山口君と第七班。~魔法学園生活~
「なぁ、ここは?」
見知らぬ場所。
俺はいつの間にか、どこかの町にたどり着いたのだろうか。
辺りにいる人にこの場所の事を聞こうとしても、みんな急いでいるのか、誰もその質問に答えてくれる者はいなかった。
もう夕日が沈みかかる時刻である。
このまま、俺は一人でずっと迷い続けるのだろうか。
俺は道端に寄ると、通行人の邪魔にならないように座り込んだ。
そんな俺を通行人達は気にしていない様子で歩き去っていく。
俺も彼らもお互いの事に興味を示そうとはしなかった。
俺が何も考えずに通行人の行き交いを見ていると……。
どこからか、パンのいい匂いがしてきた。
「腹減ったなぁ」
近くにパン屋でもあるのだろう。
パンでも買えないかと俺は財布の中身を覗いてみる。
しかし、札どころか小銭すら入っていなかった。
学校のチャイムが町中に響き渡り、時刻が着々と進んでいることを教えてくれている。
それでも通行人の数は減ることはなかった。
しばらく時間が経った後、通行人達の中を6人組の女子達がただ者ではないオーラを放ちながら歩いて来るのが見えた。
制服を着ているのを見ると学生だろうか。
おそらく学校帰り中である彼女らが、道の端っこで座っている俺の事に気がついたようだ。
「ねぇ、なんだか。変な人が座ってるね。ほら、南樹。あそこ見て!!」
「もう、斎姉は小さな事に目がいくなぁ~。人がいいのか悪いのか。でも大丈夫かな? あっ!! もしかして、熱中症かも」
「聞いて……見る?」
「ねぇ、桃花聞くなんて駄目。どうせ、関わるなんて無駄よ。こんな庶民染みた奴」
「私も青野に同感だ。嫌な予感がする。
しかし、このまま見過ごすのもなぁ。私の正義に叛く行為だ。そうだ! 理沙。先程買った奴あっただろ?」
「そうだね。いや、そうだな雪倉。私…我の魔道具で人を救うのであれば人間よ。我からの褒美だ」
彼女らの中の一人の少女が、こちらへと近付いてくると、見ず知らずの俺に魔道具とやらを差し出してきた。
「そんな受け取れない」
俺はその子の顔を見つめて、受けとりを断ったのだが。
彼女はその魔道具とやらを俺の側に置くと、5人のもとに走って戻っていった。
「ありがたいな。熱中症じゃなくても。てか、魔道具じゃなくて水じゃん。
あっ! 彼女にここはどこか聞けばよかった」
自分の失敗に頭を痛くなる。
彼女から貰った水を飲みながら6人が去っていくのを眺めていた。
すると、向こうから彼女らを追いかける者が現れた。
汗を流しながら彼女らに追い付こうと必死に走っている男。
彼も制服を着ているから学生だろう。
もしかすると、同級生といったところだろうか。
彼は息を切らしながら走って彼女らを追いかけている。
「おーい、お前ら。寄り道帰りか?
まったく、こっちはバイトで大忙しだったんだぞ」
男は彼女らを呼び止める。
彼女らがその声を聞き、気になって振り返ると……。
「なんだぁ。山口君か。びっくりしたよ。」
「そちらこそ、バイト帰りですか?
それともランニング帰り?」
「お疲れ様……」
「何でわざわざ呼び止めるのよ!!!」
「まぁまぁ、落ち着けよ青野。社会の為に今日も働いたようだな。お疲れさん」
「なぁ、聞いてよ。我は今、無惨な哀れなる者を助けたのだ。これは桃花お姉ちゃんに誉められることではないか?」
まるで大人に群がる子供のように彼と接している。
その彼もいつも通りの日常茶飯事のことなのか、全員と気軽に接しているのだ。
そんな到底 真似できない状況を見せつけられている中で、俺は最初の彼女が言ったとある名前が気になっていた。
「山口?」
山口と呼ばれていた彼を見てみると、見た目は全然違うがなんだろう。
だが、彼には山口の面影がある。
年も髪の色も違うが、たしかに山口に似てるのだ。
すると、俺に名前を呼ばれた事が気になったのだろうか。
山口と呼ばれていた男はこちらをちらっと見ると、
「───」
何かを俺に向かって呟いて、彼女らと共に夕日の中へと消えていった。




