第前話 「地球外からの侵略者」
完結済み作品の一気投稿です! なので失踪はありませんご安心をば(笑
第1章終わりまでは一度にまとめて、その後は1時間に1話ごとの投稿予定となっています。最後までお付き合いいただければ幸いです。
――彼が願ったのは、もう少しだけ奇跡のありふれた世界。
理想が、夢が、希望が、あとほんの少しだけ現実になるような……そんな世界だった。
* * *
―Side:Other―
「――はい、こちら現場です! 私は今、昨夜に隕石の落下した中国地方の山中に来ています!」
ざわめく群衆の中、レポーターがインカムを押さえ大声で語る。彼女の背後には立ち入り禁止のロープがあった。その奥にはクレーターの淵がちらりと見えている。
「落下時の熱も落ち着き、現在は専門家が隕石を調査中との事です。これほどの規模の隕石は、2013年に落下したチェリャビンスク隕石以来、実に4年ぶりとの事で、怪我人が出なかったのは奇跡に近く、早くもこの隕石を崇める人が――」
レポーターが、その隕石がいかに貴重であるかを語る。
と、その時だった。
「――――――ァァッ!」
絶叫が、響いた。尋常ではない叫びに、現場が一時シンと静まり返る。カメラが一瞬ブレて、声の聞こえたクレーターへと向く。
「何か、あったのでしょうか……?」
レポーターが声を潜めて言った時、カメラにある物が映り込む。
「……指?」
レポーターが零した。
薄橙の肌に桃色の爪――人間の指だ。クレーターの端に、指先が掛かっていた。だが、見慣れたもののはずなのに、どこかがおかしい。
違和感が答えに変わるよりも先、その手が全容を現す。
「なに、これ……!?」
誰かの言葉を、マイクが拾った。
這い出してきたそこにあったのは、手だけだった。それも巨大な。その手はまるで蜘蛛のように五指を動かし這い上がってくる。その掌からはぽたりぽたりと真っ赤な血が滴っていた。
その怪物が駆けた。レポーターがいる方へと突進してくる。
「――――――ッ!」
悲鳴が響き渡った。
蜘蛛の子を散らすように、皆がいっせいに走り出す。レポーターも振り返り、脚を踏み出す。だが、逃げ出すには、判断があまりにも遅過ぎた。
怪物が跳んだ。レポーターへとその大きな五指が伸びた。レポーターがその顔を恐怖と絶望に歪める。それが巨大な手に包まれ、そしてあっさりと、いとも容易く、レポーターはぶちゅりと潰れた。指の合間から潰れた体液が、肉が、臓物がぶちゅりと吹き出していた。
手の怪物は、その身体を次の標的へと――カメラの方へと向ける。映像が傾いでいき地面で跳ねた――カメラが落下した。怪物がカメラに近づき――映像に影が落ちた。画面の外でぶちゅり、とグロテスクな音が響いた。カメラの映像が真っ赤に染まった。
カメラはその後も、クレーターを映し続けた。そこから這い出してくる、何十、何百という巨大な手の怪物を撮り続け――そして、最後にはガシャンと踏み潰された。
……西暦2017年、某日。
『退屈』という言葉が蔓延していた時代は突然終わりを迎え……絶望の時代が始まった――……