お目覚めはお祝い会と共に
「はっ!?」
俺は狭い部屋に寝かされていた。ここはたぶん付喪カフェだろう。
最初は病院の病室で寝かされていたのだが、付喪カフェに運び出されたのだろうか。
窓の外から射し込む日差しがまぶしく感じる。
久しぶりに日差しを浴びたようなそんな気がする。
俺はなつかしさを感じていた。
そして、ゆっくりとベッドから降りる。
「戻って来たのか? さっきのは夢?」
見るからに世界が破壊されてもいない。
カレンダーは俺が病室から消えた日から3週間くらいを示している。
「生きてる。はっ!! あいつらは?」
安心したら急に英彦達の事が心配になったので、俺はドアを蹴破って皆を探しに出かける事に決めた。
「おっ、皆、明山が生き返った!!!」
駒ヶの喜びの叫びと共に俺の視界に入ってきたのは……。
無事に生きている皆と、俺の写真が添えられた仏壇。
「お前らバカじゃねぇの!?」
俺はここまでこいつらに驚かされた事は初めての経験であった。
「やぁ、明山君。やっと起きたんだね」
「店長…これはいったいどういうことですか?」
皆で俺用の仏壇を片付けていると、店長が久しぶりに俺に話しかけてきてくれた。
なぜこうなったのかが気になり、店長に質問してみると……。
「実は、大悪魔が討伐されてから急速に例の殺人鬼の事件が増えたんだよ。
だから、1ヶ月前に君達が外で怪我だらけで倒れている時は恐ろしかった。
てっきり殺られたと思っててね。
なにせ、発見時は君が行方不明になって数週間後の事だから」
その表情からは、とても大変だったんだろうという事が分かる。
店長が少し嬉し涙を浮かべているのが、その証拠である。
すると、今度は妙義が俺に近づいてきて、その時の状況を伝えてくれた。
「ああ、確か黒なんて大泣きしちゃってたな。お前は特に出血がひどくて、体力も衰えていたから。衰弱死に向かって突っ走っているって感じだったよ。
黒の奴、英彦とお前に必死に回復魔法をかけていた。
そういえば、お前が一番最後だぞ。
英彦と男は次の日には目を覚ましていたんだ」
「ちょっ、私の話はいいじゃない。
それよりも生きてたんなら、ちょうど良いタイミングだわ。お祝い会を開かないと」
そう言って黒はせっせと店内の飾りつけを始めている。
それほど、俺が生きていた事が嬉しいのだろう。
黒も少しは俺の事を尊敬するようになったのかもしれない。
俺は少し気恥ずかしくなり、黒に遠慮するように言った。
「そんな、俺にそこまで気を使うなよ」
しかし、肝心の黒はキョトンと?マークを浮かべて……。
「何言ってるの? そんな明山の為にお祝い会を開くわけないでしょ。」
黒は俺の発言に呆れて、飾りつけの作業に戻ってしまった。
「なぁ、英彦、簀巻。なんの準備なの?
俺の復活記念だよね?
俺の復活お祝い会のはずだよね?」
俺は窓を掃除していた二人を捕まえて話を聞くことにした。
俺は皆を信じているのだ。
俺の復活を喜んでくれると信じているのだが。
英彦は言いにくそうに苦笑いを浮かべながら、小声で話を始める。
「残念ですが、明山さんの会なんてないです。実はですね。鈴木さんが前から付き合っていた彼女さんにプロポーズしたらしく」
「OK貰ったんだってさ」
俺の全身に衝撃が走った。
あの鈴木さんがプロポーズ成功だと……。遂にこの時が来てしまったのか。
いつかは来ると思っていたのだが、こんなにも早く訪れるとは思ってもいなかった。
いつも店長を悩ませるほどの看板王子であった鈴木さん。
料理ではなく彼を目当てに訪れる客も多かった。
お客さんの付喪カフェ店員人気ランキング。
店員を追い抜いて1位の座を手にしていた鈴木さん。
ちなみに3位が妙義で4位はウサギさんである。
俺の人気が最下位近いのはどうかと思っていたが、黒の人気がウサギさんに負けていたのは面白かった。
そんな客にも店員にも人気な鈴木さんがプロポーズに成功したのだ。
「遂にみんなの鈴木さんじゃないのか」
嬉しいような悲しいようなそんな気分である。しかし、祝わねばならない。仲間の幸せを祝福するのは、金曜日のバイトリーダーとしてやらねばならない事である。
「フッ、今日は祝福の日だな。仕方がねぇ俺の復活記念は後日って事で……」
そう言って飾りつけを手伝い始めた俺に向かって、黒は小声で呟いていた。
「やっぱりバカね。あるわけないのに」
そして、数時間後。
店長に呼ばれて付喪カフェに鈴木さんがやって来た。
彼は店内の様子が静かな事に疑問を持ちながらも、ゆっくりと入り口の扉を開くと……。
「「「おめでとう鈴木さん!!」」」
突然、店内の電気がつけられて、クラッカーの弾ける音と共に祝いの言葉が響き渡る。
「!? みなさん」
この状況を察した鈴木さんは少し照れくさくなりながらも、この状況を喜んでいるようだ。
たくさんの飾りつけや、豪華な料理。
そして、バイトメンバー達からの祝福を受けながら、お祝い会は始まってしまった。
そう、まるで、あの時のお疲れ様パーティーの様に………………。




