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ハムスター駅長  作者: 曠野すぐり
第3章
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第3章 (2)


 駅の入口に設置している自動販売機の前に立ち、小銭を入れようとした瞬間に、羽祐は人の気配を感じたのだ。


 小部屋はちょうど、自動販売機の裏にあたる。羽祐は自動販売機に手を付いて、その後ろの板壁に耳を近づけた。

 あきらかに、中で音がする。ガサゴソと、何かが動いている音が。

 風もそう強く吹いていないし、機械の出す継続的な音でもない。羽祐は首を伸ばして小部屋の入口をチラッと見てみたが、ドアは閉まっていてガラスも割れていない。この辺りはときおりイノシシが出ると聞いていたが、大型動物ということでもなさそうだ。

 

 なんだろう、と羽祐は考える。社長、運転士のコウさん、リスさん…。ここに来そうな人物を思い浮かべてみる。ヨシさんや、この前のトレッキングの男など、客が休憩しているということもあり得る。しかし昨晩は休みの前ということで、しっかりと2重に鍵をかけて帰った記憶があった。客であれば、それをわざわざ開けて入るということは考えづらかった。


 不法侵入者だったらどうしよう。もし相手が突っかかってくれば、ひょろひょろの羽祐などひとたまりもない。しかも午前のトレッキングで疲れきっているところだ。

 とりあえず中の状況を掴まねばならない。羽祐は知っている顔がいるようにと念じながら、再び首を伸ばして小部屋の内部をすばやく見渡した。

 願いも虚しく、知らない男が立っていた。男はホームの方を向いていたので羽祐と視線がぶつかることはなく、それに関してはよかったが、しかし背が高くやけに体格のがっちりした、若い男だった。見た感じ、とても鉄道ファンではなさそうだし、ましてやハムスターを見に来たなどとはとても考えられなかった。


「うーん、どうしよう」


 羽祐はため息をついて首をふった。これからあの男と対峙しなければならないと考え、ズシーンと気が重くなった。

 何故あなたは勝手にここに入っているのか? まずその問いをぶつけ、最終的にはおとなしく出て行ってもらわなければならない。なにかと物騒なこの世の中、なにも取るものもない無人駅だが、その代わり人の気配もなく、どういう展開になるか想像ができなかった。

 

 次の列車が来るまで待とうか。しかしまだ1時間以上ある。以前の羽祐なら躊躇し、逃げ出してしまうところだ。なにしろ今日は休みの日なので、ここで踵を返して家で駅長さんと昼寝をしてしまえばいいだけの話だ。駅長さんに倣って、耳を折りたたんで。

 でも、羽祐には、以前の自分とは違うという意識があった。ここは自分が守らないといけない駅なのだ。勝手に入り込んでいる不審者がいれば、休みだろうが対応するのが当たり前というものだ。羽祐はゴクッと唾を飲んだあと、足を踏み出した。

 

 


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