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第1章 (5)
社長は小部屋に入っていく。羽祐もそれに続いた。
「悪いね。次の上りまで待たせてもらうよ」
そう言って社長は缶コーヒーを開けた。そしてひと息に飲み干す。
「で、一つ頼みがあんだけど。となりのさ、西谷平駅、けっこういろいろガタがきてんだよ。クギが出ちゃってたり危ないところもあって。明日の午前中、応急処置に行ってくれるかな」
丸花鉄道はほとんどが無人駅だ。だからなかなか目が届かない。
「はい。工具箱持って行ってきます」
「助かるよ。10時15分のやつで行ってくれないかな。運転手には言っておくからさ」
ローカル線なので、駅と駅にはだいぶ距離がある。沿っている道も山あり谷ありで、自転車で行くことも困難だ。
「この駅は羽祐にいてもらってるから、ホントきれいだよ。あぁ、今度寝袋でも持ってきて駅寝しようかな。昔やってたみたいにさぁ」
社長は小部屋を見回しながら言った。面と向かって言われた羽祐は照れを隠すため、缶コーヒーを開けて飲んだ。
羽祐がコーヒーを飲むのに合わせるように、駅長もカチャカチャと給水器から水を飲んでいた。