圧倒的!アイン登場
「さあ…、お兄さん覚悟はいいかな? 僕を殴ってくれたお礼をしてあげないとね!!」
圧倒的な戦力差、いくら魔法が効かないからといってこれは勝てない…。そもそもこいつらに物理攻撃…しかもただのパンチが効くのかすら怪しい。どうすればこの場を切り抜けられるかそう考えていると、
「先手を打たせて上げようと待ってあげているのに来ないのかい? ならこっちからいくよ! いけユニコン! オロチ! 」
掛け声とともに2体の獣が襲い掛かってくる。ユニコンは体中に纏う稲妻をさらに激しく鳴らし頭を低くし頭の角で刺すように、オロチは地面をはいずりながらその巨体をくねらせ迫ってくる。
――角はまずい!
猛スピードで突進してくるユニコン、だが直線的な攻撃が功を奏しユニコンの攻撃は比較的楽に避けられた、しかしユニコンの周りに纏う雷に触れてしまう、
「あっぶねえ!」
触れたのが偶然にも左手だった為、その雷を吸収したため難を逃れるが、
「キュェェェ!!」
とすかさず横からオロチが大きな口を開け火炎を吐きだしてくる。が咄嗟に炎を左手で吸収する、その様子を見ていたカールが呟く、
「へえ…吸収してるのか…? なんて興味深いんだ!」
カールは戦いに参加せず空中で腕を組みながらシュウの動きを観察していた。
「くそっ埒があかない」
オロチの炎をガードしたと思えばその長い身体がシュウの体に巻き付こうと迫ってくる。それに気を取られているとユニコンが後ろから角で突き刺そうと突進してくる。それも雷を纏っているせいで結構大きく避けなくてはならない…。反撃をしようにもオロチは近づけば巻き付かれる危険があり、ユニコンは凄まじく素早い、シュウの素早さをもってしても2匹の波状攻撃の前になすすべがない。
「はあはあ…」
こんなの倒せるわけがないと、さすがにシュウも息を切らし始めたころ、
「う~ん? もういいかな…。お兄さん覚悟はいいね…」
カールも攻撃に参戦する動きを見せ始める。
「まあまてよ…これから……反撃しようと思ってるんだがな?」
シュウは息を切らせ強がりをみせる。もちろん反撃などできるはずもないが、なんとかカールの参戦を防ごうとする。
「もういいよお兄さん…回避能力の高さだ! け! は! すばらしいね!…よく頑張ったよ」
シュウもできる限りの突破口を考えるが、いくら考えても攻撃手段の乏しさから突破する手口が全く見えてこない。さらにカールも攻撃してこようものなら絶望的な状況になることはわかっていた。
「さあ、終わりにしようか」
とカールが片手をシュウに向ける。
――こりゃ本当に終わったかな…ごめんなフィリス…だが最後に一発くらいは…
と思っていたその時、
「私の呼びかけに答え、降り注げぇ魔界の雷!ダークサンナーレェイ!」
上空から再び声が聞こえてくると同時に轟音が鳴り響きシュウの左右に2本の黒い雷が降り注いだ。
「なんだ?!」
一体なにが起こった? と驚き周りを見渡すと、左右にいたユニコン、オロチの2体が消え去っている。さらに、
「シュウゥゥゥゥゥゥ!!!!」
とシュウの名前を呼びながらロングヘアで真っ白な髪の美少女が空からこっちに向かって突っ込んでくる。
「うわわわわっ!」
いきなりのできごとに戸惑い避けることなどできるはずもなく勢いよく抱き着かれ、しりもちをついた。
「やっと見つけた! まったくこんなとこにいるんだから探したんだからね!」
「いやいや、おまえのことなんて全く知らないぞ?」
年は14、5くらいだろうか? 瞳の色が黒と青と左右で色が違っている…オッドアイというやつか、さらには背中に羽が生えている、こんな特徴的な美少女会っていたら絶対に忘れないはずだが…。
「そりゃ…そうね…。私も会うのは初めてだもの。とりあえず自己紹介しとこうかしら私の名前はアインよ! 末永くよろしくねシュウ!」
「会うのが初めてなのに俺を知っている? え? 末永く?」
いろいろとはてなマークが頭に浮かぶ展開に戸惑っていると、
「たっくさん話したいことはあるけれど、とりあえず…」
アインがシュウに抱き着いた姿勢のまま視線をカールのほうへ向ける。
「あり得ない…あり得ないだろぉ…」
表情を一変させたカールは声を荒げながら叫ぶ、
「あの2匹はケルベロスには劣るものの伝説級の生き物だぞ!それを…それをたった一瞬で…!」
「あら、ごめんなさい? でもあの子たちが悪いのよ、私のシュウにちょっかいだすんだから」
アインは鋭い目つきでカールを睨めつけながそう答える。
「それと僕、生きて帰れると思わないでね」
カールはアインの気迫にたじろぐと、
「くっ…」
再び地面に両手をつけ呪文を唱える。
「アースコール!!」
すると先ほどより大きな光の柱が地面から発せられるとそこに現れたのは、ケルベロス並みに巨大なライオンのような獣だった。
「どうだこれが僕の最大のペット、マンティコアだよ! ケルベロスのように不死ではないが力はそれ以上だ!! さきほどのように簡単には倒せないよ」
「ええ~残念、もっとすばらしいのが見れると思ったのにこんな小物なんて…がっかりしたわ…僕…動物園でも作るなら他の場所でやりなさい」
「ふざけるな! いけマンティコアその女を殺せ!」
カールが合図をだすとマンティコアはこちらに向かって猛突進を開始する。
「恨むならその力の差をわからないおバカなご主人様を恨んでね。…さようなら…魔炎ヘルファイナ!」
アインが指をパチンッ! と鳴らす。すると突進してくるマンティコアの足元から巨大な黒い炎が現れ一瞬でマンティコアを覆いつくす。マンティコアは悲鳴をあげる間も許されず黒い炎とともに目の前からきれいさっぱり消え去ったのだった。
「なっ!!!!」
圧倒的といわざる得ないだろう、ちなみにアインはシュウに抱き着いた姿勢から体は全く動かず指を動かしただけだった。
「嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だぁ! 」
それを目にしたカールは叫びながら顔を真っ青にし、こちらに背を向け慌てて逃げようとしている。
「あら? 逃げるの? 駄目よ逃がさない」
「くそっ!くらえ! 大地の力よ、我が魔力の前に力を示せ! アースシェイク!!」
空を飛び、逃げる素振りをみせながらこちらに向かって呪文を唱える。するとシュウとアインのいる地面が盛り上がり上空に正方形の分厚い大地が現れ上下で挟み込むようにシュウとアインの下に勢いよく降ってくる。
「シュウ、熱かったらごめんね」
「え?」
アインはシュウの耳に向かって囁くと一言発した。
「魔炎纏」
カールの放った魔法アースシェイクは大地が揺れるような音を鳴り響かせ上空に出現した大地が凄まじいスピードで二人を万力のように押し潰した。その魔法のすごさを物語るようにその場には大量の土煙が覆っていた。
「あははははっ! ざまあみろ! 僕を甘く見るからだ!」
カールは笑い喜んだ。攻撃は一級品でも自分の最大魔法から身を守ることはできなかった、そうとらえたのだった。しかし土煙が晴れるとカールは再び顔を青ざめ後悔するのだった。さっさと逃げるべきだったと。




