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EXM-エクスマキナ-  作者: スプライト
第3章 〜最終決戦編〜
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第2話 「蘇る緋色」


 ―Side:トオル―


 ミツキとの決闘染みた戦いを終え、格納庫へと辿り着いたトオル。慌ただしく技術者が動き回るそこで、彼はそこで愕然と立ち尽くしていた。


「――機体が、一つもない」


 あるのは、ハンガーに固定された、壊れて動きそうもない機体だけ。いや、よくよく考えればこの状況は当然過ぎた。トオルに出撃命令は降りていない。プッシュバックは隊員で共有だ。わざわざトオルの為に残しておいてくれているはずもない。


「俺、馬鹿過ぎるだろッ……」


 そこへ、


「トオル君っ!」


 と、声。振り向けばそこにいたのは、


「フライクーゲル2尉!? 一体、どうし――」


「――いいからこっち! もう準備は出来てるよ!」


 なぜか格納庫にいた、片腕を懸架しているエイミー。トオルはわけがわからぬまま、彼女に連れて行かれ――。




 ……辿り着いたのは、またしても例の骨董蔵だった。彼女に引っぱられながら骨董蔵の奥へと進んで行く。


「フライクーゲル2尉、いい加減に説明を……」


 そう、彼女に問いかけた時。カッ、とライトが一つ灯った。それは連鎖する。二つ、三つ、四つ……やがて全てが灯り、そこにある姿を映し出した。


 EXMだ。現行機よりも直線的で無骨な造形。装備も旧式のものばかり。そして何よりも特徴的なのは、その緋色のカラーリング。それは間違いなく、


「――シュウエン……なんだ、ここに」


 かの英雄が駆ったシュウエンに相違なかった。


「言ったでしょ、”骨董蔵”だって」


 エイミーがくすくすと悪戯げに笑う。と、そこへ嗄れた怒声が飛んでくる。


「こぉっらぁあああ! 着いたならさっさとパイロットスーツに着替えてこい! 怪我人はこっちじゃッ! 片腕でもコンソールの操作くらいは出来るじゃろッ!」


「まっかせといて!」


 エイミーが大声で返し、どんっとトオルの背を押す。ととっ、と蹈鞴を踏んだ先には、木箱の上に投げかけられたパイロットスーツがあった。これまた随分と旧式だ。


 トオルはいつかの授業で、タツミが――父がこれを身に纏っているのを見たのを思い出した……。


   *  *  *


「こいつ、本当に動くんですか。10年以上の前の機体ですよね?」


「はッ、馬鹿ぁ言ってんじゃねぇよ! メンテは10年前からずっと万端じゃわッ!」


 パイロットスーツを纏いコックピットに腰掛けたトオルは、老人の怒声に素直に頷いた。不思議と、彼が言うのなら本当にそうなのだろうと思えた。老人のシュウエンを見る目には、紛れもない”機械への愛”があった。


「こっち確認終わったよー!」


「はッ、中々早ぇじゃねぇか。パイロット辞めたらここで雇ってやる。……よぅしッ、こっちも今終わったッ! 起動しろッ!」


 エイミーの「こんな錆と埃塗れの場所は勘弁」という軽口を最後に、前面装甲が閉じられる。薄暗くなったコックピットの中、トオルは起動鍵メモリキーを差し込んだ。モニタをタッチしパスワードを入力。滝のように文字が流れていく。最後に一文が表示された。


『MAN-type Instrument's Attitude Control - System』


 姿勢制御システム――MANIAC-Systemマニアクスが起動する。メモリキーを捻り、エンジンに炎を灯した。それと同時、


『『「――なッ!?」』』


 外の光が差し込んだ。激しい破砕音と共に、壁が一部が消えていた……いや、引き千切られたのだ。そこには投石機型がいた。さらにその少し遠方には、巨大な”口”も見えた。


 投石機型は引きちぎった壁を投げ捨てると、今度は拳を握り、振り被る。


「まずい……早く、早く……!」


 エンジンがその熱を、振動を高めていく。しかしそれよりも早く、振り被った拳が横殴りに放たれた。真正面から迫ってくる拳。起動は、まだ。


 ――ダメだ、間に合わないっ……!


 そんな、拳の前に薄茶色の影が立ち塞がった。


『『「――っ!」』』


 瞬間、衝撃が骨董蔵の中を激しく揺らした。拳を真正面から受けた薄茶色――プッシュバックの、足元のコンクリートが砕け散る。身体中の装甲が弾け飛ぶ。


『キャァアアアアアアッ!』


 エイミーの悲鳴が響く。プッシュバックはガリガリと足元を削りながら後退し、しかし、シュウエンやエイミー達の直前で停止していた。


 プッシュバックがこちらへ頭部を向ける。


『――起動ッ! 早くッ!』


 通信。その声はエイミーのものだった。トオルは出かかった様々な言葉を、飲み込む。代わりに正面を見据え、叫んだ。


「シュウエン――起動ッ!」


 そして、緋色の機体が14年振りに目覚める。頭部の”眼”から緋色の光をほとばしらせ、全身の関節を蠢かせる。ハンガーのロックが解除される。


『ここはあたしに任せなさいッ!』


「わかった」


 トオルは躊躇わなかった。ミツキ機と巨腕の横を走り抜ける。骨董蔵から飛び出し、前線へと向けて足を踏み出した。


『――あぁ、もう……』


 通信から声が聞こえた。


『あんまし、”本気な(カワイクナイ)”トコロ見せるのは主義じゃないんだけど……なぁッ!』


 それを最後にミツキとの通信が切れた。代わりに背後で、爆発の如く緋色の光が瞬き、投石機型が跳ね上げられるのを見た。駐屯地に侵略してきていた巨大な口にも、両腕の異様に肥大化した機体が飛びかかるのを見た。


 それからもう、トオルは余所見をするのをやめた。ただまっすぐに、愚直に、足を踏み出し続けた――……



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