左手の能力
シュウの左手から三本の大きな氷柱が直撃する、シュウは目を閉じ死を覚悟をした、しかし氷柱はすべて左手に当たると大きな音をたて……ずにすべて吸い込まれるように消えていった。
「なんじゃいまのは!!」
イリーネがそれを目撃して驚愕する、そしてそれはリンもフィリスも同じだった。
シュウも半分は驚きそしてもう半分の感情は喜びをだった。
すかさずリンを抱きかかえケルベロスから離れるシュウ。
「なんで……シュウさんがここにいるのです?いまのは……どうやったのです?」
抱きかかえられたリンは苦痛の表情で口を動かす。
「さあね、おれにもわからねえ……ただ」
「――ただ?」
「おれにもできることがあるみたいだ」
シュウの賭けは左手だった、少し前にリザード族のライドと戦ったときに起きた不思議な現象、左手が魔法を吸うかのような現象、もしかしたらこの左手は魔法を吸うんじゃないかとそう思っていた。だがそんなもの魔法をくらわないとわからない。
―気のせいだったかもしれない。
―見間違いかもしれない。
―発動条件があるのかもしれない。
吸わなければ丸こげ、今回の場合は確実に死んでいただろう、しかし自分の目の前でリンという少女が死ぬくらいなら助けられるのなら自分の命を賭けても構わないそう判断した。
「リン動けそうか?」
「ちょっと駄目そうです、何本か骨が折れてるっぽいのです」
「フィリスが治せるといいが……」
イリーネがケルベロスをひきつけてくれているおかげでフィリスのもとには難なく戻ることができた、シュウはリンを下ろすとフィリスが駆け寄ってくる。
「フィリス治せそうか?」
「うんやってみる」
とすぐに呪文を唱え始める、
「アルフィーナ!」
リンに両手を向け呪文を唱えるとリンの体を緑色の霧が包む、
「ごめんシュウちょっと時間かかっちゃう」
リンの傷は思った以上に深く、すぐには治すことはできないと思ったフィリスはシュウに申し訳なさそうに告げる。
「治せるだけ十分だえらいぞ、おれはイリーネさんのところへ行ってくるリンを頼んだぞフィリス」
シュウはフィリスの頭を撫でるとすぐさまイリーネのもとへ走り出す。ふと見るとケルベロスは視界から見えなくなるほど遠ざかっていた、イリーネが反対側へ引き付けてくれているのだろう、だがそれもいつまで持つかはわからない、それにイリーネがやられてしまっては意味がない。
急いでケルベロスのあとを追うシュウ、森を走るシュウだがケルベロスがとおった場所は焼かれ、貫らぬかれ、なぎ倒されたせいで木々がほとんど倒され森の中に道ができていた。もとより、巨体にうるさい咆哮のおかげで場所はすぐにわかるのだが……。しばらく走るとシュウの視界にイリーネとケルベロスの凄まじい攻防が飛び込んでくる。イリーネは空を飛びながら炎と氷の波状攻撃を紙一重でよけ、隙をみては雷のような魔法で攻撃していた。
「イリーネさん」
その言葉に反応したイリーネはケルベロスの左の頭にどでかい雷を落とすと素早く飛びながらシュウのもとに近寄り着地する、
「シュウ、リンは無事なのか?」
「ああ、いまはフィリスが治療してる」
「すまん……礼をいわんとな」
「その話はこいつをなんとかしてからにしようぜ」
ケルベロスのイリーネさんによるダメージによる再生が終わると再び二人に増えた標的を六つの目がを睨んでいる。
二人も睨み返すようにケルベロスの動きを見ながらしゃべり続ける。
「さきほどのリンを救った左手その手なんじゃ?」
「さあねおれにもさっぱり……だが有効活用させてもらわないとな」
シュウは左手を開いたり閉じたりしながら手の動きを確かめるように動かす。
「イリーネさんこいつをもう一度なんとか封印できないのか?」
「無理じゃ! わし一人では到底出来ん……まったくおぬし達のためにせっかく逃げる為の時間稼ぎだけをしとったのに……こうなればシュウよ無茶は承知でおぬしに頼みがある……」
「なにをすればいい?」
「ちょっとばかし時間を稼いでほしいんじゃ」
「……どうするつもりなんだ?」
「あの犬っころを跡形もなく消してしまおうと思っての」
「いいっ!! そんなことできんのかよ!」
「できないことはないんじゃがやはりそれだけの魔法となるとわしの魔力だけでは足りんのでな……大気からの力を借りる魔法でないと無理じゃろう……それに時間がちいとかかっての……そこでさきほどの身のこなしと不思議な左手を持つおぬしの出番じゃ! 1分でいい時間を稼いでほしいんじゃが」
「わかった1分でいいんだな……」
「すまんが頼む。死ぬんじゃないぞシュウ」
「この世界にきて一日目で死にたくはねえな」
「これが終わったらまたわし特製のドリンクを飲ませてやろう」
とイリーネはシュウに微笑みかかると空中に高く飛んでいく、ケルベロスも攻撃の合図とばかりにけたたましい咆哮をあげ攻撃を再開する。すると右の頭はイリーネの方を向き炎を吐き続ける。
「まったくめんどうな頭の犬っころだな……」
そういうとシュウは左の頭の氷を避けながら右の頭のほうへ走り、唯一の武器であるフィリスの屋敷から持ってきたナイフ取り出すとを右の頭めがけて思いっきり投げつける! が……。
「――!」
刺さる予定のナイフが刺ささらない……勢いは十分にあったはずだが回りの毛が思いのほか防御力が高いのだろうケルベロスには微塵もダメージを与えていない。今度は右に来たシュウを右の頭が炎で狙い、左の頭がイリーネに氷柱を飛ばしてくる、
――ならおれが離れれば……。
「ついてこい!! 犬っころ!」
とシュウはケルベロスから離れるがケルベロスはシュウを追わず両方の頭がイリーネに攻撃を集中し始める、
「……くっそう無駄に頭がいいのかよ犬っころのくせに」
手がなくなった……どうしたもんかと考え込むシュウの前にリンの治療が終わったのであろうフィリスがこっちに向かって走ってくるのが視界に飛び込んできた。
「ちくしょうこれしかないか……すまんフィリス」
迷いながらもケルベロスの注意を引くにはこれしかないと行動にうつる。
シュウはフィリスのもとへ駆け寄るとフィリスを両手で抱きかかえそのままケルベロスから離れるように走る。
「治療は済んだんだな」
「うんリンはもう大丈夫だよ、すぐには動けないと思うけど……でもどうしたのシュウ?」
「フィリスいまからケルベロスに向けてできるだけでかい魔法をくらわせてくれないか?」
「でかい魔法? でもフィリス攻撃じゃきっと駄目だよ?」
「ああ構わない、それとかなり危険な目に合わせるかもしれないがお前は絶対守るから安心してくれ」
「うんわかった」
フィリスは迷うことなく笑顔で即答した。
それを見たシュウは、
――フィリスの中の俺の信頼はどれだけなんだよ。絶対に守らなきゃな……
と思い、シュウはフィリスを抱きかかえたまま再びケルベロスの近くに寄る。
「頼むフィリス!左の頭を狙え」
「アローファイナァ!」
フィリスの両手からでかい矢のような形をした炎が放たれる。すると、炎の矢は見事にケルベロスの左の頭に直撃した。
ケルベロスが苦痛のような雄たけびをあげると三つの頭が、六つの目がシュウとフィリスを睨んだ。
「うしよくやったフィリス!あとはまかせろ」
「倒せてないけどこれでいいの?」
シュウの意図がわからないフィリスは首を傾げてシュウに問う。
「ああ十分だ!」
シュウはイリーネの方をむくと目で合図をし、イリーネは準備を始める。
「フィリス、ちゃんと摑まってろよ」
「うん」
怒れるケルベロスVSシュウとフィリスの長い1分の回避劇が始まる。




