彼は戦う最後まで
英彦はその声の主が気になって辺りを見渡す。
すると、瓦礫の山から登ってきたのは……。
「鈴木さん!?」
「いや、英彦。あれは山口さんだ。そっくりだけど…違う人らしい」
その声の主は、どこかに隠れにいったはずの山口であった。
まさか彼がこんな遠くまで逃げているとは思わなかったが、これは天の助けだろうか。
彼に一緒に鏡を探してほしいと頼もうとしたのだが。
まだミハラを倒しきっていない俺に逃げるなんて選択肢はあるのだろうか。
ここで俺が逃げたらこの世界は本当に……。
俺はなかなか彼に話しかける勇気が出なかった。
しかし、山口には俺の考えていた事が理解できたらしい。
「分かっているよ。明山くんは本当によくやってくれたと思う。
奴を一人、撃ち取ってくれたじゃないか。それだけでも仇は討てた。君はもう元の世界に帰りなさい」
「山口……」
本当はこの世界に平和を取り戻したいのだろう。
その想いを背負って戦い逃げた俺に向かって、山口は罵倒を浴びせることはなかった。
彼の言う通りであった。
奴を倒すのは無理だったのだから。
悔しいと彼は思っているに違いないのに……。少しの希望を見せて、逃げ帰った俺に苛立ちを感じているはずなのに……。
「でも、俺がいなくなったら、この世界は誰も」
ここで俺がこの世界からいなくなってしまったら、この世界には戦う者がいなくなり、滅亡を迎えてしまう。
その真実は山口も分かっているはずのなのだ。
俺をこのまま帰らせたら、思い出の町も時間の証拠も全て……。
俺はこれ以上言い出せない。
そんな俺を気づかって山口はにっこりと笑って俺に言い聞かせてきた。
「気にしないでくれ。この世界はきっと滅びる運命だったんだ。
これはどんな魔法でも覆せない真実なのだ。
結局のところ、奴の言う通り、神からの運命に逆らえる者はいないと言うことだよ。
もう君は君の世界の事だけを考えてくれ!!
この見ず知らずの世界を救おうと戦ってくれてありがとう。
平行世界…異世界からのヒーロー」
こんな事でお礼を言われると、俺は悔しさで出てきそうになる涙を堪えた。
英彦もその様子に何かを察したのか、何も聞き出そうとはしない。
「ぼろぼろじゃないか。肩を貸すよ」
山口はにっこりと笑って、俺の腕を自分の肩にかけてくれた。
「それで…そこの君。この世界から脱出する方法はあるんだよね?」
「はい、鏡にこの死体と一緒に入れば良いらしいです」
「鏡なんて、この瓦礫の山から探すのは不可能だ。あっ、鏡を操る奴の神殿になら鏡はあるかも」
山口はそう判断して急に方向転換すると、奴らのいる方角を向いた。
今から彼らは再び、奴の元に走るのである。
「君、頼りにしているよ」
「分かっています。僕がやれるだけの事はがんばります」
そう言って意見を合わせた二人は、死体と俺を連れてもと来た道をたどっていくのであった。




