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大きな鏡

次の日、私はいつも朝6時に起床する。朝食を摂り、朝の準備をして腰まである超ロングの黒髪を梳かす。いくら家では自堕落な私と言えど、この生活は変わらない。何故かというのは……。



ピンポーン!!



来た。



『ルカ様!お迎えにあがりました!』



ご存知、親衛隊の子達だ。これも別に頼んだ覚えは無い。ある日親衛隊長に私の登校時間を訊ねられ何の疑いもなく応えると次の日からその時間に迎えに来たのだ。一度学校に集合しそして私を迎えに行くという制度だ。家が真逆の子もいるから別にいい、と言ってもそれでは示しがつかない、とあっさり拒否されてしまった。



そんな事もあり、私はこの時間を守らなければせっかく来てくれた彼女達に迷惑を掛けてしまう。だから私は朝はしっかり起きるのだ。そして今日も周りに親衛隊を引き連れて私は登校する。校内へ入るやいなや生徒達が私を見て騒いでいる。



『キャー!ルカ様よ。さっぱり綺麗よね~』



『おい、お前声掛けてみろって』



『無理だよ、本条の周りには親衛隊がいるんだから』



はぁ~、私はおそらくこのまま彼氏もできないまま刺激の無い高校生活を送るんだろうな。どうせなら異世界にでも行ってみたいものだ……あ、そういえば。私は『異世界』と言うキーワードにあのことを思い出した。私の夢の事だ。あの大きな鏡……。私は同じクラスの親衛隊の一人に聞いてみた。言い忘れていたが、私は大抵の人は呼び捨てにする。



「ねえ瀬川(せがわ)、うちの学校に大きな鏡って無かったかしら」



「大きな鏡ですか?………そういえば、美術室に姿鏡があったはずです、選択授業で使ったのを覚えてます」



美術室か…ほとんど行ったことはないけど、もしかしたから。美術室はいつ開いてるんだろう。私の考えを汲み取ったのか瀬川が補足する。



「美術室に用があるのなら、昼休みに美術部員が放課後の部活動の準備も兼ねて、昼食を摂っています。その時間になら開いてると思います」



「そうか、それなら昼食を終えたら私と一緒に美術室に来てくれないか?少し確かめたい事があるんだ」



私がお願いすると、何を今更と言うように当然お供します、と言ってきた。他の親衛隊も着いてきそうになったが断っておいた。そんなにゾロゾロと行ってしまったら美術部員も困るだろう。



そして昼休み、私は瀬川と共に美術室を訪れた。仲良く5人で弁当を食べていた美術部員は私を見るなり急に驚いて、ひそひそと何かを話している。



『ルカ様よね、何で美術室に……』



『わかんないよ、何か探してるみたいだけど…』



私は美術室の中を見回した。見える範囲では鏡は見当たらない。そこへ瀬川が美術部員に訊ねた。



「あなたたち、ここに大きな姿鏡って置いてなかった?私たち、それを探してるんだけど」



そして一人の生徒が、それならこちらに、と準備室の扉を開けた。そこには布で覆われた姿鏡があった。



「美術室にあるのはこれ一枚だけです」



私は布を取り自分の映った鏡にそっと触れてみる。まさかとは思ったがやはり水面に触れたような波紋はできなかった。やっぱりあれは夢だったんだろうか。



「あの、どうかしたんですか?」



案内してくれた生徒が私の顔を覗き込む、今の私たちは周りから見てかなり不思議な人たちに見えるだろう。



「いや、おおきな鏡を探してるんだけど……ここじゃ無かったみたい。ごめんね、お邪魔したわ。行こう、瀬川」



私が出て行こうとするともう一人の生徒が立ち上がった。



「あの!大きな鏡って…ひょっとしてあれじゃないかな」



「ちょっと、それってもしかして」



何かを知っているふうだった。しょせん私の夢だったからそこまで興味は無かったが瀬川が変わりに部員達に聞いた。



「何?もう一つ大きな鏡があるの?」



部員達は応えにくそうにしている。何か理由があるのか?けど、それなら益々気になる。そして最初に口を開いた生徒が。



「ルカ様はこの学校の旧校舎の事を知っていますか?」



「あぁ、知っている」



旧校舎、それは学校の敷地内にありながら随分前に放置されたている、木製の校舎である。数年前に取り壊される事になったが業者の不手際か工地がされないまま老朽化が進みいつの間にか業者とも連絡が取れなくなっている。一般の生徒は立ち入り禁止になっている。それが旧校舎だ。



「私たちは作品提出のために旧校舎を描いていたんです。そしたら、三階の一番右の教室のカーテンが風でめくれて太陽の光が差し込みそれが何かに反射していました。多分それは大きな鏡だったと思います」



旧校舎にある、大きな鏡か。気になる、見てみたい。それが私の夢に出てきた鏡ならばあの女性が。



『おねがい!あの人を連れてきて!』



夢で出てきた女性の言葉が脳裏をよぎる、あの人というのも気になるけど。



「よし、旧校舎に行きましょう」



『えぇ!?』



私以外の生徒が同じ表情、言葉を発した。そして瀬川が。



「ダメですよあそこは、一般の生徒は立ち入り禁止です。いつ崩れるか」



やっぱりダメか、ならば……不本意ではあるが。



「お願い瀬川、あなたにしか頼めないの。私の言うこと…聞いてくれる?」



上目遣いで祈るように手を組む。これをすれば大抵の女子、特に男子は言うことを聞いてくれる。我ながら悪い女だとは思っているが、背に腹は変えられない。私はどうしても確かめたいんだ。



「わ、分かりました、ならば私も最後までついていきます。親衛隊はどうしますか?」



親衛隊か、着いてくると厄介だな。それこそ何人もで行ったら本当に崩れてしまう危険がある。ここは何とか撒くしかないわね。



「瀬川は放課後にここに居て、親衛隊からは私が言っておくわ」



「了解しました」



そして私たちは美術室を後にする。本当に、旧校舎にあるのは私の夢で出てきた鏡なんだろうか。それも放課後になってみないと分からない。私は早く放課後になってほしい一心で午後の授業はほとんど頭に入らなかった。

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