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EXM-エクスマキナ-  作者: スプライト
第3章 〜最終決戦編〜
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第5話 「悪意」

 ―Side:モエ―


 モエはその光景を呆然と見ていた。凡人が天才に勝ってしまった。世界を救ってしまった。そんな、ありえないはずの光景を見て、


「あは……はは、あはははははははははははっ!」


 心の底から笑った。


 モエとトオルは”同じ”はずだった。天才の両親と妹に囲まれ続けた凡人のモエ……そして、天才の両親と幼馴染に囲まれ続けた凡人のトオル。だがトオルはモエのように狂気に走ることなく、願いを成就させてしまった。


「なんだ……やれるんじゃない。やれたんじゃない……私達みたいな凡人でも」


 泣き笑いのような表情で、モエは言う。


「ただ純粋に努力し続ければ、叶ったかも知れなかったんだ……」


「――今からでも叶えられるよ」


 モエにアイが言った。


「今からでも全然遅くないと思うな、わたしっ」


「そう、かしら」


「そうだよ。お姉ちゃんがロボットを好きな気持ちを取り戻せば……その”好き”って気持ちに愚直であり続けられれば、必ず叶う。お姉ちゃんはいつか、お父さんやお母さんだって越える、研究者になるよ」


「……そう。そうね。忘れてたわ……私はロボットが好きなんだった」


 モエはずっと昔、まだ純粋にロボットが好きだったあの頃の笑みを浮かべた。


「にしてもアイ、あんた『自分をも越える』とは言わないのね」


「うぇっへっへぇ〜。だってトオルくんと約束したからね〜、わたし。最高のロボットは、わたしが作るんだもん」


 モエは「それもまた”愛”か……」と苦笑した。


「よーしっ! そうと決まったらお姉ちゃん! 帰って一緒にロボットアニメを見たいな! ふっふっふ……実はお姉ちゃんが特に好きそうなロボットが登場するアニメのビデオテープを手に入れてね……」


「今時ビデオテープって……よくそんなもの手に入ったわね」


 アイに手を引かれて、モエは師団長室から出ようとする。不思議なものだ。先ほどまであれだけ重かった心が、今は軽かった。


 と、部屋を出る前に、この非人道的な研究にGOサインを出した、”共犯者”たる男へと振り返る。


「それで、貴方はどうするの? 私達はきっと近いうちに裁判に掛けられるでしょうけれ」


 言っている途中で、モエはその違和感に気付く。嫌な予感が、全身を一瞬で包み込んだ。悍ましさや恐怖が、身体を這い回っていた。口からその感情が言葉となって紡がれる。


「――貴方、一体誰?」


 包帯塗れのその人物は、モエを見て冷たく笑ったような気がした。モエは、アイに引かれていた手を離し、ミイラ男へと掴みかかる。その包帯を引き剥がした。


「なん、で……あんたが……!?」


 そこにあったのは、


「――姫野ヒメノ、2尉」


 陸将たるヒロの副官付せわがかり――姫野カキネの顔だった。


「これは……一体、どういう……」


 カキネはモエの問いに、すっと薄く笑みを浮かべる。人口喉頭チョーカー……いや、そう思い込まされていた”変声機”越しに声が発せられる。


「始まるのですよ。”あの方”の――いいえ、”我々”の復讐が」


 復讐――その言葉と門口ヒロという男を並べた時に思い浮かんだのは、”拷問”だった。14年前の戦いの折――当時、新津タツミの側付きだった彼は”外国人”に拷問を受けている。新津タツミの情報を引き出そうとされた、らしい。身体中の傷はその痕跡だとか。


 だが今は寧ろ、積極的に外国人を雇用してさえおり、それも含めて陸将の地位が相応しい、と昇格してきた……はずだった。


「既に邪魔者ギンの処分は終わりました。そして今、”終焉エンディング計画”も成就された」


「終焉計画……?」


 ――そんなもの、私は聞かされていない。


 いやそれよりも、ギンを殺したのが狙っての事だとするなら、


「――貴方達、わざと暴走させたわねッ……!」


 憎悪の目をカキネに向けた。モエの作った”クローン”が暴走したのは、偶然じゃない。意図的なものだった。そして、それをなし得たのは、モエを除けば一人だけ……。


「あの子も、グルだったっての……!?」


 モエの脳裏に浮かんだのは、天才――後輩の姿。彼女なら、モエの目を盗んで計画に手を加える事など、容易だったに違いなかった。


「演出された最終決戦エンディングは今、終わりました。”魔王ラスボス”が”勇者ヒーロー”に倒され、世界は歓喜と幸福に包まれた」


 滔々とカキネの口から言葉が溢れ続ける。


「門口はどこへ行ったのッ!? 答えなさいッ!」


 モエはカキネの襟首を掴み上げる。軽い身体に、長身に、細い手足。車椅子に座れば余計に人の体格は見分け辛い――彼女を雇用したのも、最初からこれを狙って? なら一体、どこからが全て仕組まれていた事だというのだろうか。


「さぁ、知りませんよ。けれど、一つ言っていました――『最後のトリガーは、私自ら引こう』、と」


 それと同時、


 ――砲撃音が響いた。


 時間が止まったような錯覚。世界から温度が消える。世界から色が消える。振り返った先――ディスプレイに映っていたのは、砲弾に撃ち抜かれ、胴体をバラバラと撒き散らしながら倒れるシュウエンと、砲口から煙を立ちのぼらせる”外国部隊の戦車”だった。


 高い場所から落ちた物ほど深く沈む。歓喜と熱狂は、憎悪と憤怒へと一気に反転した――……


   *  *  *


 ―Side:Other― 


 その光景を全員が目撃していた。上半身を失ったシュウエンは傾いでいき、地面に転がった。


『なっ……何しやがる!?』『やっぱり外国人はっ……!』『中核型を奪う気だッ!』『よくも、仲間をッ……!』『殺してやるッ!』『なんで実弾なんて……!』『最初からこうするつもりだったんだッ!』


 通信に怒りの言葉が飛び交う。だがそれでも皆、自衛官として何より精神を鍛え抜かれた者達だ。反撃ではなく、上官の指示に従い、戦車から距離を離す事を優先させようとした。しかし、その時。


 ――プシュウウッ。


 と首元で音が鳴った。薬物が注入される。それは”キーマン適正を高める”劇薬――OBAnaxオビエナックスだ。副作用の存在するそれは、上官の許可でロックが外れ、身体に注入される事になる。


 ――だが、なぜ今なのか。


 既にECHOは動きを止めている。戦いは終わったはずだ。そう考える理性は――吹き飛んでいた。爆発するような勢いで感情が膨らんだ。もはや頭にあるのは、憎悪と憤怒だけだった。


『ァアアアアアアアアッ!』


 トリガーを引く。引く。引く。スタン弾を片端から戦車へと打ち込む。ほぼ全てのEXMが外国部隊へと向けて攻撃を開始していた。そうなっては外国部隊も黙っていない。砲弾で反撃する。


 ――人と人との戦いが、そこにはあった。


 だが両陣営の違いを挙げるなら、戦車は圧倒的だった。EXMの放つスタン弾はあっさりとその装甲に弾かれ、あらぬ方向へと飛んでいく。対して戦車砲による一撃は、直撃すればEXMを一発で粉微塵にし、躱しても付近に着弾すれば爆発で関節が破壊された。


 ――蹂躙。


 そんな言葉が似合うほどに、一方的にEXMは駆逐されていく。それでもパイロット達は抵抗をやめない。トリガーを引き続ける。人が次々と死んでいく。機体のロックを管理している上官までもが全員暴走している。誰も、止められない。


 ――戦争。


 これはまさしく戦争だった。憎悪を向け合い、憤怒をぶつけ合う、殺し合いだった――……



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