第1章 (8)
社長に頼まれた西谷平での補修は夕方までかかり、紅哀の滝駅に戻った頃には辺りが暗くなっていた。
一緒に降りたのはいつもの高校生で、羽祐がこんばんはと声をかけると小さく会釈をした。
すっかり遅くなって駅長は大丈夫だろうか。羽祐は駅の掃除や片付けを終わらせて電気を消すと、自転車で急いで戻った。
部屋に入るとカチャカチャと音がしていた。駅長が水を飲んでいるのだ。羽祐が電気を点けても、駅長は構わず飲み続けていた。
まったく、ハムスターにもいろいろといるもんだ。羽祐はしみじみ思う。今まで飼っていた子のほとんどは、電気を点けるとハッと動きを止めた。しかしこの駅長は突然の明るさにもまったく動じない。
そこまで肝が座っているのなら、部屋の一周だって堂々とすればいいのに。しかしそれとこれとは話が違うらしい。
羽祐はえさ箱を洗い、巣材の汚れたところを取り除いた。手を入れるたびに、駅長は餌をねだり、手にまとわりついてくる。よじ登ろうとして、コロンと転がり落ちる。
「さて、ご飯だよ」
話しながら、えさ箱にペレットをザッと入れる。駅長はすぐにそれをほっぺたに詰め込んでいく。
以前あげていたのは「ザ・ハムランチスペシャル」というペレットで、それはミルクと卵をたっぷり使ったと売り文句を書いてあるだけあって食いもよかったが、その分太ってしまった。その反省から、今はアガリクス配合の「ハム・セレクト」だ。風味がよくないので食いもイマイチだが、健康にはいい。
主食はやはり、こうでないといけない。
えさ箱の「ハム・セレクト」を全部詰め込んだ駅長は巣箱に入っていった。ここからひと眠りするのが、決まったパターンだった。そして駅長が起きてくるまでに自分の夕飯をすますのが、羽祐の方のパターンだった。