第2章 (2)
朝、雲一点ない青空だったが、空気はピンと張り詰めていた。
自転車は風を切るので、羽祐は完全防備だ。薄いけど伸縮性のある手袋の上に、皮の厚い手袋。自転車のハンドルには防寒のフードが付けられているので、手の防寒は三重ということになる。
作業服に風を通さないようレインコートを羽織り、その上に作業用のジャンバー。さらに厚手のコート。自転車の運転が妨げられないよう、窮屈にならないサイズの大きなものだ。首にはマフラーをぐるぐる巻き。毛糸の帽子は耳まですっぽり覆っている。本当は目出し帽ですっぽり覆いたいところだけど、眼鏡が邪魔なのでそれはやめた。
作業ズボンの上にもレインコートの下を履き、靴下は2枚。着膨れも着膨れ、こんなモヤシのような体を守るためにこれほどまで多くの布を使うなんて非経済的だなと思うが、寒いものは仕方がない。それに、駅長のお世話に駅の管理と、休むことのできない仕事も抱えていて、風邪をひかないようにすることも重要だった。
紅哀の滝駅に着いた羽祐はいつものように、ぺこりと小さく頭を下げてから改札をとおった。だれがいるわけでもない無人駅だが、やはり職場には朝の挨拶をして入っていきたかった。
小部屋に入り、ストーブをつける。コートだけ脱いでハンガーにかけ、持参の水筒から熱いコーヒーを一杯用意して、ホームに出る。
いつものように朝の日のすばらしい眺め。寒すぎて勝手に涙が出てきてしまうほどだけど、心が洗われるような青空を見ながら熱いコーヒーを流し込むのが日課だった。