眼鏡屋は、等価交換をもちかける 1
初めての投稿です。
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『キミが ここでバイトをしてくれるなら・・・
今、キミが会いたい人に会わせてあげますよ』
【眼鏡屋は、色のない夢をみる】
◆眼鏡屋は、等価交換をもちかける
「理くん いらっしゃい」
ほんわかとした優しい声に、ゆるっとしたTシャツ、だぼだぼのズボン
細目を隠すような少し太めの黒縁眼鏡に、サンダル
無造作ヘアーと言えば聞こえはいいが、寝癖で多方面に向いた髪
おおよそ接客業とは程遠いこの男は、ここ”岡田眼鏡店”の店主 岡田 保。
「保さん、こんにちは。今日もお客さんゼロなんですか」
ワザとらしく深いため息をつき、鞄を所定の場所にしまった。
「ははは、今日も・・・だよ。困ったね。」
困ったと言いながらも、にこやかな笑顔で頭をかきながら
保さんはお茶を飲んでいた。
「保さんは、眼鏡売る気なんてないでしょ」
「そっ、そんなことはないよ!!!
見てよ!!僕の集めたこの素晴らしいコレクションの数々
どれも美しいフォルム
これなんて、女性の体のラインのように滑らかで・・・・」
保さんは、一本の眼鏡をとり息荒げに説明を始めた。
こうなると、話が長い。
「はいはい」
(コレクションと言ってる時点で、売る気がないと思うけど・・・)
「なんでもいいですけど、バイト代はちゃんと払ってもらいますからね」
保さんの話をそこそこに、俺は自分のお茶を入れるために台所へと向かった。
俺が、この”岡田眼鏡店”でバイトを始めたのは一か月前だった。
共働きで家を空けていることが多かった両親に変わり、祖母が俺を育ててくれていた。
その祖母が、二か月前に亡くなった。
「お婆ちゃん子だったから、辛いでしょ」と親戚周りに言われたが、不思議と悲しみさえ湧かなかった。
ただ、溢れてくるのはあの日なんであんなことを言ったのかという後悔の念ばかり。
「おや、お客さんですか?」
ふっと足を止めた所で、ニコニコと微笑むボサボサ頭の糸目の男に話しかけられた。
「いや・・俺は違っ!!」
「ほら、店前だとなんだから入った入った」
その男は、俺の背中を押し無理やり店の中に連れはいった。
「だから、俺は客じゃないって!!!」
「おや?そうでしたか・・・・・
僕は、てっきりお客さんかと・・・・
だって、貴方は会いたい人がいますよね?」
「え・・・・」
一瞬心が見透かされているかと思った。
その男の手を振り払い、帰ろうとした俺に男は席を勧めてきた。
辺りを見回すと、木造建てのこじんまりとした室内に
無数の眼鏡が展示されている。
そして、まるで俺がここに来ることが分かっていたように、
窓際の机にはお茶が二つ用意されていた。
「僕は、怪しいものじゃありませんよ。ただの眼鏡屋店主です」
そうにっこりとほほ笑んだ、この男が保さんだった。