ゴーゴーサイン
場所は移動し、ここはとある賑やかな町。
その活気のある町の中でひときわ目立っている建物があった。
どの建物よりも高く、どの建物よりも立派。
それは貴族や王族が使う用のホテル。
ホテルの庭はまるで公園のように広く。
芝生や花が広がっていた。
その場所に何十人もの武装した人々が整列している。
もちろん、その中に俺たちはいた。
ここに集められた者達は、みな護衛の任務を受けに来た者達である。
そんな彼らの前に一人、鎧を着て彼らの注目を浴びる男性。
おそらく、あの男性が隊長兵士なのだろう。
彼だけは面構えが違うのだ。
あの顔ならば、ある程度の年を取って衰えてはいるだろうが、なかなかの強者だと感じさせるオーラ。
彼は只者ではない事くらい誰だろうと分かっている。
「いいか?君たち……。今日、この護衛に参加してくれたのは感謝する。
だが…君たちはこの護衛に命を賭けるほどの決意があるか!!
ある者だけが残れ。そしてその覚悟を見せろ。それ以外は死ね!!!
王女様を近づく悪党どもは粉砕するんだ。分かったか?」
「「イエッサー!!!」」
その厳しい発言に全員、声を張り上げて返答する。
隊長兵士が演説を終えた後、彼は深呼吸をしてヒートアップした心を落ち着かせると話を進めた。
「では、続いて今回の護衛に参加していただくあの人を紹介する。ちょっと待ってろ」
そう言うと、隊長兵士は建物の裏に向かっていく。
だが、なかなかあの人というのは現れない。
みんな、ざわざわと不安そうに周囲の人と話し合っている。
それは俺らも同じことで……。
「なんだよ……。あの人って」
「さぁ~。でもどんな人が来ようと、私にとっては小者ね」
どうやら黒は自分がこの護衛メンバーの中で最も強いと言う自信があるらしい。
いったい、その自信はどこから来ているのか。
そして、3分後。
隊長兵士が建物の影から一人の女性の手を引いて戻ってきた。
「さぁ、お願いします」
「待ってください。まだ私…心の準備が出来てません。こんなに大勢の方の前で話すなんて…………」
引っ張られて全員の視界にさらされようとしている彼女には見覚えがある。
彼女は集団の目の前に立ち、壇上から彼らの顔を一人ずつ伺っている。
そういえば、あいつ……友達少ないから、集団の前で話すのが苦手だって言ってたな。
俺は彼女と会ったあの日の事を思い出していると……。
彼女は緊張しながらも口を開いた。
「あの…始めまして。死神です。死神さんと呼んで欲しいです…。あっ、あ…今回は皆さんで一緒に王女様を敵から守りましょう」
一瞬、静まり返る集団達。
死神さんの演説は先程の隊長兵士よりはまだ緩いと思ったのだが、ここまで緩すぎていたのだろうか。
すると、集団達は彼女の言葉をどう受け取ったのか。
「死神さんだわ。死神さんよ」
「ウオォォォォ。さすが死神さんだ」
「感動した。俺はこの任務に本気で命を賭けるぜ」
「死神さんが参加してくれているなら、もう成功したも同然だな」
みんなの護衛任務へのやる気が高まっている。
どうやら、俺が予想していたよりも死神さんの人気は凄まじいものだったようだ。
盛り上がっているのは、俺たち以外。
なんだか、みんなが張りきっているのを見ると、場違いのような気がしてこの場所に居づらく感じる。
そういえば、死神さんは結局 自分の名前を死神としているようだ。
しかし、よく皆あいつの名前に驚かないよな。
俺だったら、目の前にいきなり死神が現れたら、叫んで恐怖して助けを乞うと思うのだが。
まぁ、山の名前が入ってるのが多い世の中であるなら、みんな慣れてるものなのだろうか。
演説も終わり、みんなが自由になった頃。
俺は大勢の前で演説をするという死神さんの成長を嬉しく感じ、心打たれていたのだが。
どうやら、妙義は別の所に目がいっていたらしく。
「明山見ろ。あそこには王レベルのである『銀狼の空木』がいる。
それ以外にも沢山の強者がいるぞ」
目をキラキラと光らせながら妙義は俺の肩を叩いてくる。
彼女に言われたとおり、その方向を見ると……。
ワイルド風な男が隊長兵士と話し合っていた。
さすがに話し合っている最中にサインを貰いに行くというのも…と思ったが、前回初めて会った時に見ず知らずの俺たちを守ってくれたから、サインはくれるかもしれない。
「そうなのか? なら行ってこいよ。会話が終わった後にサインを貰ってくれば良いじゃないか」
「ああ、行ってくる」
まさかの即答!!
妙義はまるでブリキのロボット玩具の用に緊張した足取りで彼らのもとに向かっていく。
よほど緊張しているのだろう。
そんな妙義を見送った後に、俺はその後ろを歩いている者を見つける。
周囲を確認しながら、バレないように忍び足で彼女後を追う者に、俺は少し驚きながらも声をかける。
「あれ? 黒もあいつらにサインを貰いに行くのか? お前は行かない性格だと思ってたんだけど」
「ひゃっい?!??!」
突然、声をかけられてビックリしたのだろう。
黒がサインを書いてもらうための色紙を両手に大量に抱えて歩いていたのだ。
俺の質問にたいして黒は、振り返ると、欲望をさらけ出しながら答えた。
「あいつらの事は知らないけど、妙義がはしゃぐ位の有名人なら、流石の私でもサインを貰うわよ」
「黒、貰ったサインは売るなよ?」
そう言われた彼女は、黙ってサインを貰いに行くのを断念した。




