死神の鎌
「誰?」
妙義と死神さんは何があったか分かっていない様子である。
「そうか。お前らは知らないよな。俺はエトナ。人間じゃない。俺は一匹の蟲だ。たくさんの蟲を使って、一つの体を作っていたと言うことだ」
「つまり人間を乗り物にしていたという訳か」
妙義の指摘にエトナはうなずく。
「そうだぜ。理解力があって助かるな」
「あなたに誉められても嬉しくはないな」
妙義は冷静に返答した。
すると、エトナは大笑いしながらセンテネルに話しかける。
「アハハハハ。じゃあ、そろそろ殺るか。センテネル、王女様をこいつらが欲しがってるんだ。準備は良いよな」
「はい、先輩。こんなやつら俺が一人で冥府に送り、こいつらの全てを終わらせてやりますよ」
そう言いながらセンテネルは戦いに行こうとしたのだが。
なんとエトナはセンテネルを殴ったのだ。
「何で!?」
センテネルはその場でバランスを取れずに倒れた。
そんなセンテネルの胸ぐらを掴みながらエトナは言った。
「悪かったな。だが、お前……今、言っちゃいけないことを言ったのが分からねぇのか?
確かに、助けが来たのは嬉しいことだ。
戦力が増えたと思うのも当然さ。
だが、相手の力を見余り、行動をするのは最もいけないことだぜ。
さっきも押されていただろ?
俺はな。お前に負けてほしくないんだ。
俺はもう先が短い。
さっきの槍で体の半分を持っていかれたからな。
あと数分で死ぬ。
調子に乗るな。冷静な戦いをするんだ。
浮かれるな。
浮かれた奴は周りが見えなくなってやらかす。
下手したら死ぬ。
お前は失敗をするような男か?」
エトナはそう言いながらセンテネルに手を差しのべた。
しかし、センテネルは立ち上がると、エトナを見て言った。
「すみません先輩。でも、それなら尚更なんです。先輩の先がないなら尚更なんです。
私はここで今までの礼と成長を見てほしいんです。あなたの後輩の成長を見てほしいのです。
監視 凝視 安心 成長 観察。
今日は勝利を神様に捧げません。
今日の勝利はあなたへ捧げます」
まるで人が変わったかのように話を始めたセンテネル。
大切な知人との別れを惜しんでの行動なのかは分からないが、覚悟はできたようだった。
彼の言葉に成長を感じたエトナ。
「センテネル。絶対に何があっても王女様を殺すぞ。いつも通り二人でな」
「はい、先輩」
そして、二人は互いの拳を合わせた。
一方、死神さんと妙義も互いに意思を共有する。
「王女様は殺させない。死神さん、あなたはエトナを止めて」
「はい。妙義さん気をつけてくださいね」
どうやら、お互いに準備は整ったようだ。
「エトナさんでしたよね。あなたは本当に後、数分で死ぬのですね。大きな魂の輝きが消えていってます」
こちらは死神さん対エトナ。
死神さんはどうやら始めから見抜いていたようだ。
「ああ、今でも数匹ずつ、蟲達のコントロールが効かなくなってる。だが、同情はするな。俺は対等な戦いを望んでいるんだぜ」
そう言うとエトナは指を下に向けて合図をした。
すると、森の奥から巨大な蟲達がこちらに迫ってくる。
「こいつらは……。」
様々な種類の巨大な蟲達が死神さんに向かって飛んでくるのだ。
「こいつらはな。俺の蟲型モンスター達だ。
可愛いもんだろ。こいつらは肉が好きでな。
自分の縄張りに入った奴や見つけた奴を襲って喰うんだ。
お前一人にこいつら全員で飛びかかるってのは後味が悪いが、後輩の想いのためだ。
今だ殺れ、蟲達!!」
その発言を合図に大勢の蟲達が死神さんに迫っていく。
死神さんは大鎌を構えて間合いを測ろうとする。
しかし、勢いよく襲いかかってくる蟲達の方が速いようだ。
死神さんは遂に蟲達に囲まれてしまったようだ。
「グリラルリリャアアア」
「ゲルルゴロロリュリュ」
「ギシャァァァァァァ」
異形な姿の蟲達が死神さんの周りを囲んでいる。
まるで魔獣のような姿は見た者を恐怖にして、震えを起こすと言われている。
しかし、死神さんはあの世にいる存在。
当たり前の事なのだ。
こんなの地獄ほどではない。
「皆さん、ちゃんと輪廻させてあげます」
涙を流しながら死神さんは、蟲達を切り刻んだ。
血は吹き出て、まるで湖でも出来そうなほどである。
次から次へと現れる何百という蟲の大群を死神さんは切り裂いていく。
その光景を見てエトナは驚く。
「お前……人間じゃないな。俺は元人間だが、人間じゃなくなっても分かる。お前は元々が人間じゃないな。他にもいるのか?
お前みたいな化け物が……。落ち着け俺。
蟲達がこんな、一瞬で……。」
エトナは焦っていた。
蟲型のモンスターの援軍はもう来ないようだ。
羽音が全く聞こえないのだ。
エトナが頭を上げると、目の前に死神さんがいた。
「あなたはもう死ぬのですね。もう足から一匹も生命反応が無い。これで終わりですね」
そう言うと死神さんはエトナの足を大鎌で切り裂いて、その場を後にした。
逃げられないようにするためである。
「………センテネル…。お前は…生きて…て……くれよ。まだ…若い……んだか…らよぉ…。センテネル…。センテ……………………」
そう言いながらエトナは静かに目を閉じていった。




