氷炎獣ケルベロス
シュウはフィリスを起こしまだ寝ぼけているフィリスを背中に背負い込んで戻ってくると焦りながらイリーネに問う、
「イリーネさんそんなにやばいのか?」
イリーネは険しい顔をしながらその質問に答える。
「リンの話から察するにここに向かってくるのはおそらく氷炎獣ケルベロスと呼ばれる獣じゃ、はるか昔に賢者と呼ばれる者たち3人掛かりで封印したといわれとる」
――氷炎獣ケルベロス!……たしかに俺の世界でも3つの頭をもつ犬ケロべロスはある神話の実在しない生き物としては知ってはいるがこっちの世界で本当にいるとは。
「だがイリーネさん封印されてたっていうんだろ? なんでいまここに?」
「そんなのはわからん……じゃが事実リンが見ている、嫌な予感はしていたがまさかこんな大物とはの……聞く限り間違いないじゃろう、急ぐんじゃシュウ匂いを覚えられたら捕食するまで追ってくるぞ、リン! 匂いを覚えられたのはどの頭かわかるか?」
「たぶん攻撃した左の頭だと思うのです」
「よし、リンはシュウを森の出口まで案内するんじゃ」
リンがイリーネにまさかという顔をしながら、
「でもばあはどうするです?!」
「リンはにおいを覚えられとる、ケルベロスは3つの頭に一つ匂いを記録すると書いてあったその頭をつぶさないとリンを永遠に追うじゃろう、それをできるのはわししかおらん」
リンは目に涙を浮かべながら訴えるようにイリーネに向かって、
「でもでもばあも匂いをおぼえられちゃうです!」
「わしは賢者じゃそう簡単にはやらせん。それにわしは……」
――!!
その時、近くでケルベルスと思われる咆哮が鳴り響く、
「急ぐんじゃ裏の扉から行け!シュウ」
「イリーネさん……ありがとう、まだ聞きたいことが山ほどあるんだ死なないでくれ」
イリーネはそれを聞くと振り向かずに真正面の扉から外にでていった。
「シュウ行くのです」
「こっちに裏口があるのです」
とリンは素早く案内しシュウはフィリスを背負いリンについていく。
森にでてしばらくするとシュウはあることに気付いた、フェアリー達がまるで見当たらないことに
――どこかに身を潜めているのか、いやそれでも逃げてる姿が見えてもいいはずだが……。、
とリンが、
「ばあは、きっと死ぬ気です、じゃないと僕らを逃がせないんです。」
シュウもイリーネのことは気付いていた。だが……残ってもなにもできない。きっと賢者と呼ばれるイリーネのことだ何か策があるのだろう。それならいても邪魔になるだけではないのか。と自分に言い聞かせている部分もあった。
「リンが匂いを覚えられて戻ってしまったから……こんなことになったです。匂いを覚えられなければきっとばあも一緒に逃げれたです」
リンはいまにも泣き出しそうな声で叫ぶように走っていた。すると、
「ここの道をまっすぐいけばシュウさんたちが来た木に辿りつくのです。僕は……僕は……ばあのところに戻ります」
「おい、リン!」
そういうとリンは素早く戻っていってしまった。何も言えずに立ち止まりリンが向かっていった方向を見つめるシュウ。するといつの間にかすっかり起きていたフィリスがシュウの背中から、
「ねえシュウ、フィリスよくわからないけどリン泣いてたね」
「ああそうだな……」
「このままフィリス達だけ逃げていいのかな?」
フィリスは申し訳なさそうな声を発していた。
「ああそうだよな……」
シュウはしばらく黙って考え込んでいた。
「シュウ?」
――わかっている俺たちが戻っても邪魔になるだけかもしれない……だが、このまま逃げてもきっと悔いは残る、何もできないかもしれないけど、死ぬかもしれないけど、だが……もしかしたら出来るかも知れない、俺達が行くことで二人は死なないのかもしれない、なら…ならば、
「フィリス、お前は逃げろ」
「ううんやだ!フィリスも行く」
「死ぬかもしれないんだぞ」
「フィリスだけ逃げるなんていや」
「……俺が死んだらおまえだけでも逃げるんだぞ」
「大丈夫シュウは死なない、シュウ超強いっていってたもの」
そういうとフィリスはシュウを見てにっこり笑う。
それを見たシュウは少しだけ勇気がでてきた。
シュウはフィリスを背負ったまま来た道を戻っていた。もう引き返せない。できればイリーネさんがさっそうと倒してしまっている。そんな淡い期待を持って……。だが……、
「うそだろ……」
シュウは家のあった場所まで戻ってきたはずだが、目を疑うのだった、さっきまでいた家が跡形もなく崩壊していたのだ。
「イリーネさんとリンはどこだ?」
「シュウあっち!」
フィリスが森の中を指さす、指さす方向で大きな音をたて木々が倒れ土煙が舞いながら巨大な物体が暴れていた、
すぐに土煙がはれその巨大な物体がシュウとフィリスの目に姿を現す、
「――!!」
声にならないほどの恐怖に足が竦む、シュウは息を飲み無意識に後ずさりをしていた、リンが言った通りだった頭が3つある犬、しかしそれだけではない驚愕したのはその大きさだった。シュウの予想以上に遥かにでかかったのだ。たとえるなら電車の1車両から頭が三つ生えた感じだろうか、さらにはそれが火を吐き氷を吐き目の前の獲物を食らわんと暴れまわっている。
――逃げたい、無理だ、勝てこってねえ……。やばい……気付かれないうちに逃げるべきだ。
「シュウ、イリーネさんが!」
シュウはフィリスの言葉に恐怖で狭まっていた焦点が広がる。
よく見るとケルベロスが吐いている炎の先に頭から血を流して魔法打つイリーネの姿が目に映った。イリーネは奮闘していた、リンの為に、二人の為に、しかし状況はどう見ても劣勢にしか見えなかった。
「リンがいないよ?」
フィリスの目にはリンが見えていないが、シュウの目にはリンは見えていた。きっと魔法で姿を消しながら戦っているのだろう。だからフィリスには見えていない、リンはイリーネを援護するようにケルベロスに向けて魔法を打っている。
――俺より小さな少女が戦っているのにおれはおれは……。
「シュウ、フィリスも戦う!下ろして」
フィリスはケロべロスを見て怖気づくどころか戦う気でいた、それを聞いたシュウは情けなくて仕方がなかった、
「くっそぉ!!!」
そのとき、イリーネさんがケルベロスの攻撃を受けてこちら側に飛ばされてくるのが見えた、
急いで震える足を抑えながらその方向に走っていくシュウ、
「イリーネさん大丈夫か!」
イリーネは近くでみると頭から血を流し、体中も傷だらけになっていた。
「なんでおぬしまで戻ってきておる……」
「よかった無事っぽいな、悪いけど戻ってきちまった、二人を犠牲に生きていくなんて俺には無理だわ」
「愚か者どもが……まだおぬしらは見つかっておらん、いまからでも逃げられるリンもつれてはやく逃げるんじゃ」
そういうとイリーネは立ち上がり再びケルベロスのもとへ向かいだす、
「イリーネさんケルベロスはやっぱり倒せないのか?」
「無理じゃろうな希望は薄い、出合頭に頭を一つ吹き飛ばしたが再生しおった」
――再生だと、無理ゲ―にもほどがあるだろ……。
「じゃが魔力は無限というわけにもいかんじゃろう何度か攻撃を与えればあるいわ……とはと思うが」
とその瞬間フィリスがシュウの背中からイリーネに魔法を放つ、
「フィーラ!」
イリーネを風が包むすると流れ出ていた血が止まり少しだが傷がふさがっていくのがわかる、
「ありがとうよ、フィリス。リンが心配じゃわしは戻る。姿を消しているとはいえ匂いですぐばれるじゃろう、おぬしらは早くここからさるのじゃ」
そういうとイリーネはケルベロスのもとへ消えていった、
「フィリスいまのは?」
「風と水の魔法、傷を治すんだよ」
「便利だな。フィリスまだ使えるのか?」
「あまり魔力を使わないほうだからあと五回くらいはいけると思う」
フィリスにもできることがあるじゃあ俺は何ができる……。
――様子を伺いながら逃げ回ることか……囮になることか……、
考えろその場にいけばやれることがあるはずだ、何のために戻ってきた、見てるためじゃないだろう!
そう自分にいいきかせると、
「いくぞフィリス」
「うん」
恐怖はまだある、怖い、逃げ出したい、だがそれよりも二人を死なせたくはない、その思いがシュウを戦いの場へ向かわせた。目の前でケルベロスとイリーネ、リンの二人が奮闘していた、シュウはフィリスを降ろし木に隠れながら様子を伺う、
「シュウどうするの?」
「ちょっとまてフィリスうかつにでてもやられるだけだ」
とシュウは今までの話を思い出していた、
――氷炎ケルベロス、イリーネさんの前の右の頭は炎を吐き、反対側のリンのほうの左の頭は氷の氷柱を口からだしている。氷炎かなるほどな……。イリーネさんは言っていた、昔に賢者三人掛かりで封印したと、今状況は劣勢だが二人でなんとか戦えてはいる、これが賢者と呼ばれる者三人、イリーネさんが三人いるとすれば勝てるんじゃないか?それをたおせず封印している……封印するしか手がなかったそういうことになる……再生するから?……再生するから封印するしかなかった? なら……
シュウの中で一つの答えがでようとしていた、そのとき、
「シュウ、リンが!」
フィリスが叫ぶ、リンがケルベロスの前足で吹っ飛ばされ、動けないでいた。
「まずい!フィリスここにいろ動くなよ!」
シュウは急いででリンのもとへ走る、ケルベロスがロックオンの態勢に入りリンに顔向け大きな口からいまにも巨大な氷の塊を発射しようとしている、
「リン!」
イリーネが反対側から必死に向かおうとしているが右の炎の頭が邪魔をし間に合いそうはない。
シュウの方が辿り着くのが早い、だがシュウもリンのもとへぎりぎり間に合わないと判断したシュウは一つの賭けにでる。
「頼むぞ俺の左手!!」
そういうとシュウはリンの前で立ち止まり左手を突き出し思いっきり手のひらをひろげる。
次の瞬間ケルベロスの口から発射された鋭く尖った氷柱はシュウの左手から直撃した。