頂点には1人の悪魔
「──ぐっぐっぐっ。いったい何があったのだ。何故、奴に俺の居場所が分かった?」
殴り飛ばされてしまったエルタは血を流しながら起き上がった。
どうやら殴り飛ばされてしまった時に椅子に激突してしまい、その残骸が体に突き刺さってしまったらしい。
「──これはしまったなぁ。怪我したなんて英彦に知れたら。うーん、考えたくないものだ。こいつの体を早く治してやらないと」
怪我を負ったと英彦に知れたら体を貸してくれる事が今後叶わなくなる。
それを恐れたエルタは、英彦の体に回復魔法をかけた。
穏やかな光に英彦の体は包まれていき、傷が癒えていく。
原理は良く分からないが、とにかくすごい技術であるのは確かだ。
「──さて、油断はしたがこのエルタ。あの様な劣等な者に殴られるとは…………。
フハハハハハハハハハ。あの男久しぶりの手応えかもしれん。俺の魂が疼きまくっておるわ」
エルタの笑い声は静かな廃城にこだましていた。
エルタの飛んでいった方向へと向かっていると、その場所には壊れた椅子が散らばっていた。
それ以外には何もない。
「あいつ、どこに行った?」
俺は周辺を見渡してみるが、人の気配を感じる事は出来なかった。
その瞬間、背後に何者かの気配を感じる。
「どうしたぁぁ? 明山平死郎。
俺がいつでも移動が出来る事を忘れたかぁ?」
そう言って、エルタは俺の腹部に短刀を突き刺してきた。
「!?」
突然、目の前に現れたエルタに驚きながら、腹部に訪れた痛みを感じても、俺は目的を忘れる事は無かった。
その姿を見た瞬間に、例えそれが英彦の姿であっても殴らなければ気が済まなかったのだ。
だが、殴ろうとして拳を振るっても、当たる寸前でエルタは瞬間移動で避けてしまう。
「フハハハ、どうしたぁ?
無駄だ。視覚でどうにか出来るものではないのだよ」
こうして避け続けていると、しばらく経って、俺も疲れを感じてきた。
拳を振るっても当たらないというのはその分だけ体力を使うものなのだ。
それに腹部から流れ落ちる血は止まっていない。
「─────こいつ。ハァ……ハァ…」
疲れを感じて勢いを失ってしまった俺を、エルタはまるで檻の中にいる猛獣を見ているような態度で接してきた。
「つまらんな。お前には失望させられた。
さっきの一発はまぐれだったという事か。
非常に興ざめた。残念だぞ明山平死郎。
せっかく攻撃してやらなかったのになぁ?」
エルタは飽きたとでも言いたいような表情を浮かべてくる。
「俺の体は疲れを感じてきている。だが、俺の魂はまだ闘志を出しているんだ。こんな、疲れなんて……」
「無理をするな。お前には俺に挑めるほどの実力も無かったという事だ。
たくさんの人間と国市を守るために立ち上がったのだろう?
貴様は今まで何人もの八虐と戦ってきたのだからな。
しかも、目の前にいる者が友人の仇なのだからな。
戦いたくはなるだろう」
エルタは少しだけ間を開けると、再び言葉を放ち始める。
「だが、それはお前の意思か?
ただ、周りが動いているから。
ただ、友人の仇だから。
────そうだろ?」
エルタに言い当てられてしまい。言葉すら発することが出来なくなってしまった俺に、エルタは更に追い討ちをかけてきた。
「まぁ、そんな奴がこいつを救うことなど出来ない。
だが、それがお前たち人間なのだ。
猿から進化した生命体なのだからなぁぁ!!!
だから俺は変わったのだ。
遠い昔に悪魔に成り下がったのさ。
それから、俺は自分のために生きて利用して支配して恐れられてきた。
好きなように貴族を殺し、魂を喰い、叫びを聞いてきた。
実に清々しい生きているという実感よりも素晴らしいものだったぞ。
──欲望をありったけ叶えるというのはな」
エルタの自慢話を聞いていると羨ましいという感情は浮かんではこなかった。
何年も、または何十年もこの悪魔が生きていたという事に無性に腹が立ってしまったのだ。
今までにどれ程の人がこいつに利用されて支配されてきたのかは分からないが、沢山の人が苦しんできたと分かると、敵対心が高まっていくのを感じる。
「──だったら、俺も欲望を叶えてみようか。
まずはお前のその顔面を見なくても良いようにしなくちゃな。そうすれば、少しはこの気分も晴れやかになるかもな」
「ほぉ、例えそれが英彦であってもか。
だが、その欲望を叶える事は出来ないな。
お前は死ぬしかないのだ。
床の隙間から外に出たいと這い出てくるような虫みたいな執念を持った者は……。
このエルタの支配する世界には存在してはならないのだァァァァァ!!」
すると、エルタは大声で俺に向かって想いを叫び、攻撃を始めようとしていた。
「今すぐこのエルタの舞台からご退場願おうかァァ!!!
『悪魔の紅の薔薇』」




