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魔法世界デ魔法ナシ  作者: ヴァニ
第1章
12/16

ケルベロスの秘密

 



 穏やかな風の吹く森の一画でおぞましい怪物の再生が始まる。

 イリーネは振り返り、落胆の表情でケルベルスの再生を目にする。


「なるほどのぅ、これでもやはり再生しおるか……」


 イリーネは悟るように言い放つ。


「だからかつての賢者達は封印しかなかった……そういうことか……」


 シュウもまたかつての賢者達が倒せず封印を選んだ理由に納得せざる得なかった。


「……すまんな……おぬしらを助けられそうにないわい」


 諦めかけているイリーネとは裏腹に、シュウは腕を組み何かに気づいたように考え出している。


「まだ諦めるのははやいかもしれないぜイリーネさん、もしかしたらなんとかなるかもしれない」


「なにそれは真か?!」


 その言葉に反応したイリーネはシュウに視線を向ける。


「イリーネさんとフィリスはケルベロスがいまどこから再生されていたか見えたか?」


 その質問にシュウの背後からちょこんと顔をだしたフィリスが首を傾げ不思議そうに答える。


「真ん中の頭から再生されたってこと?」


「まっまあそうなんだが……」


 続いてイリーネがシュウの質問の意図に気づき問い返す。


「――!何かわしらには見えなかった何かが見えたのか!?」


 ――やはりか……!

 その答えにシュウは自分にしか見えていなかったことを確信する。


「ああ……この森の入り口のとおんなじ空間の歪みが見えた、森の入り口といい、リンの姿が見えることといいオレだけに見えたってことはケルベロスにとっては見えてはならないものだろうと思う」


「ええ! フィリスにはそんなの見えなかった!」


「森の入り口にはわしの魔法、姿を消すのはリンの魔法、なるほどのぅ……」


 シュウの発言にフィリス、イリーネの順に反応する。

 シュウは一つの答えを導き出す、それはイリーネも同じだった。 


「そこにケルベロスの再生に関わる何かがあると考えるのが普通じゃな」


「ああ……そうなるとやっぱり……」


「危険じゃが見えていたおぬししかそこに入るのは無理じゃろう……」


「だよな……なら行ってみるしかないか」


 危険なのは間違いない……。だがこのままでは勝てない……封印も不可能……逃げれば誰かが犠牲になるであろう。さらには全滅もありえる……なら、行くしかないだろう倒せるかすかな可能性があるのなら。そう思いシュウは覚悟を決める。


「ならフィリスも行く!」


 それを聞いたフィリスはシュウに向かって勢いよく発言をした。


「だめだ! フィリスは連れていけない! なにがあるかわからないし危険すぎる、フィリスはいますぐリンのもとにいって一緒にここから逃げろ」


 フィリスの発言に全力で反対するシュウだったが「むぅ」といった感じでほっぺを膨らまながらシュウを見つめるフィリス。その表情はいかにも納得のいっていない感じだ。

 シュウは腰を下ろしフィリスの目線に合わせ手を頭に乗せる。


「大丈夫だフィリス俺は死なない! 魔法だって消して見せただろ? リンと一緒にこの森からでるんだ」


 と今度はフィリスは表情を変えその綺麗な赤色の瞳に涙を溜めながら精一杯発する。


「やだ! シュウも一緒じゃなきゃフィリス逃げないよ」


「わかってくれフィリス、中にはいったとたん死ぬかもしれないし戻ってこれるかだってわからないんだぞ?」


「戻ってこれないのならやっぱりフィリスも行く!」


 涙ぐみながら発するフィリスをなんとか納得させようとシュウは言葉を探していると、


「シュウおぬしの負けじゃ、おぬしがその娘を危険にさらしたくないのはわかる……がその娘がいたほうがおぬしの生存率も上がろうて、その空間の中になにがあるかわからん……手札は多いに越したことはないぞ」


 二人のやりとりを聞いていたイリーネが右手の人差し指を立てて続けて述べる。


「それにじゃ最悪わしら二人がやられてしまったとしよう、その娘もにおいを覚えられとるに違いないて、だれが二人を助ける? リンとフィリスではケルベロスに抗うことはできまい……つまりリンもフィリスもゲームオーバーじゃ」


 イリーネの発言に反論の余地もない、ここで二人ともやられてしまえば間違いなく次は逃げたリンとフィリスを襲いにかかるだろう。しかしシュウはそれでも生きてさえいれば多少の希望はあるのではないかと期待してしまっているのだった。


「シュウは私を守ってくれるんでしょ?」


 フィリスは涙を浮かべた瞳でシュウを見つめ続けた。その瞳にその言葉にシュウは言い返すことなどできるはずがなかった。


「そうだったな…………フィリスも守りケルベロスも倒す! それで一件落着だ!」


 正直守り切れる保証はないが……不思議とフィリスだけは守り切れる自信がでてきた。ケルベロスは倒せなくても最悪フィリスだけは逃がす。と……


「うん! フィリスちゃんと守られるよ」


 と泣きそうだった顔を一変させ満面の笑みを見せる。


「さて、答えはでたようじゃの? あまり長話はできんようじゃ……そうこうしているうちに敵さんは再生を終えてきて……」


 その瞬間イリーネさんの体がよろめき前に倒れこむ。


「――!! 大丈夫かイリーネさん?」


 シュウはあわててイリーネの体を支えた。


「すまぬの、ちょっとめまいがしただけじゃ大丈夫じゃよ」


 とイリーネは顔に手の平をあてる。


「本当か?さっきの魔法でずいぶん無茶したんじゃ……」


 イリーネが強がりをいっているのはシュウにはわかっただが……。


「まったく勘が鋭すぎるのも問題じゃの……なあにまだまだ体は動くわしの心配は無用じゃ、それよりも……くるぞ!」


 ケルベロスは待ってはくれない、三人の目の前ではいまにも再生を終えようとしているケルベロスが再び襲い掛かろうとしていた。

 それを見たイリーネは再び身構え、シュウはフィリスを抱き上げる。


「イリーネさん、ふらふらのところ悪いが真ん中の首を吹っ飛ばしてくれ、あの辺に空間の歪みがあるはずだ」


 シュウに見えていた空間の歪みはいまはケルベロスの顔が邪魔をして見えていない、まずは邪魔なケルベロスの肉を吹き飛ばす必要があった。


「了解じゃ、じゃがすまんがチャンスは一度きりじゃ、先の魔法でわしの魔力は空っけつに近いのでな」


「ああそれで十分だ」


「それとじゃ……シュウここで生き残れたらリンを頼んでよいか?」


「――!!?」


 そのときだった。再生を終えたケルベロスの三つの頭が上空を向き今までとは違う禍々しい咆哮をあげた。


「うおっなんだ?」


「シュウ! 嫌な予感がする一気にいくぞ!」


 ケルベロスの咆哮が邪魔をしてかろうじて聞こえたイリーネさんの声に反応しシュウはケルベロスに向けて一気に突っ走る。

 それと同時にイリーネは両手を前に突き出す。


「ディバインサンダー!!」


 イリーネの両手から放たれた雷は寸分たがわずケルベロスの真ん中の首を根元から吹き飛ばした。

 咆哮中に真ん中の首を吹き飛ばされたケルベロスは一瞬その巨体を後ろに仰け反らせる。


「ok見えた!」


 シュウはその瞬間を逃さず最短距離を全力疾走で走り、瞬く間にケルベロスの前に着く、


「いくぞ! フィリス!」


「うん!」


 フィリスがシュウの胸に顔をあてしがみくとシュウは思いっきり地面を蹴り上げケルベロスの体に吸い込まれるように消えていった。


「うまくいったか……頼んだぞ、シュウ……」


 それを見たイリーネは膝から倒れこみ呟く様に発する。


 イリーネの魔力は極雷魔法を放ったときにすでにゼロになっていた……立っていることもままならなったイリーネは速攻で自分の最後の仕事をやり遂げるしかなかった。命を削り放った魔法は見事ケルベロスの首を吹き飛ばすことに成功したがイリーネは手足を動かすこともできなかった……。





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