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月夜の叫びはオーケストラ

 「皆のもの、今夜は先日の魔王軍からの敵襲現場に行く。そして、今夜は副隊長であるこのオレが指揮を取る。では、行くぞ」


その日の夜。

王国から数人の小隊が出ていった。

先日の魔王軍からの敵襲現場の検証をするためである。

どのような状況だったか、どれだけの被害が出たか。

そして、被害を調べて次の対策を取るためである。




 「副隊長。ここです。着きました」


小隊は事件の現場にたどり着いた。

副隊長は馬から降りると早速、


「皆のもの、始めるぞ」


副隊長の一声で小隊は行動を始めた。

虫の死体を見つけ出したり、死亡者数を調べあげたり。

中には死体の損傷が酷く見てられないモノもあったが、それを手厚く埋葬していく。


「こりゃヒデェ……。原型なんてとどめてりゃいいほうだな」


「こっちもか……。くっ、俺が護衛に参加しておけばもっと犠牲者が減るかもしれなかったのに……」


こんな光景を見せられて、黙って作業なんてしてたら気が狂いそうになる。

兵士達は死体から出てくる小さな虫を踏み潰しながら、せっせと作業を進めていた。




 そして、時は数時間後。

もう夜も更けてきた。

時計を見ると、丑三つ時である。

さすがに時間がかかりすぎているのではないか…と副隊長は痺れを切らしていた。


「なぁ~まだ、終わらないのか?

こんなに時間がかかっては、次からオレが選ばれることは無くなってしまうではないか。

急げよ、お前ら」


副隊長は焦っていた。

そもそも、現場検証で地位がドッと上がるというわけではないのだが。

副隊長は焦っていた。

このままでは永遠に二番手になってしまうのだ。

彼の目標は王国護衛団 第四隊の隊長である。

彼はここで手柄をあげたかったのだ。


「そんな無茶言わないでくださいよ。副隊長」


兵士達は副隊長の性格に呆れながらも、手を止めることはしなかった。




 「わびしき、わびし。

いと哀れなり。おのれの手柄を取るために、世間を見たらず。

欲にまみれし一人の男。

せめて恐怖をののしりあげて、恨みや呪ひの糧になれ。

負の感情出だし尽くせ。

悪霊となりて、価値を示せ」


草木も眠る丑三つ時。

1人のモノが大木のてっぺんに乗っていた。

黒き物体……いや生き物は今夜の獲物を見つけたようだ。

そのおどろおどろしい姿を月の光に照らされながら、奴は遠くに狙いを定めてその大木から飛び立つ。


「ギャァァァ」

「うわぁぁぁぁ」

「いぎゃぁぁぁぁぁ」


突然、つけていた灯りが全て消え去って、

暗闇の中で、たくさんの人の叫び声が聞こえてくる。

月は雲に隠れ、何も見えない。


「どうした? みんな、何が起きたんだ?」


慌てふためいている副隊長。


「おい、誰か。返事を返してくれ」


「副…隊長…」


「助け…て…。うわぁぁぁぁ!!!!」


暗闇で良く見えないが、敵襲なのだろうか。

副隊長は剣を構えると、辺りを見渡す。

だが、灯りを消されているせいで、何も見えない。


「まさか、暗殺者でも来たのか?

皆のもの気を抜くな。暗殺者が相手だろうと諦めるな」


その時、背後から兵士の声が……。


「副隊長。ここは危険です。私と一緒に行きましょう」


暗闇の中から副隊長の手を兵士の誰かが引っ張る。


「おお、誰だか分からないが。そうだな。覚えていろよ。クソ敵野郎。次会った時がお前の最後だ」


手を引かれながらその場を後にしようとする副隊長。




 すると、突然雲に隠れていた月明かりが地面を照らした。

周りは見えるくらいには明るくなっている。

副隊長はその明かり利用して手を引っ張る者の事を確認してみる。


「ヴッ!?」


そこには、血を吐き涙を流しながら副隊長の腕を掴み引っ張っている一人の兵士がいた。

そいつの下半身は既に失くなっており、誰かに抱えられておるようだ。


「副隊長。すみません。ごめんなさい。ごめんなさい」


泣きながら謝る一人の兵士。


「うぉっ……。これは酷い」


兵士が引っ張るのを無理やり引き離す副隊長。

兵士の腕から離れて、彼は地面に転がり落ちる。


「なんだ。あんな非道な事を人間がやるわけがない。暗殺者よりも恐ろしいナニカだ。

モンスターの一種だろか?」


副隊長は震える膝を押さえつけながら立ち上がる。

そして、周りを見ると周囲には沢山の死体が転がっていた。

生きている者は副隊長以外にいない。

おそらく全員が即死。


「くそッ。何でこんな事になったんだ。最悪だ。オレはただ、隊長になりたかっただけなのに。出てこいクソ野郎。部下の仇を取らせて貰う!!」


副隊長は剣を構えて、周囲を警戒するのだが。

その時には既に遅かった。


「泣け泣け。

我の集むるは魂や負の感情。

ほかは我貰ふ。

人の肉は美味なればな。

されど、なんぢは魂も旨からむ。

なんぢは我食ひやらむ」


気配もなく、背後に奴はいた。

いつから背後にいたのか。もしかしたら、声を聞くまで奴には気づかなかったかもしれない。


「おっ……お前はいったい何をするつもりだ」


「全ては“アレ”起こすためなり。

それには今夜はやすみたまへ」


助けを乞うなどできない。

言ったところで無駄なのだと副隊長は理解した。




 「ぬおおおおおぉぉぉぉ!?!?!?」


その後、何があったかはよく分からない。

副隊長のあわれな叫び声が聞こえたかと思えば、副隊長は暗闇に引きずり混まれていった。

こうして小隊は全滅した。

たった1人の黒き存在によって………。






 丑三つ時の山の中。

何があったかは誰も知らない。

ただ、静かに沢山の血が地面についているだけである。

夜は静かに過ぎていくのだ。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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