明山・イン・パラレルワールド
「………うっう~ん?
なんだ? 俺はさっきまで病室にいた気が」
瓦礫が崩れ落ちる音が永遠と周囲に響いている。
その音を聞いて目が覚めてしまい、俺は黒い雲に覆われた空を長々と見ていた。
地面で横になっているというのは理解できているのだが、場所も時間も経緯も分からない。
この世界に一人だけ、そんな気持ちを感じていた。
「分かった!! これは夢だ。
───でも夢の中の夢って、そんな事起こるのか?」
そうは思ったのだが、夢の中の夢なんて話は聞いたことがない。
夢だから夢なのであって、夢の中の夢は夢ではないのではないだろうか。
…ということは、王女様と出会った事か今の状況のどちらかが夢なのだろうか。
「まさか、タ王女様の方が現実じゃないよな。
もし現実だったら、下手したら首が飛んでた。
いやいやいやいやないな。
夢だった。そう信じておこう」
…ということは、今の状況は現実と考えるべきだろう。
俺は戦いで少し回復しきれていない体を無理やり叩き起こして地面に立ち上がった。
無理を承知で立ち上がったので、まだ所々痛みが残るが、俺は目線を下げずに辺りを見渡した。
そこはどうやら破壊され尽くした町のようだ。
きっと元は立派な町だったのだろう。
だが、今は面影だけがそれを語っている。
あの時、俺は確かに王女様を守るために身代わりとなって、鏡の中へと引きずられたのだが。
「あー、もしかしてどっちも夢じゃないやつかな?
変な事に巻き込まれちまったな…。
幽霊…姉キャラ…狂者信者…蟲ロリ男…大悪魔ときて、鏡かよ!!!」
認めたくない真実を認めるというのは精神的にキツイ。
だが、それを認めなければこの状況は説明がつかないのだ。
やはり、俺は王女様のお見舞いを受けて、鏡の中の世界に来たというのは真実なのだろう。全てが夢ではなく現実なのだ。
これは現実の出来事だということは理解したのだが…その後、急に孤独感を感じてしまった。
「おーい、誰かいないのか?」
周りに人がいないか確認するために大きな声で叫んでみたのだが。
聞こえるのは風の吹き荒れる音と、ガラガラと瓦礫が崩れ落ちる音だけであった。
「なんだよ。誰もいないのか?
まぁ、こんな破壊され尽くした町に人なんていないか………。
ん? あれは!? やっと見つけた」
人に出会えないと諦めていたその時、俺は瓦礫に埋もれて身動きがとれなくなっている人を見つけた。
俺が瓦礫に埋もれて身動きがとれなくなっている男を救いだす。
その男は蛙のようにうつ向けになったまま、俺の顔を眺めているのだ。
俺をまるで命の恩人だと言っている様なその顔。
俺はその顔に見覚えがあった。
身近にいるバイトの…店長の隣にいた…彼。
「お前まさか、鈴木か?」
白髪で少し髭の生えた20代か30代くらいの男。
いつも店長の手伝いをしている男。
だが、彼は首を横に振り、あぐらをかいて座り直した。
「助けていただきありがとうございます。お手数をかけたようだ。
私の名前は『山口拓郎』。
似ているのかもしれないが、君の言う鈴木という男ではないよ」
そうお礼を言ってきた男の言うことが俺には信用ができなかった。
彼はどこからどう見ても鈴木なのだ。
鈴木の兄弟だとしても、明らかに鈴木本人なのだ。
だが、彼は自分は鈴木ではないと言っている。
これはまさか俺を騙そうとしているのではないか。
「おいおい、流石に騙されないぞ。でっ…カメラはどうしたんだ?
ドッキリ成功みたいなプラカード持ってこいよ。
しかし、この町もこのドッキリの為に用意したのか。
手の込んだ事だな。なぁ、いつからドッキリだったんだよ。
やっぱり鏡の中に入った所か?
しかし、鈴木、お前演技が下手だな。
お前ってバレバレじゃないか」
「流石にこれ以上は騙されない」と思いながら、俺は辺りに隠されているだろう監視カメラを探してみる。
だが、辺りには彼以外の人の気配はもちろん、何かで撮られているという気配すら感じることはできない。
疑問を浮かべながら辺りを探り回っている俺に向かって、彼は残念そうに言い聞かせてきた。
「すまないが、ドッキリ等ではなく本当の事だ。
ある日、この町も人も日常も全てが壊されていった。
とある一つの鏡からこの世界にやって来た異次元人?
いや、奴は我々には分からない技術でこの国を崩壊させてしまったんだ」
その物語る表情はおふざけでも、夢語りでもなく真剣そのものだった。
「まさか、本当の事かよ。じゃあここはどこなんだ?
鏡の先がこんな世界なんだ?」
状況に追い付く事ができずに俺の頭が混乱してきた。
正直、あの異世界に始めて行った時よりも悩んでいる。
彼の言うことを疑うことは止めたが、鏡の先がこんな殺風景な場所になってしまったなんて信じることは出来ないのだ。
そうやって悩んでいた俺を彼は宥めて落ち着かせようとしてくれた。
「──落ち着いてくれないか?
冷静になるんだ。
───話を戻すが、この国を襲った奴はおそらく、こことは違う世界から来たんだ。
実は奴は付喪神などという言葉を言っていた。
だが、私たちの国は付喪神とは何かを知らない。
だから、弱点さえも分からずに国は一方的に破壊され尽くしたんだ」
彼の話からすると、きっと、この国を襲ったのは鏡野郎なのだろう。
奴が付喪神と言ったのなら、おそらく奴も俺と同じ鏡の外の世界の住人なのだ。
俺が彼の話を聞いて分かった事がある。
それはこの世界には付喪神という物が存在しないということだ。
俺の元いた世界に今モンスターや付喪神の姿はない。
だが、俺の今いる世界には今もモンスターや付喪神の姿はある。
そんな感じのことなのだろう。
「鏡の世界なら反対になるだけだ」と言う人もいるかもしれないが、それだけで済まされる問題ではない。
鏡が写すものは人の左右逆。
反対なのだ。有るの反対である無い。平穏の反対である不穏。
もしくは反対になることで全く違う世界かもしれない。
反対の世界。平行世界。
それがこの鏡世界なのだ。




