おまけ4 未来人の処世術
拍手お礼小話の加筆修正版です。
本編8話と9話の間辺りであろう、義姉弟の一幕です。
希代とのセカンドインパクト成功祝いとして、カズサが菓子折り片手に現われた。
幸い、彼と敵対関係にある宇宙人ことシン・ク・ロウは、処方薬を飲んで眠りこけている。図体や境遇の割に、寝付きは非常にいいのだ。
今なら安全だろう、と市夜もカズサを招き入れる。
手土産は、大金持ちの愛人の息子、という妙な肩書きにぴったりの品だった。
人気の高級洋菓子店の、これまた一番人気のフルーツタルトだ。
ぎゅうぎゅうと敷き詰められた、瑞々しい果物たちに、市夜はごくりと唾を飲み込む。ほのかに漂うカスタードクリームの香りも、また食欲を奮い立たせる。
「さすがはお高級品、目に訴えて来るね。でもここのケーキって、かなり並ばないと手に入らないでしょ? 私、並ぶ前から諦めてた」
女である市夜だが、行列に並ぶことが何よりも嫌いなのだ。
「僕のボディガードさんが、せっかくだからって手配してくれました。お義姉さんが甘いもの好きで良かったです」
義姉手ずからのインスタントコーヒーを受け取り、カズサは誇るわけでもなく、にこにこと自然体で語る。
「あんたにボディガードなんて、要らないと思うんだけど」
ミルクタップリのコーヒーを飲み、市夜も苦笑する。
「僕もそう思います。平和なのに、過去」
しかし、金もあって、少しずれているが性格も健やか。おまけに、裸一貫(本当はタイツ一丁であるが)で、この時代での地位を築き上げた生存能力もある。
妹の夫候補としては、文句なしだ。
ただ一つだけ、気になる点もあるのだが。
「カズサ君。つかぬことを訊きますが」
「はい?」
「戸籍とかは、どうしたの?」
そうなのだ。何をするにも、戸籍や住民票は必須である。
洗脳装置でどうにかなるかもしれないが、それだけで乗り切れるほど、この国はシンプルではない気がする。
尋ねられたカズサは黙ったまま、静かに微笑んだ。
底抜けに穏やかな、思わず見とれてしまう笑みである。だからこそ、かえって薄気味悪い。
市夜が眉をひそめると、カズサは笑顔のまま呑気に答える。
「捨てる神あれば、拾う神ありなんですよ」
「つまり」
「戸籍って、買えるんですよね」
「ふうん」
誰から買ったのかは、聞かない方が賢明であろう。




