宣戦布告
動かなくなった死体。
声の主は死体を肥溜めで溺れている蛙をみるような眼で見つめていた。
「解放はしただろ?
君の判断ミスじゃないかい?
まぁ、どうでもいいがな。
──いや、付喪人についての情報を聞き出せばよかったな」
声の主は、そう言って動かなくなった彼に近づく。
「お前ら、もういいだろ? 少し用があるんだ。中断してくれ」
声の主がモンスター達に命令を下すと、モンスター達は残念そうにして、部屋の奥に消えていった。
「さぁて、どこにあるかなぁ?」
声の主は、死体の着ていた服のポケットを探しだすと、そこに手を入れてみる。
「これか? 」
声の主はポケットの中にあった小さな機械を取り出した。
そして、その機械を見ながら、彼は話しかける。
「あ、最近の盗聴機はすごいな。
俺の生まれた時代にはこんな物はなかったよ。
人だった時に欲しかったくらいだ。
便利な世の中になったものだな。
おっと、もう少し小声の方がいいか?」
その頃、別の場所。
「隊長。釣れました。反応ありです」
「よし、繋げるんだ」
ここはとある捜索本部。
彼らは今、とあるターゲットを探すために囮を雇い、国中に配置させていた。
超国家問題級依頼の解決のためである。
そして今、囮の一人から反応があり、焦っている状況なのだ。
「この場所は理市。理市の小さな村から発信されています」
「いいか、みんな静かに落ち着いて話を聞くぞ。そして、誰かこの音声を記録するんだ」
隊長が合図を送ると、作業員の一人がそばにあったスイッチを入れた。
そして、聞こえてきたのは男の声。
「────いいか?
聞いているんだろ?
まぁ、囮役の人間が一人死んだところで何も問題はない。
で? 釣れたのは俺で良かったのか?
俺で良かったならその挑戦に敬意を評するよ。
その挑戦に受けてやろう。
私の…いや、俺は魔王軍幹部 八虐の内の一人。
不義のエルタ。
大悪魔 『エルタ』である」
その名前を聞いた瞬間、捜索本部内はざわついた。
自分達が見つけたのが魔王軍幹部だった事に不安を抱いていたのだ。
「隊長。連盟に助けを求めましょう」
「ああ、お前、連盟に情報を提供するんだ」
隊長は作業員の一人に救助要請を頼みに行かせる。
作業員は急いで電話を取り出すと、電話番号を挿入し、電話に出てくれるのを待っている。
「すみません。もしもし実は……………………」
そんな中でもエルタと名のる者は盗聴機に向かって話を続けていた。
「──まぁ、紅の食卓?
そんな風に俺の趣味が名付けていただけるのはうれしいと思っているよ。
趣味を持つ事はいいことだ。
生きる糧の一つになってくれる。
お前たちの叫びや恐怖が俺の生きる糧になってくれるんだ。
でっ、そろそろ救助要請は終わったか。
無駄話も飽きてきた所でね」
「なっ…!?」
向こうからはこちらの情報は手に入らないはずなのだが、何故かこの男はそれを知っているのだろう。
捜索本部内を緊張感が漂っている。
「隊長。これはいったいどういうことなのでしょう。何故、こちらの行動が詠まれているんでしょうか」
「分からん。まさか、付喪連盟に内通者がいるではないだろうか」
しばらくの間、沈黙に包まれてしまう捜索本部。
しかし、その沈黙も遂にエルタによって破られてしまう。
「──じゃあ、付喪連盟に伝えてくれ。
黒という女性と、もう一人の仲間の女性を差し出せば、連盟周辺を紅の食卓にするのは中止にしよう。
期間は今日より三日後の満月の夜。
理市にある廃城で待っている。
もちろん、連れてくれば俺に挑戦しても構わない。
だが、もしも連れてこなければこうなる」
エルタがそう言い残すと、突然 盗聴機の反応が消えた。
最後に、何を言おうとしたのかは分からないが、音声を拾う事が出来ない状態になってしまったのだ。
「──反応が消えました。原因は分かりません」
「隊長大変です。付喪連盟との連絡が出来なくなりました」
「隊長ダメです。何者かによって通信が防止されています」
「隊長。今、連絡が入りました。この周辺の町一帯で通信が行えなくなっているようです」
「隊長。町に巨大な結界が張られており、脱出は不能になっているようです」
「何ィィ!!??」
盗聴機からの反応が途絶えた瞬間、数々の異変が町を襲っているようだ。
町には結界が張られており、入れず出られない状況に陥ってしまった。
どうやら、町人は完全に閉じ込められたようだ。
「まさか、これはまさか。始まるというのか?
この町で始まるというのか……。紅の食卓を始めると言うのか…………」
隊長はこの状況になった原因を察した。
そして、もうこの場の誰も声一つ上げずに、絶望した表情を見せている。
そして、再び場所は移り、付喪連盟内部。
「──先日、とある町で紅の食卓が行われました。町人のほとんどが亡くなっています。
ただ、偶然にも結界の範囲外に出ていた町人がおりまして、彼に話を……」
「いや、そんなことはどうでもよいじゃないか。大切なのは現場にあったこの記録だ。
この記録のある部分が重要なのだ。
みなさん、見てください。
この記録では我々とあの町との連絡状況が奴にバレているんです」
「しかし、今は奴を始末するのが得策かと」
「緊急依頼を作りましょう。いや、相手が悪魔なら冒険者職の方々を呼びましょう。緊急クエストです。早速手配を!!!」
「おい、誰か早く会長に伝えるんだ」
付喪連盟の本部では先日の事件についての話し合いが行われていた。
とある町で起こった悲惨な虐殺テロ。
そして、今度はこの付喪連盟周辺が狙われているのである。
慌ただしく焦っている連盟の職員達。
そんな彼らに向かって発言する者がいた。
「いいか。落ち着け!!
至急、冒険者職 付喪人向けのクエストや依頼を作るんだ。
この依頼をもって、紅の食卓を終わらせるぞ」
「副会長……」
「そうだ。副会長の言う通りだ」
副会長に諭された職員たちは国中に、クエストや依頼を送り込んでいく。
「もう終わらせなければならない。この虐殺行為をここで終わらせるんだ。
いいか、討伐クエスト 討伐依頼を申請するんだ。
あの悪魔を殺すんだ」
副会長はそう言って周りの士気を高めさせた。




