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酒好き義姉さん、未来人の仲人になる  作者: 依馬 亜連
おまけ

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19/22

おまけ2 知らない方がいいこと

 拍手お礼小話の加筆版でございます。

 少々お下品となっております。

「なんでその本も、過去まで持って来たの?」

 ファーストフード店にて朝食をおごってやりながら、市夜は顎をしゃくる。

 視線が注がれているのは、カズサが後生大事に抱え持っている『近・現代史』。

 親の仇と相対するような顔で熱々のコーヒーをすすり、カズサも本へ目を落とした。

「ああ、これですか? 当時──この時代の世相や風俗を学ぶ、あんちょこみたいなものなんです。僕らの時代じゃあ紙の本なんて希少ですし、探すのに苦労しましたよ。お値段も割高ですしね」

 とはいえ電子書籍ではかえって目立つため、紙の本を用意したのだという。

 照れ笑いを浮かべる繊細な顔へ、市夜も薄い笑みを浮かべる。

「そりゃお疲れさんなことで。ねえ、ちょっと見せてよ」

 カズサが来訪した当日に中をのぞいたものの、当時は半信半疑であったため、詳しい内容までは読んでいなかった。

 今となっては、俄然興味の沸く文献だ。


 この申し出に、睫毛の長い瞳を見開いて、カズサは慌てた。全ての造作が完璧であるため、焦る顔も非常に絵となる。

「だだだ、駄目ですよっ。今の時代の人に見られて、タイムパラドックスが起こったら大変じゃないですか!」

「あんたが来た時点で、すでにパラドッてるんじゃないの? それとも宝くじの当選番号でも、書いてるの?」

「いえ、それは書いてませんけど……ああっ」

 ごにょごにょと口を濁らせるカズサの隙を付き、市夜は『近・現代史』へ手を伸ばす。

「ひどい、何するんですか! お義姉さんのいじわるっ」

「何とでも言うがいいさ」


 白いテーブルを挟み、二人で本を奪い合う。姉弟のじゃれ合いと受け取ったのか、店内にいる会社員や学生は、微笑ましげに彼らを眺めている。

 ついでに女性客は、カズサへとろける眼差しを向けていた。

「おりゃっ」

 短い掛け声とともに、市夜が身をよじって本を奪う。

 その拍子にぱらり、とページがめくれた。

「駄目ですってば!」

 カズサが素早く奪い返したため、全容を読めたわけではなかったが。


──「細菌兵器」、「イボ痔」、「パンデミック」、「肛門科不足」──

 瞬間、こんな言葉が視界に入った。


 ぽかん、と固まる市夜へ、カズサは『近・現代史』を背に隠して、目を細める。

「これは貴重な、日本の全てが詰まった本なんですから!」

「全て……」

 あれも、日本の一部ということか。

「おいそれと見られちゃ、困りますよ」

「……うん、分かった」

 思いのほか聞き分けの良い市夜へ、カズサはまた目をまたたく。色付きの良い唇も、綺麗な丸型にすぼめられている。

「あれ? まあ、分かっていただけたなら、何よりなんですが……」

「大丈夫、もう見ない」

 目に力を込め、市夜は重々しくうなずく。


 イボ痔と細菌兵器の関係性が気になるが、おそらくは知らない方が幸せだろう。

 代わりに市夜は、ドーナツ型クッションを買おうと心に決めた。

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