神と人
「『百円パンチ』」
俺は攻撃方法を剣から拳に切り替える。
俺の戦いやすい戦闘方法はやはり殴り。
自信満々でミハラの腹に殴り込もうとしたのだが……。
「弱いなぁ。人間は」
ミハラは俺のパンチをいとも簡単に片手で受け止めてきた。
そして、その拳を掴んだまま、ミハラは自身の持っていた剣を俺に向かって……。
「あっ、あぶねぇ!?」
突き刺そうとしてきた剣は、間一髪で膝を曲げることで回避することができた。
しかし、こうも簡単にパンチを受け止められるとは思っていなかったので、この後の攻撃方法を考えたいのだが。
奴もそれほど甘くはない。
攻撃方法を考えている中で、俺はもう一つ別の事も考えていたんだ。
おかしい事が一つあった。
病み上がりだからだろうか?
力の入り具合がおかしいのである。
いつもよりも威力がでない。
そんな俺が不利な状況でもミハラは攻撃の手を緩めてはくれなかった。
パンチをするために剣を投げ捨ててしまったので、武器を持っていない状況。
そんな俺にミハラは何度も剣を振り下ろしてくる。
「負けてたまるかぁぁぁ!!! もう一度だ。
『百円パンチ』」
何度も何度も殴っていくが、その度に掴まれて剣を振り下ろされる。
「人間、何故無駄だと理解しようとしない?」
そう言ってミハラは俺の腹に蹴りを放つ。
「グッ……!?」
その衝撃で俺の足は思わず後ろへと下がってしまう。
すると、ミハラは自身の持っていた剣を捨てた。
「何をするつもりか」と思っていると。
なんと、俺の胴に向かって回し蹴りを放ってきたのだ。
どうやら、彼は剣での攻撃をやめることに決めたらしい。
そんな、手加減なしの殴り蹴りの連続攻撃で既に俺の体力は限界を迎えようとしていた。
「百え…グハッ。十円パ…g。百円パ…gy。
五十え…波ど…グッ…ハァハァ………ウッ!?」
反撃をしようとは試みるが、ミハラの隙を与えてこない攻撃の前には全く通用しなかった。
こんな主人公らしくないやられ姿。
もう、殴る蹴るの攻撃を何発食らったかも覚えていない。
「ハァハァ、やっぱり、病み上がりはダメだな」
疲れが抜けていない状態で戦うのはやはり、体力的にはキツイのだ。
ボロボロになった体ではこれ以上は戦えそうにない。
もうすべてを投げ出したいような気分になってしまう。
ここで誰も俺を知らない世界で死ねば…誰も悲しまずにあの世に行けるだろうか。
そんな物騒な事を考えてしまう。
「諦めたか?」
ミハラの声が近くなのに遠くから言っているように聞こえてくる。
そう、もう俺に戦意はない。
しかし、こんな姿を見せたら皆は怒るだろうな。
すべてを諦めていたのだが、ふと最近の出来事を思い出す。
こいつと戦う前の出来事。
あの笑顔がもう一度見たい。
あいつの希望を失わせたくない。
そうだ…こんな所で諦めてはいけない。
俺は王女様と再び会う約束を交わしたのだ。
山口に仇を打つと約束したのだ。
もう最後の最後まで諦めたくない。
「いや、まだだぁぁ!!! 俺はまだ諦めねぇぞ。
こうなったら死ぬ寸前まで俺は生き続けるぜ。
生にしがみついてやる。
ハァ…ハァ…病み上がりだろうが関係ない。壊れようが今勝てばいい。五百円!!」
輝く光が俺の体を包み込む。
ミハラを確実に倒して、世界の崩壊の仇を打つために……。
俺の最強の力で自称神殺しを行うのだ。
「黄金! 黄金! 黄金! 煌めけ輝け。
小銭最強の姿。小銭最後の一枚。
始まりと終わり。作り手と買い手。死者と生者。
全ては一つでは物足りぬ。
さぁ、その姿に懺悔し、王の力を味わうのだ。
その名は明山 平死郎。
明山 平死郎 五百円モード!!
…なんか、二度目だけど慣れてきたな」
金色のオーラに体は包まれて、俺の五百円モードは再び現れるのであった。
やはり前とは何かが違った。
力の入れ方というか、オーラの範囲が前回よりも小さいのだ。
力の威力がいつもとは違うのだ。
先程からこの変化について考えていたんだ。
「もしかして、五百円モードを使うと……。
力が回復するまで時間がかかって、その間は力が減少するのか?」
これは初聞き設定過ぎるだろ。俺は心の底から愕然とした。
もう少し早く知っていれば俺はおとなしく病院で入院していたのだろう。
まぁ、力の代償としては軽い方なのだろうが。
今は使いたい一番大事な時だ。
「だけど、ちょっとでも使えるなら…回復出来てる力を一気に使いきってやる。俺の本気じゃないけど、すっごいの見せてやるよミハラ様よぉ」
覚悟は決めた。
もう数日でも寝て回復時間に使ってくれても構わない。
こいつを倒して元の世界に帰る。
この鏡の世界からの脱出のために……。
「神に捧げる踊りの仕方が変わったか?
やはりかぶき者か。
まぁ、我の神殿を壊したお前を早く消したいのだが。
正直、我は暇ではないのだ」
ミハラがそう言って掌を広げて腕を下げると、
彼が先程地面に捨てたはずのヴォーパールの剣が吸い寄せられるように掌の中へと戻っていく。
そうして、その剣を構えるミハラ。
「貴様への裁きの時は既に始まっているのだ。
そろそろ、我も少しだけ力を入れてみるか?」
その台詞は冗談とは言えないくらいの殺気に満ち溢れていた。




