蓼科戦決着
「不死身の無敵の能力者~♪
最強の盾~♪
俺と瑞牆~二人で最強の矛と盾~♪
攻撃は瑞牆に任せるぞぉぉ~♪
エルタ様に忠誠を誓ったぞぉぉ~♪
殺せ、殺せ、殺せぇ~♪
死ね、死ね、死ねぇ~♪
隠れるなよ隠れるな~♪
今日も働く働く~♪
お仕事頑張るぞ~♪
オオッ!!!」
蓼科は謎の歌を口ずさみながら妙義を捜していた。
蓼科のテーマその1である。
そして、蓼科は木々の生えている林の中を歩いていく。
しばらく林の中を捜索していた蓼科であったが、とある地点で立ち止まり辺りを見渡していた。
そこには特に人影もないのだが。
どうやら蓼科はこの場所に目星をつけたようだ。
「なぁ、いるんだろ? ここら辺に俺の近くにいるんだろ? そこだろ。見つけたぜぇぇ女。
さぁ、言って貰おうか?」
そう言ってみた蓼科だったがもちろん、返事はない。
「おかしいな。気配がぷんぷんするんだけどなぁ。もしかして本当に逃げ出してしまったのかな」
宛が外れてしまいやる気を失くしてしまった蓼科は瑞牆の援護に向かおうと、その林を後にする事にした。
……訳ではなかった。
「そうくると思ったぞ。
俺が後ろを振り向いた瞬間を上から襲う気だったろ?
上からご登場だなんて張り切ってるなぁぁ!!!」
蓼科は振り返ると頭上を見上げる。
目線の先には木の枝から飛び出してきた妙義の姿があった。
蓼科の宛は当たっていたのだ。
妙義は葉っぱに覆われながら隠れて暗殺を試みていたのだ。
「なぜ、バレた。くそッ。おりゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
暗殺がバレてしまった妙義は、飛び出した勢いのままに剣を蓼科に向かって振り下ろそうとしたのだが。
「残念だったな。死ぬのはお前だ。勝った!!
能力を発動し」
だが、蓼科に勝利は訪れなかった。
蓼科の人生は残酷な結果で終わってしまうのだ。
蓼科は戦う場所が時刻が悪かった。
真昼の夏の様な日差しは木々を避けて、偶然にも妙義の姿を一瞬でも隠してしまったのだ。
そしてもちろん直射日光を喰らうのは蓼科である。
蓼科の脳は一度直射日光を目に向かわせまいとして、まぶたをうすく閉じてしまう。
その一瞬の思考の緩みが蓼科の行動を遅らせたのだ。
ズサッ………!!!!
「やはりな。毎回と言っていいほど私の相手は強力な能力者だが、運がないんだ。まぁ、今回は強力すぎたけどな」
無事、地面に着地できた妙義は目の前の男に向かってそう言い残すと、剣を鞘にしまった。
「確かに暑い日差しだな」
妙義は空を見上げた。
日差しは木々の間を避けて地面を照らしている。
思わず手で日光を遮りたくなるほどである。
そんな様子で終わった気になっている妙義を蓼科は見逃さなかった。
妙義の隙をつき蓼科は刃物を突き刺すために、彼女に向かって刃物を投げつけたのだ。
だが、妙義は油断などしてはいなかった。
彼女は素早く剣を抜くと、飛んできた刃物を弾き退けたのだ。
弾かれた刃物は宙を舞い、蓼科の足元に突き刺さる。
「ヒィッ。何で俺がこんな目にあってるんだよ。剣で真っ二つに。見ろよ顔に傷ができちまった。くそッ!!」
「そのまま死んだふりをしていたら良かったのにな。最強の盾もこの程度か。そのまま逃げ帰れ。次はお前が能力を使うよりも速く斬りかかるぞ」
言葉と共に妙義から放たれた殺意。
その妙義の殺意に圧されてしまった蓼科は、恐怖を感じてしまい、その場を逃げ出すように歩き出した。
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「はぁ。あのヤロウ、だが、あいつも瑞牆の手にかかれば。そろそろあの仮面野郎を殺っている頃かなぁぁぁ? あーあー痛てて」
妙義からうまく逃げ出す事ができた蓼科はベンチに座り込んでいる。
妙義に斬られた傷は深く、すぐにでも治療するべきなのだろう。
だが、歩いていく体力も無いほどに蓼科は疲労していたのだ。
そんな彼の様子を心配して声をかけてきた人物がいた。
「大丈夫ですか? 大量に血が出てる。今すぐ病院に……」
それは先程、蓼科が見つけた一般人である。
蓼科は逆光でその男の顔は見えなかったが、親切心で彼に注意を促してあげる。
「大丈夫だ。
それよりこの先は行かねぇ方がいいぜ。
とっとと帰ることだ」
そう言って再び蓼科はベンチにもたれ掛かった。
一般人は彼の言葉通り、その場から立ち去ってしまう。
その姿を見届けながら蓼科は暑い日差しに照らされ続けていた。
「…………。しっかし、喉が渇くな~。
瑞牆は後どれくらいで仮面野郎を片付けてくれるだろうか。3分かぁ? 2分かぁ?
まぁ、もう少し待っててやるかな。
あーあー喉が渇くぜ」
血と汗を拭きながらベンチに座って瑞牆を待っていた蓼科だったが。
待っても待っても瑞牆は未だに戦っているのか、向かえに来てくれない。
なので、彼は日差しを遮るためにゆっくりと目を閉じる。
その後、彼の姿を見た者は誰もいない。




