外に出れる時間が短くなってきてるし……」


どうやら、彼女は生霊状態で、肉体を持っていないらしい。


「そのために我達は頑張ってるんだから。 すぐにでも自由に外に出れるようにしてやるからな」


「ありがとうお兄様、そういえば英彦っち達には気づかれなかったね」


ヨーマはふと英彦達の事を思い出して、悲しそうに呟く。


「1年間も盟友してたのにね。ちょっとガッカリだなー。久しぶりに再会しても気づかれなかったしー。嬉しいような悲しいような。そんな感じだよ」


マオもまた気づかれなかった事に少しショックを受けているようだ。


「もし妾が生霊だって知ったら怒るかな?

いや、妾達の行為を知ったら怒るかな?」


自分達の秘密を隠していることに悪気はないようだが、やっぱり隠しているという事は悪いとは思っているようだ。


「英彦っちもきっと分かってくれるさ。我らの目的の大切さを……」


それでもマオは英彦の事を信じていた。

いつか伝える日が来たら伝えよう……と思っている。

すると、ヨーマはあることを思い出したようだ。


「うんそうだよね。そういえば、あの店長…うっすらと妾の事を勘づいてたね。腕のいい奴もいたものだね」


店長の姿を思い出し、感心するヨーマ。


「でも、人間でいう虫レベルではないことは確かだ。レベルでは犬とかじゃないかな?

いい魂なんだけどなー。流石に英彦っちの居場所は奪っちゃいけない」


惜しいことをした様な表情を浮かべて、ガッカリとするマオ。


「でも、お兄様。油断しちゃダメだよ。店長…意外と厄介かもしれない。お兄様って油断しすぎることがあるから」


「ヨーマも気を付けろよ。お前はいつも運が悪いんだからさ」


2人は互いの欠点を言っていたことに気づき。

なんだか、それが面白くなったようだ。


「「ワハハハハハハハッ…!!!!」」


2人の笑い声が夜の町に木霊していった。

町は今日も平和な1日を無事に過ごしたのだ。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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