A-1 ドッジボール
導かれた運命が絶望だとするならば、俺たちは戦い続けなければならない。
例え、未来が既に決まっていたとしても…
(逃げろ)
俺は最後の1人になってしまった。 もう誰にも頼ることが出来ない。皆んなはもう居ない。 俺の息もかなり上がってきた。
「大体何の為に、俺と戦うんだよ!」
俺は背後の気配に気を取られた
「それが、ゲームだからだよ」
その言葉と一緒にボールが飛んできて
目の前が真っ暗になった。
歓声が沸き起こった。
《ドッジボール大会決勝戦。この試合勝者A組!!!》
会場内に音が響き渡る。
1人の女性が俺に声を掛けてくる。
「ほら、いつまで寝てるの。試合終わっちゃったじゃない。立てる?」
彼女の名は、高城 瑞穂 。クラスのメンバーで誰にでも優しいマドンナ的存在だ。
「おっ…ありがと…」
「此奴赤くなってんの!」
「ちげえよ…ボールの当たりどころが悪かっただけだよ」
「おいおい、素直になんなさいよ」
「だからちげえって…」
俺をよくいじってくる此奴は、冴島 隆 。クラスのメンバーで、まぁ、簡単に言えば腐れ縁ってところだ。
「瑞穂。行こ、此奴らと居てたらバカうつっちゃうよ」
「あっ?誰がバカだこら?もっかい言ってみろ」
「何度でも言ってあげるバカバカバカバカバカ」
「てめぇ、言わせておけばこのブス!」
「ちょっとあんた女の子に向かって…」
隆と張り合っている女の子は、田上 陽菜。 気が強い女の子ってところだな。
「2人とも落ち着けって…」
「取り込み中か?京斗」
A組の荻野昴が話しかけてきた。此奴は俺の幼馴染。運動神経が良く、おまけに頭が良くて、イケメンだ。どこをとっても完璧な男だ。
「やっぱA組は強いな。ちょっとや其処らでは勝てないぜ」
「B組も中々強かったよ。もしかしてたら負けてたかもしれない」
「お前それ本気で言ってんのか」
俺たちのこうした何気ない楽しい時間は刻々と終わりを迎えようとしていた。
陽が落ちてきて、辺りは徐々に暗くなり始めていた。俺は、隆と帰っていた。
「やっぱさ、A組のあいつ凄いよな」
「ん?昴の事か?」
「そうそう、成績優秀、運動神経抜群、それに顔もイケメンって…俺勝てるところないじゃん」
「まっ、そうだよな」
「おいおい、其処はお世辞でも、そんな事っ…んっ、んっ、」
俺は隆の口を手で抑えた。少し先に昴の姿、ともう1人女性?が歩いていた。
俺は隆の口に大い被していた手を離した。
「おい、いきなり何すんだよ、京斗。んっ、A組の荻野じゃねぇか。おいあれ、高城じゃねぇか?」
俺は信じたくなかった。だが、確かに、昴と歩いているのは高城瑞穂だ。
「あいつら付き合ってたんだなぁ、お前がモタモタしてるから先越されたんじゃねぇの?」
「は?ちげぇよ、そんなんじゃねぇよ」
「やべっ、もうこんな時間かよ、先帰るわ京斗。じゃあな」
「バイトの時間か、気をつけろよ」
「じゃまた、明日な。荻野にあの後どうなった?ってきいとけよ」
「ふざけるのも大概にな」
隆は直ぐに俺の目の前から姿を消した。
俺は、信じたくなかった。心が凄くモヤモヤする。払い取ろうにもフィルターが何重にもなっていて拭えない。 確かに、高城瑞穂と一緒にいると楽しい。だが、それは、クラスメイトとして…俺には分からない… よりによって昴と…
俺は無意識のうちに2人をつけていた。どうしても信じたくなかったただそれだけの理由で…
2人は段々と人気の無いところを歩いていく。 俺はいけないような事をしている気持ちがしてきた。だが、後には引けない。 お母さんごめん。 2人の声が聞こえるぐらいまでの距離まで近づいていた。
「荻野君。私達どこに向かってるの?」
「高城さんごめんね。急に一緒に帰ろうとか言い出して…」
「いや別に、私はそんな…」
「もう直ぐだから」
2人は、細い脇道へと入っていく。
「ここっ私の家とは逆なんだけど…ねぇ荻野君。私そろそろ帰りたいんだけど」
俺は、ただ尾行をしていた。お母さんごめんなさい。
昴は足を止めた。
「荻野君どうしたの。急に止まって…」
荻野昴は高城瑞穂を壁に押し倒した。
「もう、我慢出来ない…」
「駄目だよ…こんな所じゃ…」
俺はスマホを取り出し、『俺氏、クラスメイトの美女が幼馴染に襲われるwww』のスレッドを立てる準備に入っていた。
だが、そこで、見た光景は余りにも予想を上回ってしまった。
脇道から声が漏れる。
悲鳴と共に。
俺の右手に握りしめていたスマホが抜け落ちた。
今日の天気予報は晴れのうち雨だったのか。赤い雨飛沫が、脇道を染める。
俺は恐怖に沈んだ足を、家へと運んだ。