表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハムスター駅長  作者: 曠野すぐり
第1章
7/18

第1章 (7)


 羽祐は翌日、少し早めに起きて駅に向かった。10時ちょっとすぎの上りで西谷平に向かわないといけないので、それが来るまでに掃除や諸々を終わらせておきたかったからだ。

 

 ピンと張り詰めた空気の中、自転車をこぐ。朝の陽射しが霜柱に当たり、畑一面が光を放っている。

 首をすくめながら、立ち漕ぎで漕いでいると体が暖まってくる。ようやく全身がほぐれたころに駅に着き、持参した水筒の熱いコーヒーを飲んでさらに体を暖める。

 暖房は小屋の中の小さなストーブ1台だけ。そんなものに頼れないので、体を動かし続ける。以前の、ひたすらじっとしていたときには考えられなかったことだ。

 

 まだ通勤時間には早いのに、ひとり客が改札を通る。都内まで通うサラリーマンの沖野さんだ。

「おはよ、寒いね」

 沖野さんは厚手の手袋をはめている右手を小さく上げる。羽祐は箒の手を止めて、頭を下げる。

 沖野さんはこの駅を日々使う客の中で、もっとも早く出て最も遅く戻ってくる人だ。ときおり都内で泊まってくるようで、帰ってこない日もあった。沖野さんが帰宅する最終電車では羽祐は引き上げてしまっているので、そこでは会わない。朝、ホームに現れないとき、沖野さんは都内に泊まったんだなと気付くのだ。


 だから沖野さんは、普段、ハム駅長を見ない。ごくまれに午前中から駅長を連れてきたときと、沖野さんの休日にわざわざ駅まで見に来たとき。それくらいしかなかった。

 わざわざ来たときは犬の散歩も兼ねていたので、そばには寄ってこなかった。沖野さんは3匹の犬を飼っていて、大の犬好きなのでこんな田舎にひっこんだと教えられた。自然が溢れるこのあたりを犬と一緒に駆け回っていると、遠距離通勤のたいへんさも吹き飛ぶと笑顔で羽祐に言った。

 

「もう一匹ね、スピッツも飼ってるけどねぇ」

含み笑いで沖野さんが言い、羽祐はその笑いの意味が分からず受け流していたが、そのときちょうどいた社長が、意味に気付いて大人2人で笑いあった。

「うちにだっていますよ、キャンキャンと、ね」

 社長が付け加えてさらに大笑いしていた。

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=686136279&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ