賢者イリーネ
「今飲み物を入れるから、そこに座っておれ」
二人はばあとリンの家に入り、テーブルのある部屋に案内された。
飛び回っていたフェアリー達も一緒に入ってきていた。
とリンがシュウに、
「この子達は自由にさせてるのです。いつの間にか勝手にでていくのです」
まあ気にするなってことか。
「なんかやっと落ち着ける場所にきたな」
「フィリスもさすがに疲れたぁ」
シュウにいたってはこの世界にきて初めて落ち着く場所に辿りついた。ばあが飲み物を持って戻ってくる。
「リンから簡単に話は聞いた、それにその子たちを見る限りお前たちが危険な者たちではないと証明されとるようなもんじゃ」
とばあはシュウたちの周りを飛んでるフェアリー族たちを見ながら話す。
「この子たちってフェアリー族のことか?」
「フェアリー達はたとえるなら悪意に敏感なんじゃ。そんなフェアリー達がそなたたちの周りを好んで飛び回っておるそれだけで家に招く理由は十分じゃ、それに……」
ばあはフィリスのほうをに視線を向け、すぐにシュウへと戻す。
「まあそなたらがわしに挑んでも負ける気はせんがな」
シュウがなんでこうも簡単に自分たちを招き入れるのかという疑問を持っていたことを悟り、それに答えたばあにシュウは驚いていた。
「こんなものしかないが、味は保証するぞい」
と持ってきたのは澄んだ色をした液体が入ったコップだった。
毒……とかはないと思うがシュウはしばし警戒して口をつけようとしない
それを見たばあが、飲むのをためらっているシュウを見て、
「安心せい、毒なんぞいれちゃおらん」
とそれを聞いたフィリスは、
「飲もうよシュウ」
とコップを手にとりその液体を口にしようとする。
シュウはコップを持つフィリスの手を抑え先に勢いよく飲み干す。すると、
「う……まい」
体に異常もなさそうだし、平気だな。とフィリスの手をはなす、
手が自由になったフィリスも口に運び、
「わあおいしい」
と満足気に飲んでいる。
「それは森に成っている果実を絞ったばあ特製の飲みものなのです」
と二人をみてリンが説明する。
「でおぬしら、この森に来たいきさつはリンから聞いたが随分わけありじゃろ?」
ばあは話しながらシュウの対面に座る。リンもその隣に椅子の上に胡坐をかいて座る。
シュウの隣にフィリス、テーブルをはさんで、ばあ、リンといった形だ。
シュウはなにから話していいものかと考えてこみと黙り込んでこんでいると、
「警戒されてちゃ話すもんも話せん。大丈夫じゃわしらはおぬしらになにもしたりはしないわい。おぬしらを殺す気なら家に招いたりせん」
――それもそうか……。、
「そういえばまだわしの名前をいっておらんかったな。わしの名前はイリーネ=ソーンこの森に昔から住んでおる昔は賢者イリーネともよばれとった」
「ばあはすごいですよ。リンは一度も勝ったことがないのです」
リンが隣で誇らしげ語る。
「賢者? ってことはイリーネさんも魔法が使えるのか?」
「何をいうておる魔法なんぞこの世界の誰でも使えるじゃろ?」
魔法の世界だからと言っても使えない人間もいるだろうと思っていたシュウは驚愕の事実を知った。
――そうなのか。もしかしてこの世界で魔法は当たり前のように使えて、使えないのはおれだけってことか。するとイリーネが、、
「おぬし……いったい何者じゃ? とても興味深い、わしに話してみる気はないか?」
イリーネは見透かすような瞳でシュウを見てくる。
「わかった。隠す必要もねえし。話すよ、そしてできれば力を貸してほしい」
「力を貸せるかどうかはわからんが、できる限りのことはしてやってもよいぞ、内容にもよるんじゃが」
とシュウはイリーネ、リン、フィリスの前で語りだす。
自分は違う世界からやってきたこと。神と呼んだアウラのこと。フィリスを助けろといわれたこと。そしてフリートが崩壊するといわれこの世界へやってきたこと。
すべてを話し終えると、フィリスが隣で頬を膨らましむくれている。
むくれている原因はというとシュウが違う世界からやってきたという話をフィリスにはしていなかったからだった。
「えええええええええ!シュウ違う世界の人だったの?」
「ごめんなフィリス。落ち着いたら話そうと思ってたんだ」
と驚いたあと怒ってしまった。フィリスは自分にはもっと早くいってほしかったらしい。
対面に座っている二人はというと、
「う~む」
とイリーネは眉間にしわをよせ。
「リンには難しい話なのです」
リンにいたっては理解できているのかわからない感じだ。
「まあこんな話普通に考えて信じられるほうがおかしいよな……」
――フィリスだけは信じてくれてるが……。
と肘をたて顔に手をあてながらシュウはため息をついていると、
「なるほどのう、神と名乗ったアウラという少年それに、そなたの存在から見ても信じられない話ではないの」
「……信じてくれるのかイリーネさん!?」
シュウは立ち上がりテーブルに手をつき声を荒げる。
「まあわしの疑問もその説明ならあらかた線がつながるのでな」
「疑問?」
「そなたのその見たこともない服装、魔力が一切流れていない体に、それにそのよくわからん存在の左腕、さらにはこの少女の存在そなたが嘘を言っているようには思えんくらいつながっておる」
「魔力が流れていない体に左腕?」
――それに少女の存在だと?
「そうじゃの、聞きたいことはたくさんあると思うがまずこの世界の魔法の話しからしないといけないかの」
「願ってもないことだ頼む」
とシュウは座りなおす、
「よいかこの世界には今現在5つの属性がある。火、水、風、雷、地、この5つから成り立っておる。しかしじゃ基本一人一つの属性しか使えんそれは生まれた時から決まっておるのじゃ、例えばリンじゃが」
リンは座ったまま手の平を上にむけ玉状の水を出す、
「僕は水なのです」
――なるほどな……。
ここでシュウに疑問が浮かび上がる。
「だけどフィリスは火に……水も使ってたぞ?」
とシュウがそう発言すると、イリーネはフィリスを見て微笑していた。
「その子のことはわしも少しじゃが知っておる。だがその話はあとじゃ。いいか?基本一つじゃ」
イリーネは基本を強調して発言する、
「例外もいるってことか」
「そうじゃ。極まれに2つ3つさらに5つすべて使えるものも現れる、そうなるとじゃ」
「火水の合わさった魔法や、さらには3つ合わせた魔法まで使えるってことかよ……」
「おぬしなかなかいい頭を持っておるの」
とシュウを見て笑うイリーネ、
「さらにはじゃ現在は5つじゃが昔は7つ8つあったともいわれておる。それらを全て使いこなしたといわれておるのが大賢者アウラと呼ばれる存在じゃ」
「―――!」
シュウは驚きテーブルに手を置き再びたちあがる、
「落ち着くんじゃ、あくまで昔の文献に残っておっただけで実際に存在したかはわからん話じゃ。じゃがのそなたの話を聞くその少年が大賢者と呼ばれたアウラその人物なのだとしたら、神と名乗りそなたを何かからこの世界を救う為におぬしを呼び寄せたとしてもできない話でもないのではないか、と思うわけじゃ」
さらにイリーネはシュウを指さし、
「それとそなたの存在、一部を除いてまったく魔力が流れておらんしのう、たしかにこの世界の人間とは思えん」
シュウを見てそう発言する。
それを聞いてシュウは自分の体に目をやり、
「なんで? わかるんだ?」
「いったじゃろう? わしも一応賢者とよばれておるそれに人の魔力の流れをみるのは得意分野じゃ。その体ではそなたは魔法を使うことは絶対にできないじゃろうな」
それを聞いてシュウは少しだがショックを受けた。
一度でもいいから使ってみたかったその気持ちは少なからずあったからだ。
とシュウの肩にとんっとフィリスの頭が寄りかかってくる。
見るとスース―と寝息を立てていた。
「静かだと思ったら寝ちまってたのか?」
――家から初めて外にでて歩き続けだったもんな。無理もないか……。
いつの間にか飛び回っていたフェアリー達も外にでていったらしくいなくなっている。
イリーネは眠っているフィリスを見て立ち上がり、
「こっちにつかっていない部屋とベッドがある、そこに寝かせるといいじゃろう」
シュウを部屋に案内する。
「ありがとうイリーネさん」
と感謝の言葉をのべシュウはフィリスを抱きかかえベッドへ運ぶ、
フィリスをベッドに運び終えシュウとイリーネはさきほどのテーブルのある部屋に戻ると、
「ばあ、僕ちょっと森の様子が気になるから見てくるのです」
「なにかあったらすぐ戻ってくるんじゃぞ。決して無茶はするんじゃないぞ」
「わかってるですよばあ」
そう言うとリンは外にでていった。
シュウは椅子に再び腰を掛け、イリーネはシュウのコップに飲み物を注ぐ。
「話の続きじゃが、さておぬしは一つ知っておかなければならぬことがある」
「ん?なんだイリーネさん」
「先でてきた話じゃ、あの娘、フィリス=フィールのことじゃ」
この後シュウはイリーネの口からフィリス=フィールの謎を知らされる。