キッチンの攻防
「なああんた見逃してくれないか?」
言葉が通じるなら戦わないで済むかもしれない・・。
ほんの少しだがそんな希望をもってみた。
「がはは。何を言い出すと思えば・・在りえん!貴様もその小娘も殺す」
やっぱりダメか・・。
「なんでフィリスを狙う?」
「貴様に答える必要はない」
だよな……。
とリザードは間合いをつめ刃が一メートルもあろうかという剣で切りかかってくる。
「話し合う気などない!死ね小僧!」
しかしシュウは危なげなくよける。
「うおっ!あぶねえ」
動きはそこまで早くはない。これならよけられる。
間髪いれずに攻撃してくるリザード。
キッチンが広くてたすかる。部屋の大きさの割に調理台はあまりなく広々として動きやすい、ここが戦いの場になったのはツイていた。
「ええい。ちょこまかと」
シュウは反射神経、瞬発力には自信があった。
それに・・。
この世界にきてから体が軽い。
そうシュウはセリートにきてから感じていたことがあった。
少女とはいえフィリスを抱えて走っていたのに特に重くはなかったし、いまもそこまで疲れがない、さらにリザードに差を詰められていたとはいえすぐに追いつかれることもなかったことを少々不思議に感じていた。
しかし今はそんなことを考えてる場合ではない。
「なんとか攻撃しねえと。」
と徐々に後ろに追いやられ壁に近づいていた。
「まずい」
ついに背後が壁にくっつくほど後ろに追いやられた。
「がははは、観念しろ」
リザードは剣を横に思いっきり振り切る。
「くっそおおおお」
シュウは壁にかかっているフライパンに気づき。それを瞬時に手に取りガードした。
金属と金属がぶつかり合うけたたましい
金属音がキッチン中に響きわたる。
「うわ……腕に響く……なんて力だ!」
フライパンに切り込みが入っている……。これをくらったら間違いなく上半身と下半身に分かれていたと思うとぞっとする。
しかしガードとともに横に飛んだため再び距離をとることには成功した。
「めんどくさい小僧だ。さっさと斬られるがいい」
――くそ逃げ回るだけでせいいっぱいだ。埒が明かねえ……。
時間は賭けたくない。こっちの援軍なんて来る可能性はないだろう。なんていったってこの世界に知り合いなんていないしな。
むしろあっちのほうが来そうだ。
さてどうする。考えろ考えろ……。
と先ほどガードしたフライパンに目をやる。とシュウは何かをひらめく。
やってみるか……。
とシュウはナイフを口に加えフライパンを両手で持つ。
「避けるのだけはうまいようだがいつまでもよけられると思うなよ!」
再び切りかかってくるリザードの攻撃をよけながらそのときを待った。
――いまだ!
たまにくる突きのモーション。
そのタイミングに合わせ思いっきりバットを振るように鋭い剣の切っ先にフライパンの面を叩き込む。
すると剣は鈍い金属音を奏でフライパンを突き刺した。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
シュウはフライパンをさらに押し込み剣の柄の部分に到達する。
フライパンが柄になったような形になる。
シュウはそこから自分の出せるすべての力だし上にあげる。
「どっせえええええええい」
するとリザードの手から剣が離れその瞬間シュウもフライパンから手を放す。
宙に浮いた剣は勢いよく天井に当たり地面に転がる。
この瞬間を待っていたとばかりにすかさずシュウはナイフを口から手に持ち思いっきり切りかかる。
「もらったああああ!」
「がははは。小癪なまねをする。だが!」
武器を取られてなぜ笑っている?とシュウの脳裏にある言葉が浮かぶ。「魔法」という言葉。
――しまった!
リザードはとびかかってくるシュウに右の手のひらををむけ
「消し炭になれ小僧!ルーガファイナァ!」
渦を巻いた激しい炎がシュウに向かってくる。
「……やべ……死」
うかつだった……。こいつが魔法を撃ってくることは予想できたはず。
しかし剣による攻撃に集中しすぎて頭から薄れていた。
シュウの体に炎の渦が直撃する。
本能的に両手をクロスさせ頭部への直撃を防ごうとする。
が大きすぎる炎の渦はシュウの体すべてを包んでいった!
そして……。
シュウが立っていた周辺をすさまじい炎で埋め尽くされた。
「がはははは!! あっけなかったなこぞ……!!?」
なにかがおかしいと言葉を発するのをやめるリザード。
シュウがいたあたりの炎が消えていく。
リザードは目を疑ったそのありえない光景に。
直撃だった間違いなく当たっていたはずだ。
そこからのできごとは、一瞬、そう一瞬だった。
シュウは生きていた。軽いやけどを負ってはいるが大したダメージはない。
なぜだ?なぜこいつは生きているなんだ!!?と驚きを隠せない様子のリザード。
シュウはその隙を逃さなかった。
素早く詰め寄りジャンプし、両手でナイフを持ち思いっきり右目に突き刺す!
鱗のような皮膚でナイフが通るか確信がない。となると刺さる可能性の高い目を選んだ。
シュウはナイフを抜かずそのまま空中でリザードの上半身を蹴り飛ばし距離をとる。
「ぐああああああああ! 小僧貴様あああああ!」
たしかに魔法は直撃していた。間違いなくシュウ自信も死を覚悟した。
目をつぶっていたシュウは大した熱さを感じなかったのを不思議に思い目を開ける。
そのときとっさにクロスした腕の左手が炎を吸収していくのを見た。
――なんだこの左腕は!
と驚くが。それと同時にシュウは今が攻撃できる最後のチャンスかもしれないと考えるとすぐ行動に移ったのだった。
――この一撃で決まってくれ。
祈るような気持ちでリザードの様子をうかがう。
リザードの目から赤い血が噴き出す。
よろめきながら両手で抑えるが血は止まる様子はない。
「貴様なにをしたあああ! なぜ生きている!! 無事なはずがない!」
「さあな!知らねえよ」
シュウ自信も本当にわからないのだから答えようがない。
「くそおおおおおおお!こんな小僧にいいいいい」
リザードは残った左目でシュウを睨みつけてくる。
「覚えておれ小僧! 我の名はリザード族戦士長ライド! 必ず! 必ず貴様を殺しにくるからな!」
血が止まらない様子のライドは方手で目を抑えたまま何か呪文を唱えキッチンの天井を突き破り飛び去って行った。
その瞬間シュウは全身の力が抜け地面に仰向けで倒れこんだ!
シュウは安堵した。
あのまま逃げてくれなかったら間違いなく殺されていただろう……。
始めての生死を賭けた戦い。緊張しないはずがなかった。
喉から心臓が飛び出そうというのはまさにこの感覚なのだろう。
――怖かった……マジ怖かった……。
死ぬかと思った……いや……本来なら死んでいただろう。
炎を吸収していたように見えたこの左腕はなんなのか?
しかしそのおかげでライドとかいうリザードは逃げて行ったのだろうか……。
それはわからないがとりあえず生きている。
今は考えたくはない……。
終わった……倒せなかったがこれでいい。上出来だろう。
「お兄ちゃん!」
部屋の外から隠れるように様子をうかがっていたフィリスが傍にかけよって来る。
「あっははははははは」
無理だと思っていた……完全に死を覚悟していた……ができてしまった。
そのことに不思議と笑いがこみ上げてくる。
「おにいちゃん?」
フィリスはシュウの顔をじっと見つめ首をかしげる。
とシュウは上半身を起こす、
「逃げなかったのか?」
「うんきっとお兄ちゃんが勝つって信じてたから」
「そっか……でもな、あったばかりの人をあまり信じちゃだめだぞ」
「でも……」
フィリスはうつむき返答に困った顔をしてるとシュウがそっとフィリスの頭に手を置き
「お兄ちゃん超強かっただろ?」
とフィリスに向かって笑顔で言い放つと
「うん!!」
フィリスは力強く頷いた。
助けられたとりあえず今この時は無事この娘を助けることができた。
シュウはなによりもそれが嬉しかった。
フィリスの頭に置いた手を動かし頭を撫でていたら随分と心が落ち着いてきていた。
まずはいろいろと聞きたいことが目白押しだがその前に。
「さてと……」
シュウはフィリスの前に立ち上がる。
「俺の名前は狭間シュウ!君を助けに来た」
「私の名前はフィリス・フィール。とってもありがとうシュウ」
とフィリスはシュウに満面の笑みをむけるのだった。