子供たちの危機・センテネル(narou)
そして、それから何日か月日が流れたある日。
あれからも彼は少年と交流を続けていた。
ここにいるやつらとは自分達だけが違う。
「正常な人は我々だけだ」という仲間意識が芽生えたのだろう。
似た者通しの彼らはたびたび2人で会話をして楽しんでいたのだ。
この日も彼らは2人で会話をしていたのだが。
「おーい、センテネル。礼拝所に来いって言われてるぞ」
センテネルは遠くから修道士仲間の声を耳にした。
「あっ、それじゃあ行かなきゃ……じゃあまた後で来るから」
「うん、行ってらっしゃいセンテネルさん」
2人はそう言って別れる。
「ハイハイ、今行きまーす」
センテネルは修道士仲間に言われた通り、礼拝所へと向かっていった。
礼拝所へとたどり着くと、そこには年寄りの神父さんが椅子に座っている。
「やあ、センテネル。調子はどうだい?」
「今日も最悪だよ。でも、少し良いことがあったくらいさ。それ以外は何も変わらない。
私は嫌われているからね」
「そうか。では本題に入ろう」
神父さんはそう言うと今日彼を呼び出した理由について語り始める。
センテネルは驚愕とした。
彼は神父の言う内容が信じられていない。
この場所を無くすなんて……彼には理由も分からない。
「なぜです。私はあなた方の考えは間違っていると思います。あの子供達を救うにはここを失くすわけにはいかない。ここは彼らの場所ではないのですか?」
「センテネル、これは政府からの指令だ。15日後この教会は潰される。それは変わらないことなんだよ。この土地は大富豪に買い取られた」
「それこそおかしい、ルイトボルト様は子供を大切にしろとおっしゃった。
だが、我々はその教えを破り、我々が敬うべきなのはこの国の腐った生ゴミのような政府や大富豪だと?」
「センテネル……子供たちには辛いってことくらい我々も分かっている。だが、どうしようもないんだ。この場合は仕方がないんだ」
そう言っているが、神父さんは分かっていない。
これから先の子供たちの辛さを……。
もしも、引き取られでもすればよいのだが、それ以外は選ぶべきではない。
彼だって今まで売られていった子供がどうなったか知っているはずだ。
「いいや、何も分かっていない。お前らはいつもそうだ。他人の気持ちなんて屁とも思わずに……。仮にも誰か私を助けてくれたか?
重労働やパシリや鬱憤払い。毎日毎日毎日、嫌味を言われてる」
「センテネル…………」
「今日の朝なんて何を言われたか分かるか?
いいかよく聞けよ…ッ…………」
センテネルが怒りに任せて声をあげようとした時、神父は彼を止めた。
「センテネル!!!!
私は君の私情を聞きたいわけじゃない。
話は終わりだ。だが、子供たちには伝えるな。彼らは引き取られる事を望んでいる。
だが、ここが無くなると分かれば、彼らだって察するだろう。
いいな、話は以上だ」
彼は部屋から追い出されてしまった。
彼は1人廊下を歩き、ふと窓の外を見てみる。
そこにはたくさんの子供たちが元気に遊んでいる。
その光景も後数日には見られなくなるというのは悲しい。
彼らにはここ以外の居場所すらない。
なのに、これからも大富豪などの貴族は必要最低限以上に居場所を奪うのだろう。
彼が外へ出てみると、子供達は走り回ったりボールを蹴ったりして遊んでいる。
だが、彼らはこれからの事を知らない。
もう、この平穏な暮らしは彼らには訪れない。
ここはそういう場所だ。
残酷だが、この国には彼らを助ける手段はここ以外にはなかった。
ふと、子供たちの姿を眺めているとあの子がいない。
私と同じ独りぼっち仲間の彼が……。
「あの子はどうしたんだろう?」
彼はそう思っていつもの場所に行ってみると……。
「「ヘヘヘヘへー!!」」
そこには子供たちに蹴られて、怪我だらけの少年が…。
どうやら他の子供たちにイジメの対象として選ばれたようだ。
だが、日差しが強いせいか、センテネルにはなかなか何が起こっているか分からない。
「おい、虫さんとお友だちなんですね~。かわいそうに~」
「虫なんてこうしてやるよ」
そう言って1人が虫を踏みつける。
「やめろ~死んじゃうだろ!!!」
少年は必死に彼らを止めようとする。
血と涙でくしゃくしゃにした表情で必死に彼らを止めようとしていた。
その頃、ようやく状況を理解することができたセンテネル。
「おい!!!君たちなにをしてるんだァァァァ!!!」
センテネルはいてもたってもいられずに、少年を助けに向かう。
「あっ、やべ。見つかったぞ」
「みんな逃げろ~」
少年をいじめていた子供達は、センテネルの姿を見つけると四方八方へと逃げていった。
センテネルが少年に駆け寄ると、大慌てで声をかけてみる。
「大丈夫かい? 今からすぐに病院に連れていくから」と言ってもここから町までは1時間はかかる。
だが、そんなことを考えている余裕はない。
彼は少年の体を持ち上げると、彼を腕に乗せて一目散に町の病院へと急いで走っていった。




