もう一つの世界の存在
「魔炎塵」
アインがそう呟くと瞬時にアインの周りを黒い炎が守るように包み込む。明らかにフィリスのだす炎とはまったく異なる黒い炎、その炎はカールの魔法を触れる前から消え去る、いえ正確に言えば燃やしているようにも見える。
「シュウ熱くない?」
「いやまったく…」
アインに抱かれたままのシュウだがこんなに炎の近くでも不思議と熱さを感じない。
やがてカールの魔法によって舞っていた土埃が晴れていく、それと同時にアインに纏った炎は徐々に消えていき、視界が晴れた先には青ざめた顔をしたカールの姿があった。
「ぼっ僕のアースシェイクをまともにくらって無傷だなんて…なんだその炎は!!おまえは一体なんなんだ!!」
「答える意味はないわ、だって僕はこれから死ぬんだもの」
アインはカールに向かって右手をのばす、
「さようなら…。魔炎剣舞!」
アインの手から剣のような形をした2本の黒い炎が舞うように放たれた。
「うっうわあああああああ!」
カールは悲鳴をあげながら上空を逃げ惑うが追い付かれると判断したのか後ろを振り返り必死の形相で呪文を唱える
「アースゾルシールドォ!!」
空中で放った魔法はカールの目の前に分厚い大地の盾を作りだした。
「無駄よ、そんなもの」
「うっ嘘だあああ!!!!!!」
アインの魔炎剣舞はカールのアースゾルシールドをたやすく貫く。するとすかさずカールの胴体に1本目の炎が貫き、すぐさま2本目が突き刺さると爆発したかのように激しく燃え上がりすべてを燃やし尽くした。
「こんなぁ…こんなことが…」
「私の炎は激アツよ~!」
5秒と燃えていなかっただろう。森にケルベロスを放ち、イリーネを死においやった原因である大地の魔法使いカールはあっけなく消え去ったのだった。
「よおし、邪魔者は退治したことだし~」
カールを倒したアインはシュウの顔を見るとまるで先ほどまで戦ってたかとは思えない素振りで再び抱き着くのだった。
「やっぱりあの人と同じ匂いがする…間違いないないわ~シュウはあの人の…」
「おっおい、とりあえず一旦離れろって」
「なんで~?」
「いやなんでって…」
「もうしょうがないわね~」
そういうとアインは一度シュウから離れ立ちあがる。それにしてもあれだけの猛獣をペットにし、圧倒的な魔法を使いこなすカールを瞬く間に倒したのがこんな少女だなんていまだに信じられない。
「アインだったよな? とりあえず礼をいわせてくれ、ありがとう!」
「お礼なんかいいわ、助けるのは当然だもの、シュウに手をだすやつは私が消し去ってあげるわ~」
人刺し指を上空にむけて立てシュウに向かって当然と言い放つ白髪の少女アイン。
「いくつか質問をしてもいいか?」
「いいわよ~なんでも答えてあげちゃうわ~」
「まずなぜ俺を知っているんだ? 会うのが初めてといっていたよな?」
アインは背中の黒い羽根をパタパタさせながら宙に浮き話し出す。
「そうね。さっきもいったけどお互いに会うのは初めてよ。だけど私はシュウのことを知ってたの。300年も待ったのよ、あんな白い何もないところで、すっごい暇だったんだから~」
――知っていた? 300年? 白いところ?
シュウの頭をたくさんのクエッションマークが飛び交う、アインはその考えを読み取ったかのように、
「シュウもここに来る前にいたでしょ?」
その一言でシュウは思い立った場所が浮かび上がる。
「アウラか!!!」
「当ったり~!!」
アウラここの世界に来るきっかけとなった神と名乗る少年、まだここへきて1日と立っていないはずだがすでに懐かしく感じ始めているのが不思議だった。
「あそこにいた?」
「そうよ~シュウが来るのをずっと待っていたのにやっと来たと思ったら会えずにいっちゃううんだもの~すぐに追いかけたわ、だけど違う場所に降ろされたうえにへんてこな森のせいでシュウを探すのに苦労したのよ~」
「なるほど…ん?…だが、あそこにはアウラ以外誰もいなかったと思うが?」
「あそこ無っ駄に広いのよ~それに私はあそこだと魂だけの存在だったから。それに私寝て…まあその話はいいわ、マショウが言ったのよシュウがいつの日かこの世界に現れるとその時私はシュウのお嫁さんになるって、まあまさか300年も待たされるとは思わなかったけど」
その話を聞いたシュウは一瞬固まり、ワンテンポ遅れて反応する。
「えええええ!!」
大声をあげて思いっきり驚くほかなかった
「お嫁さん?! なんじゃそのでたらめな話! だから末永くって言ってたのか…つうかそのマショウてだれだ?」
「それは…時がきたら話すわ…でも本当に私はシュウに会えた。ね?彼がいったことは当たってるのよ~まあ最後はちょっと自分都合に改編はしたけど…」
後半の部分が小声になりよく聞き取れなかったがたしかに今の状況が嘘偽りのない話なのかもしれない。 アウラのことを知っていてさらに俺の存在も知っていた。お嫁さんというのは本当かどうかいまは忘れることにしよう…。マショウという人物も気になるがそれよりさらに気になることがあるので聞くのが怖いが恐る恐る聞いてみることにした。
「つうか300年もあそこにって、アインはいま…何歳なんだ?」
「ん~とたぶん15歳よ? あそこでは歳はとらないのよ~。だからいくらでも待っていられたの、ん~でも今315歳だったらもうちょっとこことか大きくなっていたかしら?」
とアインは大きくも小さくもなく丁度良いくらいの大きさの自分の胸を揉みだす。
「ちょっと待て…いろいろおかしいが…まず315歳でも生きてるって意味だよな」
「そうね~私ハーフだけど500歳くらいまでは生きてると思うわよ?」
「ハーフ??」
「そうよ? 私は人間と魔人のハーフなの」
「なにっ!!! ちょっとまてこの世界には魔人なんて種族もいるのか?」
「ん~さすがにこの世界にはいないと思うわよ? 私この世界の住人じゃないもの~」
「はい!?」
アインの話には驚かされてばかりだがこれが一番驚かされた…。自分以外にもこの世界の住人じゃない人物がいるのではないかという予測はあったがまさかこんなに早く出会いしかも自分とは別の世界だというのだから。
「わたしがいた世界の名前は魔界よ~。正式にはエネルージュっていうのよ~。ちなみに私はシュウと違って自分からあそこでシュウを待たせてもらってたのよ~」
「魔界だと!! それってもしかして魔王とかがいるというあの魔界か?」
魔界といえば魔王が存在し羽の生えた悪魔みたいのがわんさかいる暗黒の世界。そんなものを想像していた。だからアインにも羽が生えているのかと少し納得しまう。
「う~んシュウがどんな世界を想像しているのかわからないけど…魔王はいたようないなかったような…とりあえず行ってみるとわかると思うわ」
アインはにっこりとそう答えるが、
「行けたとしても行きたくはない!」
シュウは見て見たいという気持ちはあるが、真顔で主張した。
「とりあえず魔界の話は置いておこう。さっき自分からアウラのところへ行ったと言ったな。アインは今も自分からアウラのいた場所に行くこともできるのか?」
「それはできないのよ~あそこはアウラの空間。彼が了承しないと入ることも出ることもできないみたいなのよ、わたしは無理やり…じゃなかったなんとかお願いしてあそこに入れてもらってたの」
言葉がつまった部分は聞かないことにしよう…だが至極残念すぎる。もし行けたのならとりあえず連れて行ってもらって一発ぶん殴るという使命がはたせたというのに…。だが大体アインのことがわかってきた。
「ちょっとここで整理したいんだが?」
「いいわよ~」
「アインは人間と魔人のハーフでありエネルージュと言われる世界の住人。俺と一緒でこの世界の住人ではない。」
「そうね~」
「マシュウという人物に言われ、アウラの世界で300年俺がこの世界に来るのを待っていた」
「シュウのお嫁さんになるためよ~」
その言葉は今はスルーしよう…まだまだ聞きたいことは山ほどあるがフィリス達が心配だ。カールを倒したとはいえなぜかこの世界に来てからボスクラスなんじゃないかという敵とエンカウントしまくり…。そのため長々と話はしてられない。続きはフィリス達と合流してから…とその前に大事なことを聞き忘れていた。
「もう一つ聞いてもいいか?」
「な~に~?」
「この先アインはどうするんだ?」
「聞く必要ある?当然一生着いていくわよ~」
とアインはシュウの瞳を見つめると微笑むのだった。




