森の少女リン
歪んだ空間の先は……再び森だった。
「あまりさっきの場所と変わらないね」
シュウから降りたフィリスはそう言いながらあたりを見渡している。
「危険がないといいけどな」
とシュウも辺りを見渡し後ろを振り返る。
すると先ほどと同じ巨大な木が立っていた。
――この巨大な木がこの歪んだ空間を作っているってことか?木までもが魔法を使うとかないよな……。
シュウが腕を組みながら考えていると、
「ねえシュウ奥に行ってみようよ」
とフィリスがシャツをひっぱってくる。
――考えてもしかないな。情報が少なすぎて答えなんか出ない。
とりあえず予想できることはここがフェアリー族の住処ではないかということ。
「さてさがしてみるか」
「フェアリー族?」
うむ。といった感じでシュウはうなずき奥へ向かって歩き出す。
するとさっそくフィリスがこっちをむいて口の前で人指し指を立てる。
シュウはフィリスの顔に近づき小声で、
「いたのか?」
と聞くと、フィリスは笑顔で頷く。あっちあっちといった感じで無言のまま森の奥の方を指さす。
その方向を見てみると……手のひらくらいのサイズの二人のフェアリー族が透明の羽をはばたかせ飛び回っていた。
「すごいね。小さいね。かわいいね」
とフィリスは夢中になって見ている。
シュウも一緒になって見ていたが急に背中の方に視線を感じた、
「――!」
すぐに背後を確認したが誰もいない。
しかし注意深く上の方も見てみるとシュウは木の上でちょこんと座ってこっちを見ている少女に気付いた。
黒色の肩ほどの長さの髪で瞳は茶色く見た目的に14.5歳くらいに見える、身長は座っている為わからないが150センチくらいだろうか。だが少女はシュウと目が合ったのになんの反応もない。シュウは一度視線をそらし警戒しながら考える。
――どういうことだ? なぜ反応しない? 幽霊? とかじゃないよな……。話しかけてくるわけでもなく襲ってくるでもない、様子を見ている感じだが。
「シュウどうしたの?」
フィリスがシュウが後ろで考え込んでいるのに気づき小声で話しかけてくる。
「ちょっとフィリスその場で回りを一通りみてくれないか?」
フィリスはシュウの言われた通り辺りを見渡す、が
「なにもないよ?」
フィリスはたしかに少女のいる場所も見ていた、しかし反応なし。となると……。
――なるほどね。
シュウは一つの答えに辿り着いた。するとフィリスに小声で、
「ちょっと確かめたいことがある。先に進むぞ」
「うん」
とフィリスも小声で返事をし二人は再び歩き出した。
すると、黒髪の少女も木を降りてついてくる。
それに気付き確信をもったシュウは、フィリスに顔を近づけ小声で話す、
「いいかフィリスこれから驚くかもしれないけど何もせず後ろに下がっててくれ」
「ん~? ……わかった」
フィリスはなんで?と聞きたそうだったがシュウの真剣な目に答える様に何も聞かずに返事をした。
そしてフィリスが自分の後ろに2.3歩下がったのを確認すると、
「おまえはいったい何なんだ?」
シュウは急に後ろを振り返り、ついてくる少女の目を見て問いかけた。
それに驚きビクッとなる少女、
「え? なんで?……見えてるですか?」
「えっと普通に見えてるけど?」
その答えに素早くシュウから離れ距離をとると少女は膝を立てたまましゃがみこんだ姿勢で腰に手をやり小刀を構える。
そこでようやくフィリスが、
「えええ!」
とフィリスも見ることができたのか、いきなり現れた少女に驚いている。
「なんで俺たちを見てるんだ?」
とシュウは攻撃態勢に入っている少女に刺激しないよう控えめに問いかける、
「おまえじゃないのです。僕の名前はリンです。ばあが不穏な気配がするといっていたから様子を見に来たらお前たちを見つけたのです」
と片膝をたて小刀を構えたまま答える。
シュウとリンの間に緊迫した空気が流れる。
「わかったリン。とりあえずその刀しまってくれるか? 俺たちは戦う気とかそういうのはまったくないんだ」
と両手を軽くあげ戦闘の意思がないことを証明する。
――いくら相手が少女とはなるべく戦闘は避けたい。だからこそ先手を打った。
っていうか戦闘になったらとりあえず逃げるしかないしな。
リンの視線はいつの間にかシュウとフィリスの回りを飛んでいる二人のフェアリー族達を見ている。
「わかりましたのです。様子を見てたですけど、あなたたち危険じゃなさそうなのです。フェアリー達もそれを証明してるのです。それにできればリンも戦いたくはないのです」
と以外にも小刀を背中の腰にある鞘に素直にしまうリン
――ふう……戦闘になることは避けられた。とほっとすると、
「俺はシュウ、こっちの子がフィリス、とりあえずリン落ち着いて話がしたいんだが」
リンに軽く自己紹介をし、話がしたいと提案する、
「ついてくるのです。あなたたちをばあのところへ案内するのです」
そういうとシュウとフィリスの前へ行き歩き出す。
リンのあとをついて森を進むフィリスとシュウ。
「なあリン? こいつらはなんで逃げないんだ?」
歩きだしたシュウ達についてくるように二匹のフェアリー族たちが二人の回りを飛び回っている。
「あなた達から危険な気配を感じないのです。フェアリー達は気配に敏感なのです。その子達はあなた達を安全だと判断してるのです」
――なるほどね……。だから先ほどリンはフェアリー達を見て素直に小刀をしまったのか。
こいつらに助けられたな。とフェアリー達に目をやる。
フィリスもうれしそうに回りを飛び交うフェアリー達を見ながら歩いている。
「だけどその前にいたフェアリーは俺たちをみたとたん驚いて逃げていったぞ?」
シュウは思い出したかのようにリンに疑問を投げかける、
「フェアリー達にも個性があるのです。臆病な子もいれば積極的な子もいるのです。それか……なにか大きな音を立てて驚かせたとかなのです」
「ごめんなさい」
それを聞いてフィリスがフェアリー達にむけて申し訳なさそうに誤った。
「シュウさん? といったですか? 僕からも聞きたいことがあるのです」
「なんだ?」
リンは後ろを振り返り歩く足を止めずに後ろ歩きでシュウ達を見ながら、
「あなた達はどうやってここに入ってきたのです?」
「森を迷子になってたらフェアリー族を見つけてな、まあさっきの話に出てた通り驚かせてしまったわけだ、そのあとを追ってでかい木を見つけた。そこに歪んだ空間みたいのが見えたから入ってきたというわけだ」
「――!」
リンは驚いた顔をし、足を止める。
「なんだどうした?」
「あれが見えたのですか?」
「ああ、見えたからこそ今ここにいるわけだが?」
リンはシュウの目をまじまじと見つめてくる、、
「そういえばシュウさんあなた僕の魔法も見破ってたですね……どういう目してるのです?」
「おれだってわかんねえよ」
う~んといった顔で顎に手を当てるリン。
「まあいいのです。ばあに会えば少しはわかると思うのです」
と前を向き再び歩み始めるリン、二人もそれにあわせて歩いていく。
「なあ、そのばあってのは何者なんだ?」
「僕の家族です。ものすごく物知りでなんでも知ってるのです」
なんでも知ってる? それは今のシュウにとって喉から手がでるほど会いたい人物だが、
「いきなり襲って来たりしないよな?」
「お二人を危険と判断したら殺すかもしれないのです。ばあは怖いのです」
それを聞いたシュウは、
――やばい会いたくなくなってきた。
と怖気づく、
「フィリスやっぱ行くのやめるか」
とフィリスの方を向き会うのをやめようと発言すると、
「ええ~! 大丈夫だよ! きっといい人だって」
それを聞いたシュウは、
――フィリスっていつもポジティブだよな……。
と思うのだった。
10分くらいだろうかリンの歩調に合わせて歩いていいると目の前に森の木々に囲まれた一軒の家が見えてきた。
予想していたのよりは大き目の結構立派な家だった。
「ちょっとここで待つのです、ばあに先に事情を話してくるのです」
そういうとリンは家に入っていった。
「フィリス危険を感じたら速攻で逃げるぞ」
「大丈夫だよ。リンっていう子もいい人みたいだし」
「フィリス、会ったばかりの人をあまり信じこんではだめだぞ」
――まあ俺もあったばかりに入るんだけどな。
とそんな話をしていると、
――ガチャッと扉を開けてとてもきれいな女の人がこちらへ歩いてくる。
見た感じ30歳くらいだろうか?髪は茶色で長く、それに背も170センチのシュウより高い、なにより豊満な胸。大人の女性の見本といった感じで予想をはるかに覆し、ばあと呼ばれるような見た目ではなかった。
「あはははは、そんなにフェアリー達をつれて、すごい子たちがきたものじゃ」
二人を見ながらそう発言する。
フェアリー族達は家に歩いていく途中で少しずつ増え。いまでは5.6匹が二人の回りを飛び回っていた。
「二人とも疲れたじゃろう? とりあえず中にはいりなさい」
と二人は、ばあと呼ばれる者の家に招待される。