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これが恋だと知りました  作者: 神楽
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1. 生意気な年下男子 side かおり

 毎週木曜日午後6時から2時間、私、(たちばな) かおりは高校2年生の男子生徒の家庭教師をしている。


「これをここに代入して、計算していくと、xの範囲は...あれ?」


おかしいなぁ。予習してた答えと合わない。


「3行目、足し算間違ってますよ。」


「あ・・・。」


「そんなケアレスミスしてて、よく達兄(たつにい)と同じ大学に入れましたね。」


私は彼、伊藤(いとう) 涼介(りょうすけ)を睨む。


彼の言う『達兄』とは、私の所属するサークルの先輩で、小林(こばやし) 達也(たつや)の事だ。涼介は達也の従弟である。


確かに達也先輩は、ギリギリ受かった私とは違って優秀だろうけど、涼介は私に対していつも一言多い。


顔こそ従兄弟だから似ているが、性格は全然違う。とにかく、涼介は腹の立つ男だ。


とはいえ、この生意気な高校生の家庭教師になったのは、達也のせいでもある。




涼介の兄と達也が同級生であり、とても仲が良かったため、達也も涼介を弟のように思い、また、涼介も達也をもう一人の兄のように慕っているらしい。


涼介の高校受験の時には、涼介の兄が北海道の大学へ進学していたため、達也が涼介の家庭教師として涼介に勉強を教えることになったらしい。


全ては達也から聞いた話で、その話を聞いてる時は、地道にコツコツ頑張る好青年としか思っていなかった。


だからこそ、達也からこの9月から留学できることになったと聞かされたときは、お世話になっている先輩のためでもあるし、今時珍しく、将来を見据えて勉学に励む好青年ならと、二つ返事で家庭教師を引き受けた。


それに、私にも高校2年生の弟がいるが、大学受験の事など考えず遊び呆けているのだから。


まぁ、私も少し勘違いしていたところはある。


達也は、人当たりも良く、誰とでも分け隔てなく話ができるという才能の持ち主であり、天文サークルなんていう、ちょっと地味なサークルにメンバーが集まるのは、間違いなく達也のおかげである。


その親戚ならきっと朗らかな青年だろうと、勝手に思っていた。




そう、勝手に思っていた。


これは、私にとって人生最大の勘違いだった。


達也が出発した8月半ばから、涼介の家庭教師を引き受けてそろそろ2ヶ月。


その間に分かったことは、とにかく生意気だ。


達也が留学している1年間だけならと思っていたが、すでにもう限界だと感じている。


それに、達也もそうだが、涼介もいわゆるイケメンというやつだ。


イケメンと呼ばれるような人種には、子供の頃の友達との思い出が蘇り、拒否反応を示す。


まさに私には鬼門。


そして、さらに腹が立つ事が、成績も良いってことだ。


そう、何も私なんかが家庭教師をしなくてもいいほどに。




うちの大学に入学するのは、大体2タイプいる。


達也のような天才肌のタイプと、私のような青春時代を勉強に捧げるしかなかったタイプだ。


その達也の親戚で、うちの大学を目指していると聞いたときに、私はもっと考えるべきだったのだ。


私なんかが務まるのかと。


しかし、中途半端に放り出すことも、私のなけなしのプライドが許さない。


例え、青春時代の全てを勉学に捧げた結果とはいえ、トップクラスの大学に私は合格できたのだ。


有名進学校に在籍しているとはいえ、高校生には負けてられない。




「で、次はこの問題をやればいいんですか?」


突然、涼介に話しかけられ、心臓が一跳ねした。


「えーっと・・・、そうね。これとこれを解いてみて。」


私は慌てて問題を指示した。


涼介は素直に問題を解き始めた、そう思っていたが、またしても余計な一言が・・・。


「そんなにボーッとしてて、よく受験大丈夫でしたね。」


確かに考え事をしていたのは事実だ。


「ごめん、ちょっと考え事しちゃって。

受験のときは緊張感あるから、それどころじゃないっていうか・・・。」


涼介がシャーペンを持つ手を休め、こちらを見る。


「これは、貴女にとっては仕事だと思ってました。」


かぁっと頬が熱くなるのが分かった。


そうだ、生徒がどうだろうと、彼の両親から相応の給料を貰っている。


涼介の言うことはいちいち正しい。


しかし、だからこそ、その話ぶりに腹が立つ。


私は涼介の隣に居ることに耐えきれず、椅子から立ち上がると、彼の本棚の前に立った。


家庭教師のバイト以外に、週に3日本屋でバイトしている私にとって、本は身近で、気持ちを落ち着かせてくれる。


彼の蔵書は、達也の影響があってか、宇宙や天文関係の本もあり、思わず手がのびそうになる。


それ以外にも私の好きな作家の本がたくさんあり、本の趣味だけは気が合うのかもしれないと思った。


本のタイトルを目で追っていると、フォトフレームが目に入った。


無意識に手が伸びていた。


そこには、小学生くらいの涼介がペットの犬を抱いている写真が飾ってあった。


写真の涼介は満面の笑みで、とても愛おしそうに飼い犬を抱いていた。


普段の表情からは想像もできない笑顔だ。


それが、子供だったからなのか、その飼い犬のおかげなのかは、判断できないけれど。


「ハヤブサっていうんです。」


涼介の声に驚いて、危うくフォトフレームを落としそうになった。


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