黒のボードゲーム
外がうるさいと感じながら、王女様は目を覚ました。
どうやら、ボードゲームトーナメントは王女様の睡眠を邪魔してしまうほど、白熱していたらしい。
「………」
「申し訳ありません。王女様。今すぐ止めさせます」
執事は慌てて、注意をしに行こうと馬車のドアを開けるのだが。
「いいえ、かまわないわ。絶対に彼らを責めるのは止めて。明日からもっと大変になるのだから。今日くらい遊ばせてあげた方が」
「大変申し訳ありません。王女様。では、30分後に終わらなかったら兵士隊長に止めさせます。あの様な者へのお慈悲をありがとうございます」
そう言うと執事は王女様の馬車を後にした。
「……やっぱり、近い。近くにいるのね?」
王女様は一人で窓の外の景色を見ながら呟いていた。
さて、場面は戻り、トーナメントの後。
「明山ってのか。よろしくな」
「こっちのお嬢ちゃんは黒さんか」
数人の護衛隊であった観客達は焚き火を囲んで話をしている。
俺も黒もその輪に参加しているのだが、このまま朝まで話通す気なのだろうか。
黒が今までの武勇伝を自慢げに話しているのを彼らは真剣に聞いていた。
すると観客だった一人が俺の前に手を出しててくる。
「明山さん。黒さん。あの…握手をお願いします」
その一人と握手をした後に他の人たちも、
「俺も魔王軍幹部を討伐した人と出会えるなんて」
「憧れます」
「どうかサインを!!」
初めて握手を求められてしまい…流れるがままに握手をしていく。
黒は普通に握手をしているが、そんなの俺には真似できない事である。
今まで沢山の人の為だと願って行動してきたが、握手なんて求められる事はなかった。
それは勝敗でもまた同じ。
そうして、されるがままに全員と握手をしたのだ。
「今夜は宴会よぉぉ。出会った記念に宴会~」
黒はテンションが高まりすぎているようである。
その声に俺以外の全員が賛同している。
流石だと喜んでいいのか。マジかよと落ち込んでいいのか。俺には分からないが、こういうノリも嫌いではない。
むしろ、このまま見続けていたい。
「────いいや、寝ろ!!!!」
その瞬間、妙義は俺たちの前に立ちはだかった。
「えっ…。でも?」
一人の男が妙義に反抗しようとしたが、
「私たちは遊びに来たのではない。いいから寝ろ!!!!」
睨み付けるような視線を浴びさせられた。
これ以上逆らえば何をされるか分からない。
「「「あっ、はい……………………」」」
全員が妙義に怯えてしまい、自分達の馬車へと帰っていく。
今夜のあつまりはこれにて終わりである。
妙義も死神さんも馬車の中に入ってしまい、先程までの宴会気分が嘘のようである。
俺と黒はたき火の後始末を済ませていた所、夜空には星空が輝いていた。
「綺麗」
「そうだな」
黒の星空を見る目はきらきらとまるで憧れていたモノでも見るかのように輝いている。
黒はそのまま地面に座り込む。
「ねぇ…。一つ答えの無い質問をしてもいい?」
「ん? いいけど?」
何か不思議な雰囲気になったのだろうか。
黒が黒らしくない質問をするつもりらしい。
「もしも、貴方を想う1人とそれ以外の全て………のどっちかしか救えないなら、あなたはどちらを選ぶ?」
これは、噂でいうトロッコ問題というやつだろうか?
「俺なら…選ばない。その1人の代わりを俺が務める。それで、俺以外の全てが救われるならな」
「………ふっ。変なの。あんた…少しくらい自分を大切にしなさい」
黒の言うとおりなのだろうか。
自分では気づかなかったが、俺は自身の心配などしてこなかったのかもしれない。
すると、黒は少し微笑して立ち上がる。
「どこにいくんだ?」
「寝るのよ。明日も早いから。じゃあ、先におやすみ~」
そう言って、馬車へと戻っていく黒の背中を見送る。
「自分を大切にしなさい……っか」
俺は先程の黒の言葉を胸に、1人星空を見続けていた。




