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悟という青年

外から、多分すずめか。鳥の鳴き声が聞える。窓の方を見ると空はまだ薄暗かった。机に置いてある時計の時刻を見る。六時…二十分くらいか。休日はアラームをセットしないから親が起こしに来るまでずっと寝てるはずなんだが……何故か目が覚めてしまった。



「あぁ、そうか」



私にしがみ付いて寝ている瀬川を見て納得する。いつもの習慣でこの時間に浅くなっていた眠りを瀬川に起こされたんだ……しがみ付いている?関係ないが私が平日の日に早起きするのにはもうひとつ理由がある。



「……何私の布団で寝てるんだあぁぁぁぁ!!」



私は寝起きがものすごく悪い。だから起きてからみんなに会うまでに調節をするんだ。



「きゃあ!ルカ様!?」



私は布団を思いっきり翻し、寝ている瀬川を起こした。



「フー、フー、フー」



「あ、あの~ルカ様?」



瀬川に声を掛けられようやく我に返る。



「あ、あぁ、すまない。起きたら瀬川が私の布団で寝ていたからな、少し驚いただけだ。ビックリさせてしまったな」



「は~、それにしてもルカ様があんなに怒るなんて……朝は機嫌が悪い、覚えておこう」



その後は布団を片付けて一階に降りるとまだ誰も起きていなかった。いや、一匹起きていた家で飼っているネコだ。名前は『ミュウ』。鳴きながら私の足に頭を摺り寄せてくる。



「みゃ~」



「起こしてしまったか?ミュウ、もう少し寝てていいんだぞ」



そう言って頭を撫でてやると、ミュウはまたどこかに行ってしまった。さて私の場合はもう一度寝てしまうと昼過ぎまで起きなくなる可能性がある。ここらで私の尊厳を少し取り戻した方がいいな。



「少し早いが朝食にしようか、私が作るから瀬川は部屋で待っていてくれ」



「え、それなら私も!」



「今回は私にやらせてくれ、一応瀬川は客人だ。客人にもてなしができないのは私のプライドが許さない。出来上がったら部屋に運ぶから、待っててくれ」



と、言うのは建前で、本当の理由は二つ。一つは先にも言ったとおり、一人で作る事によって尊厳を保つ事、もう一つはぶっちゃけ一人の方がやりやすいと言う事だ。



「そうですか…何から何まで、ありがとうございます!」



そう言って瀬川は再び二階に上がった。私はキッチンに入り朝食の用意をする。今日のメニューはトーストにオムレツにサラダと紅茶だ。私はそれなりに料理も出来る。高校の調理実習でみなの期待に応えようと前日の夜には何度も練習した。それが功を奏し料理が上手くなった。



「よし、こんなもんか」



出来上がった朝食をトレーに乗せて部屋へと運ぶ、なんだか小学校の給食を思い出す。部屋の前まで来ると両手が塞がっている私は中にいる瀬川に声を掛けた。



「瀬川、朝食を持ってきたんだが両手が塞がっていてドアが開けられない。そっちから開けてくれ」



「は~い」



ドアが開き中へ入る。瀬川が朝食のトレーを見て感嘆の声を上げる。



「わ~!凄いですルカ様!おいしそ~」



「とりあえずいただこうか」



「はい、いただきます!」



ふ~、とにかくこれで少しは尊厳を保てたか。自分から周囲にチヤホヤされるのは好きではないが、一度得た尊厳を崩してしまうのも性に合わない。慣れというのは怖いなぁ。



「おいしいです、ルカ様」



チーズオムレツを口いっぱいに頬張る瀬川は本当においしそうに食べていた、これを見ると作った甲斐があったと言うものだ。朝食を終えた後私たちはテレビを見ながらどうやってサトルさんを探そうか話し合っていた。やっぱり情報が少なすぎる。



「どうやって探しましょうかね、ルカ様」



「ん~せめて顔さえ分かればな。それに名前は聞いたが苗字を聞くのを忘れていた、二十歳で黒い指輪をしてる、か~」



完全に行き詰ってしまった。こんなことをしている間にも、シュレイナは。そんな事を考えながら何気なくテレビを見ているとスポーツニュースになった。



『今注目の投手!○○県出身の『荒川 悟』君です。本日は彼にインタビューしたいと思います!』



テレビのニュースキャスターが報道していた。おそらく私と瀬川は同じ気持ちだっただろう。同時に向き直って……。



「ルカ様!」



「あぁ、瀬川、荒川……サトル。もしかしたらな」



その後も私たちはテレビから目を離さなかった。そしていよいよ『荒川 悟』がテレビに映った。瞬間私たちは確信した。テレビの中の青年が髪を掻くその手の指先。黒い指輪だ。



「やっぱりこの人だ、荒川 悟。どうにかこの人と接触しないと」



そこへテレビの中の青年は思いもよらない言葉を口にした。



『明後日から一ヶ月間チームの合宿で××県に行くんですよ』



それを聞いた私たちは愕然とした、××県は私たちの住んでいる○○県とかなり離れている。この人が合宿に行ってしまったら、絶対に会えない。



「ルカ様、どうしましょう」



『だから、明日は○○県の地元に帰って久しぶりに友達に会うんです』



「「!!!!!」」



これは、もうこの日しかない。



「瀬川!このニュースの収録はいつ!?」



「は、はい!今すぐ調べます!」



瀬川はケータイで調べた。そして調べた結果が昨日の朝である。つまりこの人が地元に来るのは…。



「今日、何時かは分からないけど、この町に来るはず。ここで捕まえないと二度と会えない」



今日、何としてでも『荒川 悟』を探さないと。

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