表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハムスター駅長  作者: 曠野すぐり
第2章
15/18

第2章 (7)


 紅哀の滝駅をときおり訪れては、持参した酒を呑む女。彼女が丸花鉄道の本社に勤める社員だということは知ったが、名前までは知らなかった。そこで羽祐は尋ねたのだが、

「え、私の名前? えっとね、リス」

 と、はぐらかされた。


 そこで深追いはせず、そうですかと軽く流して翌日運転士のひとりに聞いた。すると運転士も、彼女はリスだという。どうも、羽祐に聞かれたらリスと答えるようにと、女に先回りされたらしい。


 もっとたくさんの人に、しつこく聞けばおそらく分かるに違いない。しかし根掘り葉掘りさぐっているように取られるのがしゃくで、羽祐はそれ以上聞きまわらないことにした。それ以来、羽祐は「リスさん」と呼ぶことにしていた。本人が名乗ったことなのだから、構うことはないはずだった。


 しかし、それからしばらくリスさんは来なかった。羽祐の日常はまた、会話の少ない生活となった。駅長さんには家でも駅でもたくさん話しかけているが、これは一方通行だ。

 

 ある日ヨシさんが、羽祐にイチゴのパックを差し入れた。

「いつも本当にありがとうございます」

 羽祐が頭を下げると、ヨシさんはもう一つ、ラップにくるんだ小さなイチゴを差し出した。農家が自宅用にと取っておいた、とっておきのものだという。これを駅長にあげてほしいという。まだ夕方の早い時間で駅長が寝ていたので、起きたら必ずあげると羽祐は約束した。

 

 丸花鉄道は沿線に海も雪山もなく、どの季節にも賑わいを見せないローカル線だ。社長がいろいろな工夫をして持ちこたえているが、それがなかったら廃止になっていることだろう。もしこの鉄道がなくなったら、ヨシさんのように毎日医者に通っている人たちはどうなるのだろうか。存続のために羽祐はがんばっているが、その自分のがんばりがあまりに小さく感じ、日々悩んでいた。

 

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=686136279&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ