旧校舎
「ルカ様、本当に行かれるんですか?」
私たちは現在旧校舎の入り口にいた。その木造の校舎が異質な雰囲気を醸し出しているため瀬川がやっぱりやめようと言い出した。けど私の意志は変わらない。
「瀬川が行かないなら、私一人で行く。帰っていいぞ」
「そんな、ルカ様一人では心配です。私も…」
結局瀬川も着いてくることに、この忠誠心には本当に感心する。さて、どうやって入ろうか。入り口の扉には当然のように鍵が掛かっている。けど長いこと変えられてないのかひどく錆び付いていた。これ位ならいけるか。
「ほら、鍵も掛かってますし、今回は諦めましょう。切断する工具もありませんし……取りに行ってたら誰かに見つかってしまいます」
尚も瀬川が説得をする、私は彼女を無視して構えた。
「ルカ様、一体何を……」
私は深呼吸し一度眼を閉じる。そして……。
「やあ!!」
手刀で鎖を断ち切った。これくらいなら朝飯前だ、瀬川は驚いていたがそれは私の手刀にではなく私の行動自体にだ。私は学校ではそれこそ体育の時間などは活発にやっていてアクティブな生徒だが何かを壊す、ましてや学校の備品を壊すことは絶対に無いのだ。それを自分から学校のものを壊したのだ。驚いても無理は無い。
「ルカ様!何て事を!?」
しかしおかげで入り口の扉は開くようになった。私は扉を開け中へ入った、瀬川も初めは躊躇していたが奥に行く私を見て後に続いた。
「確か、三階の右の部屋だったな」
私はゆっくりと階段を登る、万が一にも崩れてしまっては大変だからな、慎重に行かなければ。時間をかけて私はついに三階へ到達した。もちろん瀬川も着いてきている。……そして。
「あの部屋か」
私は右の部屋の前まで来た。取っ手に手を掛ける、すんなりと扉は開いた。中に入ってみるとそこは。
「ここ、何の教室でしょうか。何もありませんね、ひとつを除いては」
瀬川の言うとおり、一つのものを除いては何も無い空間だった。その一つというのが……。
「これが、言っていた鏡か」
窓際の壁にに掛けてあった大きな丸いもの。布がかぶせてあったけど、間違いなく鏡だ。私は布をとった、すると……。
「………すごい鏡ですね」
「あぁ、こんな鏡は見たことが無い」
確かに鏡だった。けど、派手な装飾が施された鏡だった。こんなものを造る技術が日本にあったなんて、それは表現に困るほどに複雑な装飾だった。そして私は確信した。
「…あの鏡だ」
「え?何か言いましたか?」
瀬川には聞こえなかったか、まぁいいか。これで目的は果たした。あとは、この鏡に触れてみるだけだ。私はゆっくりと右手を鏡に触れさせた、すると。
「何ですかこれ?」
鏡の表面は水面に触れたように波紋が広が私たちが映っていたはずの鏡は荒野を映し出した。それにはさすがの瀬川も言葉を失っていた。しかし本題はここからだ、もう少しで、あの女性が出てくる。
「誰かが映ってますね、こっちに走ってきてます」
鏡の向こう側から金髪の女性が何かに追われているように走ってこっちに向かってくる、追っているのは…人間じゃない、体は人間だけど、顔は獣のような。化け物だ。すると、鏡の中から声が聞こえた。
『もう、しつこいわね~『風撃弾』!』
しっかりと聞き取れなかったけど女性が手を化け物に向けて何かを叫ぶと何匹かが吹っ飛ばされた。これって何なのよ、明らかにこの世のものじゃない。そして残りの化け物も動けなくなるのを確認すると金髪女性がこちらにやってきた。
『やっと来てくれたのね、あなたを待ってたわ。このまま侵攻が続けばファリッサは終わってしまう!その前に、あの人を!『サトル』をここへ連れてきて!』
私はいきなりすぎて頭が混乱していた。侵攻?ファリッサ?サトルって誰よ。
「ちょ、ちょっと待ってください!それは私に話しているんですか?それに、サトルって言われても私そんな人知らないし!そこがどこかも分からないのに」
誰でもいい、この状況をちゃんと解説してくれる人が居たら名乗り出てくれ。私には何がなんだか分からない。すると彼女は。
『とにかく、一旦こっちに来てよ!』
と、言うと、彼女はこちらに手を伸ばした、私はまた夢の続きを見ているんだろうか。鏡から手が出てきている。そして私の手首を掴むと、鏡の方へ力任せに引っ張ってきた。鏡の中へ吸い込まれそうになす私を瀬川があわててもう片方の手を掴んで反対方向に引っ張った。
「ルカ様!大丈夫ですか!?」
「これが、大丈夫に見える!?絶対に離さないでね!」
私は必死に足で踏ん張って抵抗したけど、徐々に向こうのほうが力が強くなっている。二人分の力で引っ張ってるのに何で向こう方が強いのよ。
「ルカ様……私…もう、ダメです」
瀬川が力尽き、私の手を離してしまった。そのまま私は叫ぶこともできずに、鏡の中へ吸い込まれていってしまった。
「ルカ様ぁぁぁぁ!!」
鏡の向こうで瀬川の声が聞こえたけど、すぐにその姿も見えなくなり私は力が一気に抜けてそのまま気を失ってしまった。




