盾・蓼科
場所は変わって、妙義 対 蓼科。
「なぁ、どんな気分だ? 教えてくれねぇかな?
体から血が出てるぞぉぉ? 痛いんだろ? 剣ってさ。怖いよな」
「何を…………したんだ?」
妙義は攻撃を受けていないはずだった。
だが、妙義がこの男に斬りかかった瞬間、既に斬られていたのだ。
地面で倒れている妙義の体の傷口から出血している。
妙義はゆっくりと立ち上がると、倒れないように傷口を押さえながら蓼科を睨み付ける。
「なぁ、剣と刀の違いってなんだろうなぁ。俺は考えるのが嫌いだからさぁ。まぁ、形状だとは思うんだけどな。ほんとに合ってるかな? なぁ、それでいいのか?」
「そうだが……。それがどうした?」
「────いや、別にそれがどうしたって言われてもよぉ。本題はそこじゃねぇんだよね。つまりさぁぁ。俺の付喪神の能力もそんくらい簡単な説明でいいんだよ」
妙義は今の台詞の内容がよく分からなかったので、失礼だとは思ったが聞いてみる事にしたようだ。
「こんな事を言うのはすまないが、ちゃんと分かりやすく文章で言ってくれないだろうか? 」
すると、蓼科は顔を真っ赤に染め上げて声を張り上げて怒鳴り散らしてきた。
「うるせぇなぁぁぁぁ!!!
文章なんてどぉぉぉぉぉぉでもいいだろうがこのヤロウ!! 大事なのは意思だぜ。
コミュニケーション取ろうとする意思なんだよ。
こまけぇぇぇ事はいいだろうがぁぁぁ?
女、お前に頭下げさせてやるぜ。
俺の全てを跳ね返す藁人形の能力でよぉぉ。
呪い殺して殺るぜ。ほら攻撃してこいよ。
ほらほらほらほらぁぁぁ!!!!」
その蓼科の説明により彼の能力を多少理解できた妙義。
「なるほど、つまりお前の能力は全てを反射する無敵の能力」
先程の剣傷もこれで説明がつくようになった。
妙義の振り下ろした剣の攻撃が攻撃した本人に返ってきたのだ。
全てを反射する無敵の能力者。
相手を斬る妙義には絶対に勝てない相手なのだ。
「なぁ、確かに私は鍵の獲得候補者の事は知っている。教えてやろう。でも、知っているのは私だけだ。駒ヶは知らないんだ。あいつは見逃してあげてくれないだろうか?
正直、お前には勝てない。だから…頼む」
妙義は蓼科に頭を下げて取引を行う。
だが、先程のやり取りで怒りを買ってしまった妙義に蓼科からの慈悲はなかった。
「なるほど、無駄な戦いは避けたいと?
能力を知った途端に戦意喪失かよ。
まぁ、戦意がない奴を虐めてもなぁ。
心が痛むことだ。
……だが、駄目だぜぇぇ!!!
お前にはイラつかされた。
まずは、あの男を瑞牆に殺してもらう。
そしてお前をじっくりと泣き叫ばせながら情報を吐かせる。
残念だったなぁぁぁぁぁ!!!!
人生なんて残酷な事ばかりなんだよ」
うつむく妙義を見ながら、蓼科は嘲笑っている。
まるで、妙義の運命が自分の手のひらにあるかの様な態度である。
その時、蓼科が笑っていたその瞬間。
妙義はその場から逃げ出して木々の中へ逃げ出した。
全身を恐怖に支配されたのだろうか。
とにかく、妙義は逃げ出したのだ。
その様子に気づいた蓼科は自身の勝利の確信をボロボロにされてしまう。
そんな蓼科に向かって妙義は逃げながら言った。
「────なぁ、蓼科。隠れ鬼って遊びを知っているか? 隠れた人を鬼が見つけるっていう簡単な説明で言えるルールだ。
私を見つけてみろ。逃げられる前にな」
「おいおいおいおい。逃げるぅぅぅ?
何でだよ。許せねぇ。許せねぇぞチクショウがぁぁぁ!!!!」
逃げ出した妙義を蓼科は追いかけて行った。
この公園は中心の広場を沢山の木々で囲まれている円形型の公園である。
休日は子供たちがここで鬼ごっこをしている姿が見られるのだが、今日は夏のように暑い日なのでみんな家で涼んでいるのだろう。
そんな暑い日差しの中での鬼ごっこはとてもキツいものだ。
「はぁ…はぁ…。暑い…あの女、体力がありすぎだぞ。日差しがまぶしい。
あいつはどこに行ったんだ?
何で怪我してんのにあんなに走れるんだよぉ。
あれは…一般人だし、あれは…瑞牆と仮面被った男だしよぉぉ。
どこに行きやがったんだ? テンションだだ下がりだぜ。
いつも見たいに絶望した表情を浮かべていた欲しかったのに……」
蓼科は息を切らし、さらに妙義の姿を見失っていた。
妙義の姿は完全に木々に隠れてしまったのだ。




