おまけ3 名前にまつわる、あれやこれ
拍手お礼小話の加筆&再掲載です。
本編の7話と8話の、間辺りの一幕です。
「あなた、名前は?」
入院させていても金がかかるため、市夜は異星人を自宅へ引き取ることとした。
救急病院のカウンターで、全額実費の高い医療費を払いながら、後ろを振り返る。
市夜の財布の中身も非常事態だが、ベンチにのけぞるターレ人の顔色も、絵の具を塗ったみたいに真っ赤だ。
聞けば子どもが罹患する病気を患い、扁桃腺まで腫らしているらしい。
帰りに安いプリンでも買ってやるか……それにしても、異星人にも扁桃腺ってあるものか?
などと密かに考えていたら、異星人は億劫そうに身を起こした。
「……シン・ク・ロウ」
顔と髪色にぴったりの、緑茶みたいな渋い声で、気だるげに答える。
「シンクロウ?」
「いや、個体名はシン、居住区域がク、職種がロウでござる」
喉が痛いせいか、弱々しい発声で、しかし丁寧に答えた。侵略者の割に、几帳面である。
彼によると、残存するターレ人は航行船内生まれの者が大多数であるためか、姓という概念がないらしい。
代わりに、どの船で生まれ、どういった職務に就いているのか、という点が重要視されているという。数少ない人口を、効率よく各職務へ分配し、居住区域ごとの出生率も把握するための措置なのだそうだ。
つまり彼の名前は、ク村生まれでロウの仕事をしているシンさん、という意味となるらしい。
いつの時代の農民だ。
その口調と相まって、江戸時代臭が半端ない。いや、戦国時代でも構わないのだが。
頬を緩めてにやける市夜の脳裏に、白馬に乗った某将軍が暴れ込んで来た。
祖母と一緒にあのドラマを観ていたおかげで、八代将軍の名前だけは忘れなかった市夜なのだ。
そして、彼が使っていた偽名も、しっかり覚えている。
「……徳田 新之助」
謎の名前で呼ばれ、シン・ク・ロウは首だけ再び持ち上げる。
「は? 何と申したか、地球人よ」
手と首を、市夜は素早く左右に振った。
「いえ、何でもないです。あと地球人じゃなくて、市夜ね」
「イッチャ?」
「私は三人目のウッチャンナンチャンか」
「ウッチャ……それは、何者か?」
「あーもー、面倒ね。私の名前は市夜、イ・チ・ヤです」




