さらに2匹と一人
「シュウ?!」
「リン! 無事だったか、」
リンは安堵から体の力が一気に抜けペタンとお尻を地面につける。
「シュウ! 後ろ後ろ」
フィリスが服をちょいちょいと引っ張ってくる、
「いっ!!」
後ろを振り返るといまにも襲い掛かってきそうなケルベロスが大きな口を開けて止まっている。
「死んでいるのか?」
シュウは左手でたたいてみる、するとケルベロスにひびが入りガラスが割れるように粉々に砕け散った。
「うわっ!」
――やっぱりあのクリスタルはケルベロスの心臓みたいなものだったのか。
「バア!バア!目を開けるのですっ!」
と考え込んでいるとリンの悲痛な叫びが耳に入ってくる。
「イリーネさん?!」
「アルフィーナ!」
フィリスが急いで回復魔法をかける。
「シュウ…か?」
イリーネはゆっくりと目をあけた。
「バア!よかった!!」
リンは涙を流しながらイリーネに抱きつく。
「リン…無事じゃったか…」
「イリーネさん大丈夫なのか?」
「ふむ…駄目…じゃな…」
シュウの問いかけに力なく答えた。
「え!?」
「そんなそんなバア死んじゃだめなのです」
「リン泣くでない…。わしは長く生きた最後にリンの顔を見ながら逝くことができる悔いはないよ…」
「イリーネさん!なんとかならないのか?」
シュウの問いかけにイリーネは無言で首をゆっくりと横に振る。
「シュウ…よくやってくれた。わしは限界を超えて魔法を使い続けた…その代償がわしの命だったということじゃ…リンもそなたらも助かった…あのケルベロス相手にしてわしの命一つで済むなら安いものじゃ…」
「そうだ! 魔法の世界なら生き返らせる魔法とかないのか?!」
ここは魔法の世界。死者を生き返らせる魔法があってもおかしくないと考える、
「残念じゃが、そんな魔法は存在せんよ…魔法は万能ではない…人の生きかえらせるなど人知を超えた存在じゃろ…まあ神にならできるかもしれんがの…」
「そんな…」
がっくりとうなだれるシュウ…フィリスも泣きながらイリーネの手を握っている。するとその手からイリーネ体が徐々に光の粒子になり空に昇っていく。
「えっ?!」
驚くフィリスとは裏腹にイリーネはなにかに納得したように呟いた。
「なるほどの…」
イリーネの体は手足から徐々に消えていく、
「どうやらもう時間がないようじゃな…シュウよ…一つだけ頼みがある…」
「なんだいイリーネさん」
シュウは涙を拭きながら答えた。
「リンを…頼む…わしの大事な娘じゃ…シュウに…なら任せら…る…」
そういうとイリーネは光の粒子になって消えていった。
「くっそおおおおおおおおおっ!!」
シュウは握った拳を地面にたたきつける。あのケルベロス相手に一人死んだだけですんだ、結果から言えば大健闘だろういや大勝利だった。しかし自分がもっと早くケルベロスの秘密に気付いていればイリーネさんは死ななくて済んだのではないか。そう思うと悔しくて仕方がない。
「ずっと…悲しんでいるわけにはいかないよな…」
と我に返り顔を上げると泣きながらリンを回復しているフィリスがいた。そんなフィリス声をかけようとしたとき、
「あっれえ? うそ! 僕のケルベロス? やられちゃったの?」
上空から若々しい少年の声が聞こえてきた。
「誰だ?」
声のほうへ視線をやるとそこには黒い髪の目の吊り上がったフィリスほどの年齢の少年が空から降りてくる。
「どうもぉ僕の名前はカール早速だけど僕のケルベロスを倒したのは誰かな?」
地上に降りたカールと名乗った少年はシュウに問いかけてきた。
「てめえか? あのふざけた犬をここによこしやがったのは!」
「お兄さん、言葉遣いわるいねぇ、まあいいけど、そうだよ僕がケルベロスの封印を解いてここに置いてったんだ。おなかすいてるみたいだったからね。丁度よかったんだよ」
「丁度よかった?」
「ああ、魔力が高いやつを殺せといわれてたからさぁ、勝手に殺してくれるかなって」
「てめえ!!」
――ん?魔力が高いやつを殺せ?だと?!
「誰なんだ? そんなことをおまえに命令したやつは!?」
「そこまで言う必要はないよねぇ」
「ちっ」
――なるべく多くの情報を喋ってくれると思ったがバカじゃないみたいだ。
「さあさ僕への質問は終わり、お兄さんの番だ。 誰がケルベロスを倒したんだい? お兄さんかい? それともそこの少女のどちらかかい? それともさっき死んでいった女の人かな?」
「それを知ってどうする?」
「とりあえず…殺す!!」
少年の表情が一転しにこやかにしていた表情が一瞬で殺意に満ちた顔に変わった。
「ほんとはさ~一番魔力の高いさっきの女の人が標的だったんだ。 だけどそれはケルベロスがやってくれたみたいだからね。 でも予想外のことにあの死なないはずのケルベロスが倒された。 果たしてどうやってあのケルベロスを殺したのか? それはとても興味深い」
「話さないと言ったら?」
「全員殺すよ? だから取引をしよう」
「なんだと?」
「僕はとても強いよ? あのケルベロスの封印を解いたほどだ、だからどうやってケルベロスを倒したのか話してくれたら、その倒した一人だけ殺してあとの二人は見逃してあげるよ」
「なぜそんなことをする?」
「危険だからだよ…あのケルベロスを倒したんだ放っておくわけにはいかない! さあ答えを聞かせてくれるかな?」
「ちょっと待ってろ」
そういうとシュウはフィリスとリンのもとで小さな声で話す、
「フィリス、リン、二人はここから逃げろ」
「え?!」
「どっちにしろケルベロスを倒したのはおれだ、だがしゃべったとこで二人を見逃す保証はない。たぶんあいつは嘘は言ってない強いってのも本当だろう…。三人で戦うっていう手もあるがリンは…まだ回復しきってないしイリーネさんが死んだショックで戦える状態じゃない誰かががついてないとだめだ」
「でもそれじゃシュウが」
「大丈夫だ俺に魔法はきかない。駄目だと思ったら逃げるさ」
フィリスはうつむいた顔を上げ黙ってシュウを見つめる。
「わかった、でもしばらくたってもシュウがこなかったらフィリスは戻ってくるからね」
「ごめんなさいなのです…」
「気にするなってフィリス頼んだぞ」
そういうとリンとフィリスを逃がしシュウは一人カールに立ち向かう。
――まったくなんて世界だよ…。普通ボスを倒したら少しは休ませてくれるもんだろうよ…。二人の少女に悲しむ時間も与えてくれないのか…ひどい世界だぜ…。 恨むぜアウラさんよ!
「あれぇ二人は逃げるの? 逃がさないよ?」
腕を組みふわふわと宙を浮きながらこっちをみていたカールがそういうと、
「俺が倒した!」
「あはははは!」
カールは腹を抱えながら大笑いをしだす。
「なんの冗談だい? お兄さんにはなぜか魔力のかけらも感じられない、君にケルベロスを倒せるはずないじゃないか」
「ああそうかい、なら力づくで俺を喋らせてみろよ」
時間稼ぎは意味がない、しゃべる意味もない。どっちにしろおれが殺されたらカールは二人を追うだろう…ならば刺し違えてでもカールを倒すしか道はない。
「いいねぇ嫌いじゃないよそういうの。まああの二人はお兄さんを半殺しにしてしゃべらせてから殺すとするよ」
そういうとカールは表情を変え右手を上にあげ呪文を唱えだす、
「疾風の刃よ、我が手に集え!ベートルネード!!」
カールの右手から鋭い風が渦を巻きシュウへと襲い掛かる。だがそれをシュウは左手で吸収し一瞬で間合いを詰める
「何っ?!!!」
「うおらあああああ!」
カールは魔法を防がれたことに驚き、思いっきりシュウの拳を顔面に食らい豪快にふきとぶ。
「ぐはっ…」
カールは口から血を流しゆっくりと起き上がる。
「なっなんだっ今のは?!! あり得ないだろう!!」
「ああっあり得ないかもな」
カールの動揺は目に見えるほどわかりやすかった。自信満々で放った自分の魔法が魔力がない人間になかったように消されたからだろう。
「何をしたんだ? 君に魔力は感じられない! それなのに僕の魔法を防ぐなんてありえない!」
「あり得てるだろ? 今目の前で起こったじゃないか?」
カールは口からでた血をぬぐいながら冷静になる、
「危険だよお兄さんは、戦い方を変えよう…」
そういうとカールは両手を地面につける。
「我が魔力に従し者たち、我が呼びかけに答えよ! アースコール!」
地面から円状の光が二つ放たれる、
「紹介するよお兄さん…僕のペットたちだ。雷馬獣ユニコン、それにこっちは火大蛇オロチだ」
――うん無理だろ…。
シュウの目の前に現れたのはシュウの2倍くらいの大きさの角のある真っ白な馬、よく見ると常に電気のようなものを纏っている、もう一匹は真っ赤に燃え盛っている巨大な蛇だった。




