蓼科と瑞牆
「なぁ、見てるかよゥゥ? こんなによぉぉ。暑い日によ。二人のカップルがイチャイチャしてんだぜぇぇ?」
「それがどうした? お前という奴は何をイラついている?」
すると突然、妙義と駒ヶの頭上から声が聞こえた。
二人が頭上を見上げると、木の枝に乗っている二人組がいたのだ。
まったく気配を感じなかった事に驚く2人。
そんな二人組に警戒を解くわけにはいかない。
「おい、お前のせいだ。警戒している」
カールした髪の長いの男が隣の男を睨み付けた。
「でもよ。でもよ。こいつらこんなによぉ。暑い日にカップルがイチャイチャしてんだぜぇ?
エルタ様に命取られる女がよぅ。
生きてるって実感を持ってんだぜ?
イライラするじゃねぇかよ!!
あんたはいいのか? 瑞牆さんよぉぉ。
せっかくエルタ様が手を下されるんだぜ。
もうちょっと恐怖心を添えるべきだぞ」
その男に対して緑髪の男はそう言い返していた。
そんな勘違い二人組に対して妙義は赤面を隠し、イライラを抑えながら言い放った。
「おい、お前ら。勘違いしてるぞ。私たちはカップルじゃない。間違えるな。いいな?」
「「あっ、すみませんでした」」
二人組はもう頭を下げるしかなかった。
「俺の名は『蓼科 修』だぜ。よろしくな」と自己紹介したのは緑髪のチャラそうな男。
「私の名は『瑞牆 (みずがき )』です。エルタ様の僕をやらせていただいております」と自己紹介したのはカールした長い髪の男。
二人組は頭を下げて自己紹介を始める。
「そうか? ……っでお前ら何しに来たんだ?」
駒ヶは二人組に向かって剣を構えた。
「──いやー。エルタ様が世界を支配するとか言うからねぇ。その為にな。鍵の獲得候補者を探してるんだよぅぅ」
「獲得候補者数は現在、不明。今まで何人も八虐が殺られている。そしてそこには必ずお前らの仲間がいるということです。怪しむのも当然」
二人組は異様なオーラを放っている。
今までに戦ってきた魔王軍幹部の八虐とは比べ物にもならない程小さいが、凄まじい殺意である。
「おい、妙義。明山を呼んできてくれ。ここは俺に任せてな」
そう言って二人組に対して剣を構える駒ヶであった。
しかし、人生とはそう計画通りにはいかないものである。
駒ヶは妙義に援軍として明山を呼んできてほしかったのだが、妙義は勘違いをしてしまったのだ。
「──それって私が足手まといになるという事か? 残念だが私も剣士だ。戦わせてもらうぞ。ウオオオオオオオオ!!!!」
「いや、そう言う訳じゃ……って特攻すな!!」
まっすぐに敵に突っ込んでいった妙義。
彼女を駒ヶは後に続いて追いかける。
「じゃあ、俺はあの女がいいなぁぁ。勝負だコリャァァァァ!!!!」
「いいや、油断はするな。二人で二人を殺るべきだ。おい、待て蓼科!!」
どうやら向こうでも同じことが起こったらしい。
まっすぐに敵に突っ込んでいった蓼科。
彼を瑞牆は後に続いて追いかける。
「よう、女。俺と戦うなんていい度胸じゃぁん。後悔するなよ」
「お前こそどうした? その女に圧されているんだぞ」
予想通り、特攻した二人は勝手に戦いを始めてしまった。
しかし、妙義の振り下ろした剣を蓼科は避けているばかりである。
何度も何度も、日差しの照りつく中で妙義は剣を振っているのだが、その度に交わしていく蓼科。
「ハァ…ハァ…」
「どうしたぁぁぁ? 夏バテか? 大丈夫かぅ?」
冷静に攻撃を行っていた妙義も、煽られ続けてその冷静さを失いかけていた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
妙義は力を込めて思いっきり剣を振り下ろす。
すると、今度は何故か蓼科に命中したのだ。
「うぎゃぁぁぁぁ。そんなぁ!?」
斬られた蓼科はそのまま地面に崩れ落ちるように倒れてしまった。
「なんだ……けっこう呆気なかったな」
妙義は蓼科にそう言い放ち、その場から帰ろうとしたのだが、
「………なぁぁぁぁんちゃってぇぇ」
「!?」
突然、怠そうに蓼科は起き上がる。
確かに彼は斬られたはずなのだが、全く傷もない状態で立ち上がったのだ。
「まさか。そんな…。こんな事って……」
さらに驚いた事に、妙義は体から血を流しながら地面に崩れ落ちるようにその場に倒れてしまった。
そして、彼女の傷口はまるで剣傷を受けたような傷口であった。
そして、こちらは駒ヶ 対 瑞牆。
「──近づいて来ないということは奴は遠距離型か…。なら、この剣で確実に倒さなければ」
駒ヶは地面を蹴り跳び、相手との間合いを急速に縮める戦法を取ろうと構えるのだが
先程から何もしてこない瑞牆を不安に思いつつも駒ヶは地面を蹴り跳んだ。
「──悪いな。エルタも俺が殺る。だから誇って逝け。
『終幕・泣斬馬謖』」
その瞬間、瑞牆の表情が急変した。
「………………エルタ様を今、何と言った?
聞こえんなぁぁぁぁぁ?
エルタ様を殺る? お前がか!?
この俺でさえ倒せないお前が……。
意気がるんじゃないぞ。
このド愚民風情がぁぁぁぁぁ!!!!」
駒ヶが技を放ったその瞬間、瑞牆は豹変した。
そして、そう言って駒ヶを蹴り飛ばす。
「なんだと………」
駒ヶは蹴り飛ばされてゴミ置き場にぶち当たってしまう。
先程までの冷静な性格とは思えないほど豹変していた瑞牆に驚きながらも、駒ヶは立ち上がった。
「なんだ? すごい忠誠心。いや、依存だなこれは」
そして、再び剣を構えたのだが。
その時、駒ヶはあることに気づいてしまった。
「これは……。俺の剣の先が……剣先がなっなっ失くなっている!?」
見ると、駒ヶの剣先がバッタリと消え去っているのだ。
駒ヶは自身の剣の状態に焦っている。
そして、その様子を見ながら瑞牆は薄ら笑いを浮かべていたのだ。




