第3章 (1)
次の休み、羽祐はトレッキングのために山へ向かった。
とはいっても、住んでいる家から裏山へ入っていっただけのことだ。
寒いだけで、自然を満喫している感じがまったくしない。せめて何駅か丸花鉄道で移動して山に入ればよかったと、羽祐は後悔したがもう遅い。すでに1時間は歩いてしまっている。今さら戻る気はしなかった。
ある程度山を登ったところで、周囲を見回しながら用意のおにぎりを食べた。冬で、枯れ木ばかりのなかで食べる冷たいおにぎりは、わびしさが募ってくるだけだった。ふと、リスさんが持っていた水筒を思い浮かべた。ああいったものがあると、もしかしたら景色も違って見えるのかもしれない。今度はもう少し、準備を整えて来てみよう。そう考えながら羽祐は下っていった。
家に帰った羽祐は、あらためて、温かい昼飯をこしらえて体を暖めた。時間を持て余した羽祐は、結局午後から駅に向かっていった。
いつもこうだった。休日でも駅に行き、いろいろと動いてしまう。ちゃんと休めと社長に言われるのだが、駅が自分の住処とばかりに、自然と足が向いてしまう。
この場所に来る前、羽祐は足が棒のように動かないことがあった。今、足が勝手に職場に向かっていってしまうのと正反対に、足が職場に一歩たりとも近付いてくれなかった。
そうなってしばらくして、当然ながら職場から放り出された。クビになってしまったのだ。自分の体なのに、どうしてそうなったのか、今考えても分からなかった。
失業している間、家にいるのも気まずく、電車に乗りこんでふらふらとうろついた。そしてこの路線を見つけ、雰囲気が気に入り、通うようになった。特にこの駅が気に入って、来てはぼんやりしていた。
あの頃の気持ちや行動をときおり考えるが、羽祐はよく思い出せなかった。
駅に着いた羽祐は、小部屋の中に人の気配を感じた。