希望か絶望か死亡か
手から放たれた光線。
しかし、奴らは避けようとはしない。
それどころか今度は鏡の中に手を突っ込んだ。
そして、何かを探すように鏡の中を漁っている。
「もう反抗されるのも面倒だな」
そう言って鏡の中から取り出したのは、人間の腕であった。
どこの誰かが鏡の中から腕を捕まれているのだ。
彼らにとっては人質のつもりなのだろう。
見殺しにすることもできるが、俺は必殺技を放ち続けるのをやめた。
「ほぉ、見殺しにしなかったか。正義感の強いというか…バカというか。哀れだなぁ」
「てめぇ……!!!」
奴らに対する怒りが頂点に達してしまうのを必死に押さえながら、俺は奴らを睨み付ける。
そんな俺を見たミハラ達は、少し感心した様子を見せてきた。
「その目だ。簡単に諦められては困る。地獄に落とされてもなお、抗おうとする意思を持った叛逆者こそ、殺す価値がある。
自分が他人によって助かりたいと……悲願する弱者は我が殺す価値もない。そいつらばかりかと思っていたが、悦べ貴様はアタリだぞ」
ミハラ達はなぜかこの俺を見て喜んでいるらしい。
挑発とは違う、奴らの本心だというのは分かるのだが…殴りたくなる気持ちは変わらない。
だが、これ以上反抗出来る方法が思い付かないのだ。
俺の財布の中にはもう五百円もない、それ以外の小銭も少ない。
悔しさを噛み締めながら俺はすべての小銭を使いきる決心をした。
「『十円パンチ』」
接近戦ならば鏡で飛ばされる事も、人質を取られる事もない。
俺はそう思って、ミハラ達へと走り出すと、今度はまだ鏡を持っていない油断しているミハラに向かって拳を振るったのだが。
その程度の考えはお見通しらしく、既に鏡を隠し持っていた。
「なッ!?」
「その程度の思考など既に理解しているのだ」
このまま俺の腕が鏡の中に入っていったらどうなるのだろう。
別世界に俺の腕だけが取り残されるのだろうか。
一瞬の時の中で俺の頭の中は最悪な状況を思い浮かべていた。
しかし、拳を鏡の中に入れても手の感覚は残っている。
手だけがどこかに飛ばされたという事ではないようだ。
だが、それと同時に腹にくる殴られたような痛み。
自分の腹を見てみると、そこには見覚えのある腕が俺の腹に拳を食らわせていた。
「これは……鏡の中に入れたはずの俺の腕が」
自分の技、十円パンチを食らうなんて初めてである。
これほどの痛みを俺は与えていたのか。
気絶しそうな程の痛みが全身を巡る。
俺はその場にゆっくりと崩れ落ちるように倒れた。
「目覚めよ、叛逆者よ。眠りにつくにはまだ時は早かろう。
これで分かったか?
どんな方法でも我を攻撃することは出来ない。
これこそが神だ」
そう言って、ミハラは先程まで人質としていた腕を引っ張り出そうとしている。
「こいつは……こうなる運命なのだろうな。
我の姿を鏡の先の世界を知ってしまったのだ。哀れだな」
「だが、良かったな貴様は一人ではない。こいつと一緒に旅立たせてやるのだからな」
そうして、その人質をこの平行世界に引きずり込んだ。
顔、胴体、足……と次々にこの世界に入っていく人質。
「てめぇら!! いい加減にし」
大声で怒鳴ろうとした俺の目線の先にはヴォーパールの剣が映った。俺は思わず身を引いてしまう。
「何を言っているのだ?
我がこの世界の規則だ。殺すも生かすも我次第」
そう言って奴はまるで処刑人のように剣を掲げた。
次々とこの世界に入っていく人質の体。
「さぁ、役者は多い方が良いからな。役者が揃ってこそ喜劇は終幕を迎える」
ミハラはそう言って勢いよく人質を引っ張りあげる。
すると、人質に釣られて鏡から出てきたのは……。
「そうか。なら、最後は爆発オチが良いなぁ」
「!?」
その瞬間、人質を引っ張り出していたミハラは爆発に巻き込まれてしまう。
突然の爆発によって黒い煙がモクモクと立ち上っている。
その黒い煙の中から人質は爆風によって空高く飛ばされてしまった。宙を舞っている人質。
先程まではよく見ていなかったが、この人質はどこかで見たことが………。
「あっ!? 英彦じゃん」
俺が飛ばされた英彦を目で追っていくと、そのまま地面にドサッと落ちてしまった。
さて、もう人質の事はどうでも良い。
それよりも今の爆発は何なのだろう。
見る限りミハラ達も興味を持っているようだ。
「フハハハハハハ!!!
海老で鯛が釣れおったな。役者不足だったのだ。ちょうど良い」
黒い煙が晴れていき、次第にその姿が露になっていく。
「ひさびさだ。明山、政剣には会えたか?」
「いや、たぶん会えてないと思う。それよりもお前は……」
そこにいたのは、かつて戦ってギリギリの所で勝つことができた強敵。
白魔であった。




